第13話 受難者の悪夢 #2
第13話 続き #2
[15]ー《緑の国》 城 ミレーネ姫の部屋
〈鏡の前に美しく着飾ったミレーネ姫が立っている。その姿を見て、周りの女官達が感嘆の声をあげる。〉
女官長ジェイン「姫様、いかがですか?大変お似合いでございますよ」
ミレーネ(心の声)「〈鏡を覗き込むようにして〉これが私……」
女官長ジェイン「お気に召されましたか?」
ミレーネ「ええ、とっても……」
女官長ジェイン「姫様がお選びになった、そのお召し物は、ノエルが見立てたものでございます」
ミレーネ「〈女官がいる方向へ振り返り〉ノエル、まあ、貴女が?」
ノエル「恐れ入ります〈頭を下げる〉」
ミレーネ「確か、独学で美術や工芸品について学んできたと言っていましたね?色彩の感覚が優れているわ」
ノエル「有難うございます」
女官長ジェイン「本日はお久しぶりのご宴会ということで、少々余裕を持ってご準備に入らせて頂きました。思ったより早くお支度が整い安堵いたしました」
ミレーネ「では宴が始まるまで、もう少し時間がありますのね?」
[16]ーサイモン王子の客室
〈小さめのキャンバスの前に座っているサイモン王子。絵筆を置いて、ふうっと一息つく。その気配を察し従者レックスが近寄る。〉
従者レックス「完成ですか?〈キャンバスの絵を見て〉おお、これは!」
〈キャンバスの中で生き生きとした表情のミリアム王子が微笑んでいる。〉
サイモン王子「先日のデッサンを基に何か描きたくてね。美しい緑の庭を背景に、元気よく駆け回る王子が鮮明に心に浮かぶので、あっという間に完成したよ」
従者レックス「いいですね。白の国で今まで描かれていた絵とは随分、印象が違います。不思議なものですね」
サイモン王子「我が国にはない明るい光や暖かい風、そういった気候のせいだろうか」
従者レックス「私も、ここの空気には非常に眠気を誘われます。どうも丁度良い按配のようで」
サイモン王子「ははは。確かに気持ち良さそうに、よく寝ていたな。ところでケインは?」
〈控えの間から顔を出す剣士ケイン。〉
剣士ケイン「お呼びですか?」
サイモン王子「集中して絵を描いたので、少し外の風にあたりたい。祝宴の時間まで散歩をしようと思う。ついて来てくれ」
[17]ー城の庭 小高い丘にある礼拝堂
〈中で祈りを捧げているミレーネ姫の姿。〉
[18]ー城の庭
〈サイモン王子と従者レックス、剣士ケインが歩いている。礼拝堂から出て来る人達を遠くに見る。〉
従者レックス「あれはミレーネ姫様では?」
〈じっと見るサイモン王子の横顔。一行はそちらへ近付いていく。〉
[19]ー城の庭 礼拝堂がある小高い丘の上 礼拝堂の前辺り
〈礼拝堂から出て来たミレーネ姫。その丘から見える美しい夕暮れの情景に感動する。少し離れて立つ女官と護衛。〉
ミレーネ「何て綺麗なの・・・」
〈涙ぐみながら、大空に向かって手を広げるミレーネ姫。そこへ、サイモン王子達三人が礼拝堂の丘に上って来る。ミレーネ姫が景色に感動している姿を盗み見たように思い、少し決まりが悪いサイモン王子。女官がミレーネ姫のそばに走り寄る。〉
女官「姫様、サイモン王子様です」
〈姫の治りきっていない目に映る三人の姿。慌てて恥ずかしそうに手を下ろし、涙を隠すミレーネ姫。祝宴に向けて着飾っていることもあり、その可憐な姿にドキっとするサイモン王子。会釈しながら姫に近づく。〉
ミレーネ「お恥ずかしいところをお見せしてしまいました。あまりに夕焼け空が綺麗だったものですから。天からの贈り物が届いたように思えたのです」
サイモン王子「分かります。〈空を見上げて〉こんな夕景は白の国では見たことがありません。誠に美しい・・・〈しみじみと感じ入っている様子〉。」
〈お付きや護衛達は少し離れて見守っている。しばしの間、ミレーネ姫とサイモン王子2人だけで同じ景色に感動する時間を共有している。〉
サイモン王子「〈あらためて姫の方に向き直り〉本日は投薬が無事に済み何よりでした」
ミレーネ「〈お礼が遅れたことに気付き急いで〉こちらこそ、改めてお伺いして御礼を述べるつもりでおりました。薬師を連れて来て頂き、本当に有難うございました。王子様には心より感謝いたしております」
サイモン王子「完全にはまだ治っていないと聞きましたが、いかがなのですか?」
ミレーネ「ええ、近くは分かるのですが、全体はまだボンヤリとしか見えておりません。でも、夕焼けの空が分かるなんて、こんな嬉しいことはありませんわ。〈笑いながら〉サイモン王子様のお顔はこの距離ですとはっきりとは見えませんけれど」
サイモン王子「いや、僕の顔はどうでも良いのですが」
〈笑い合うミレーネ姫とサイモン王子。見守っていた従者レックスは、その様子に心の中で喜ぶ。〉
サイモン王子「もっと良くなるように投薬を再度、試みることはお考えではありませんか?」
ミレーネ「欲張らないことに決めましたの。まず見える力が戻ったので、ここから視力を矯正出来るかも知れません。焦らないで参りますわ」
サイモン王子「そうですか」
女官「〈姫のそばに寄り、横から耳打ちして〉姫様、そろそろお時間でございます」
ミレーネ「〈女官に〉分かったわ。〈王子に〉それでは、また後ほど祝宴でお目にかかります〈お辞儀する〉」
〈頷き、会釈するサイモン王子。ミレーネ姫はいったん、城の本館の方へ歩き始めるが、振り向き、もう一度サイモン王子の元へ走って来る。〉
ミレーネ「サイモン王子様。もし宜しければ、我が国の星空もぜひ見上げてみて下さい。夕暮れ時の空と共に、お薦めですから、ぜひ!」
〈そう言い残して笑顔でまた走って戻り、お付きや護衛と合流し帰っていくミレーネ姫。〉
従者レックス「〈姫の後ろ姿を見つめているサイモン王子の横顔に〉ミレーネ姫は、目が治り行動的になられて、ますます魅力が増してきていらっしゃいますね」
サイモン王子「いや、今までも十分魅力的だったよ」
〈再び、心の中で喜ぶ従者レックス。〉
[20]ー城 孔雀の間(祝宴会場) 夜
〈華やかに飾り付けられた大広間。長テーブルが両側に置かれて、その間は空間がある。テーブルに並べられた数々のご馳走。広間の一角を占めた楽団が奏でる明るい曲。笑い合い楽しげな人々の表情。そこへ姫が入って来て、王の隣りの席に着く。女官長ジェインは姫の後ろに待機する。〉
王様「おお。今夜はまた一段と美しい」
ミレーネ「お父様、有難うございます」
女官長ジェイン「お召し物を姫様ご自身でお選びになられました」
王様「そうか。自分で見て選ぶことが出来たのか」
ミレーネ「はい。先ほどはお城の庭に出て、周りの景色も少し楽しんで参りました」
王様「本当に
〈そこへサイモン王子が入って来て、王と姫に挨拶に来る。王にまず一礼し、次に姫と顔を見合わせ一礼し、微笑み合う。〉
王様「サイモン王子、もうすっかり体調は宜しいか?」
サイモン王子「ご心配をお掛けしましたが落ち着きました。祝宴にお招きあずかり、至極光栄に存じます」
王様「それは何よりじゃ。我が国の自慢料理の数々をぜひご堪能頂きたい」
サイモン王子「有難うございます」
〈緑の国の従者が、向かいの長テーブルにサイモン王子を案内する。その隣りの席にはすでに
王様「さあ、外事大臣!乾杯の音頭をとってくれ」
外事大臣「〈立ち上がり〉ここにお集まりの皆様、どうぞグラスをお取り下さい!宜しいですか?〈会場全体を見渡し〉白の国の王子様の歓迎、並びに我が緑の国の王様、お姫様、王子様のご健康を祝して一同乾杯!姫様、ご回復、誠におめでとうございます!」
[21]ー城 孔雀の間
〈盛り上がっている皆の様子。〉
[22]ー城 厨房
〈忙しく仕事をこなしている厨房班の様子。〉
[23]ー城 孔雀の間
〈美味しそうに食事をしているサイモン王子と
〈ほくそ笑む
ミリアム「〈向かいの席を見ながら小声で〉姉様、サイモン王子と医官の間にいる人が姉様の目を治す薬を持ってきてくれたの?あの人、何だか、僕は君が悪くて怖いよ」
ミレーネ「し––。色々なお薬を作るために毒性のあるものにも触れなければならなかったから、皮膚や肌にその影響を受けているのよ。ミリアムは他の人より体の気が弱いから、苦手と思ったら近寄ったりしない方がいいわ。気にせず、あまり見ないようにするのよ」
ミリアム「うん、そうする……」
〈
[24]ー城 孔雀の間から廊下をはさんで向かいにある、お付き用の控えの間
〈他の招待客のお付きに混じり、接待を受けている白の国の従者レックスと剣士ケイン。〉
従者レックス「〈嬉しそうに食べながら〉私達まで有り難いですね」
剣士ケイン「……〈無言で食べている〉」
[25]ー城 孔雀の間
〈サイモン王子側の長テーブル。少し苦しそうに顔を歪める
〈王様側のテーブル。ミレーネ姫は王と楽しそうに談笑している。ミリアム王子が落ち着かなくなり、キョロキョロと辺りを見回す。気付いたミリアム王子付きの侍女がやって来て、後ろからそっと声をかける。〉
ミリアム付きの侍女「王子様、どうされましたか」
ミリアム「お手洗いに行きたいんだけど……」
ミリアム付きの侍女「間に合いますか?急ぎましょう」
ミリアム「急に行きたくなったの。〈泣きそうに〉漏れちゃいそう……」
ミリアム付きの侍女「大変!何とか我慢して下さい。いいですか?そおっと椅子から降りましょう」
〈漏らさないように、そっと動きながら、急いでお手洗いに向かうミリアム王子とお付きの侍女。王様側の長テーブルでは、かなり辛そうな
医官「顔色が良くないようですが、いかがされましたか」
医官「それはいけません。すぐ医務室に一緒に参りましょう」
[26]ー城 厨房
〈次々運ばれて来る汚れた食器を皆がどんどん片付けている。忙しさがひと段落してきたので、働きながら雑談を始める厨房班員たち。〉
厨房班 その1「聞いた?今日、姫様の薬を毒見したのは、夏組新入りの美化班の人らしいわよ」
厨房班 その2「聞いたわよ。それで、早速、女官に昇進したらしいわ。異例中の異例よね」
〈驚く初春組の2人や、夏組新入りの2人。夏組新入りの2人はマーシーに話しかける。〉
夏組新入り その1「今の話だけど、ノエルのことよね?」
夏組新入り その2「マーシーは知っていたの?」
マーシー「毒見役のことまでは知っていたけど、女官の話は今、知ったわ」
夏組新入り その1「女官になったら西門の方へ部屋も変わるわね。ねえ、ノエルって初めからちょっと私達とは違うって感じがしなかった?」
夏組新入り その2「凄いわね。命を懸けて、あっという間に勝ち上がって行った訳ね」
〈何とも言えず戸惑った顔のマーシー。〉
[27]ー孔雀の間近くのお客様用お手洗い(男子用)
〈お手洗いの前にミリアム王子と、ミリアム付きの侍女がいる。〉
ミリアム付きの侍女「ミリアム様のお部屋に近い、いつものお手洗いまで我慢して歩けますか」
ミリアム「絶対、無理!ここで行く!」
〈1人でお客様用の個室トイレに飛び込むミリアム王子。〉
ミリアム付きの侍女「〈お手洗いの入り口から中に向かって〉大丈夫ですか?」
ミリアム王子の声のみ「間に合ったよ」
〈そこへハンカチで口を押さえた
〈お手洗いからミリアム王子が出てこないため、廊下から声をかけるミリアム付きの侍女。薬師がいるため、離れた所から声掛けする。〉
ミリアム付きの侍女「ミリアム王子様、大丈夫ですか?お返事して下さい」
〈洗面台の前にいた
〈うつむき加減で出てくるミリアム王子。洗面台の前で手袋を外す
ミリアム王子「〈薬師に〉すみません……。〈外の侍女に向かって、少し大きな声で〉大丈夫。すぐ行きます」
〈もう一つある洗面台の前に立ち、隣りにいる
ミリアム(心の声)「お礼を言わなきゃ……」
#3へ続く
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