第13話 受難者の悪夢 #1

シーズン1 第13話 受難者の悪夢 #1


[1]ー《緑の国》 城 王の会議室


〈王の側にミレーネ姫、医官、医女がいる。少し離れて薬師ゴーシャ魔王グレラントと毒見役をしたノエル、外事大臣、民政大臣がいる。さらに離れて、他の大臣や重臣達、ジュリアス、護衛が見守っている。〉


王様「〈医女に〉どんな様子だ?」


医女「〈姫の目を診察して〉完全ではありませんが、随分と良くなられました」


ミレーネ「お父様、全く何も見えなかったことを思えば十分ですわ」


薬師ゴーシャ魔王グレラント(心の声)「なぜだ?なぜ、完全に治っていない・・・?」


王様「薬師ゴーシャ殿も、毒見役のノエルもご苦労であった。心より礼を言うぞ」


薬師ゴーシャ魔王グレラント「〈腑に落ちない気持ちのまま〉王様からの温かいお言葉、何より有り難く存じます。お役に立てて幸いでございます」


ノエル「身に余るお言葉を有難うございます」


王様「二人ともどんな望みがあるか?」


外事大臣「王様に遠慮なく申し上げるが良い」


薬師ゴーシャ魔王グレラント(心の声)「〈考え込みながら〉・・・わしに法外な望みを言わせぬよう、姫は完全に治っていない振りをしているのだろうか?医女も口裏を合わせているということか?」


外事大臣「薬師殿?」


薬師ゴーシャ魔王グレラント「姫様の目がまだよく見えぬとは、もう少し先に効き目が現れてくることも考えられます。結果がはっきりするまで、今しばらく私の望みは保留にさせて頂いても宜しいでしょうか?」


王様「ふむ、良いだろう。〈ノエルに〉そなたは、どうする?」


ノエル「私は、もし許されるのでしたら、姫様付きの女官にして頂きたく存じます」


王様「女官だと?まだ、城に上がったばかりではないか?」


外事大臣「遠慮なくとは言ったが、もう少し自分の立場をわきまえて述べよ。あまりに突飛なことを言うではない」


ミレーネ「あの、お父様、私からもお願いします」


民政大臣「姫様?」


王様「姫まで何を言い出すのか?」


ミレーネ「私のために命懸けで毒見役を引き受けてくれたノエルを信用しております。勇気と知恵のある、この女性をぜひ私付きの女官にして下さい。ノエルは、これまで何度も試験に挑戦し、やっと今年合格したと聞いております。新人でも年齢は私より上ですし、色々相談も出来ますもの」


〈ノエルは頭を下げたまま、じっとミレーネ姫の話を聞いて待っている。〉


ノエル(心の声)「ええ、そうよ。秘密の計画に加担した私を、姫様だって側に置きたいと思うわ。これからまだ計画を進めてゆくならば、他の人を使うより私の方が都合がいいはずだもの」



[2]ー城 情景


〈城のあちらこちらで皆が口々に「姫様の目に光が戻った!」「目が良くなられたそうだ!」との声が上がっている。ポリーやミリアム王子も、女官や侍女達と一緒に喜ぶ姿。〉



[3]ー城 サイモン王子の客室


〈従者レックスに報告をしに来た緑の国側の従者。従者レックスは報告を扉の所で聞き、サイモン王子の元へ戻る。〉


サイモン王子「成功したのか?」


従者レックス「薬師を連れて来た甲斐がありましたね」


サイモン王子「安堵したよ」



[4]ー城 ミリアム王子の部屋へ向かう廊下


〈王様の会議室から、まずミリアム王子の部屋へ向かうミレーネ姫。ジュリアスと護衛も一緒に行動している。そこへポリーとミリアム王子が部屋から走って出て来る。〉


ミリアム「姉様!僕の顔が見えるの?〈抱きつく〉」


ミレーネ「ええ。6年間、一番見たかったよ。〈近くでじっと見て〉ミリアムは目元がお母様にそっくりだわ」


〈次に隣りのポリーを抱き締め、間近で顔を見る姫。〉


ミレーネ「私の誕生日のパーティーで最後に見たポリーをずっと心に思い描いていたわ。もう、こんな素敵なレディーになっていたのね。当たり前のことなのに不思議な気がするわ」


〈嬉しそうに笑い、今度はジュリアスを引っ張るポリー。〉


ポリー「ほら、ジュリアスもご対面よ」


〈少し躊躇ためらいがちに姫の前に立つジュリアス。顔を近づけるミレーネ姫。ドギマギするジュリアス。〉


ポリー「〈横から〉案外、かっこいいでしょ?」


姫「〈微笑み〉ええ。ジュリアスは想像通りだわ」


ポリー「ミレーネ、後は何が見たい?」


ミレーネ「お城の中すべてと・・・それに、お庭や森!ええ、まず外へ行きたいわ!」


ミリアム「みんなで一緒に行こうよ!」



[5]ー城 階段


〈ミリアム王子と手を繋ぎ楽しそうに階段を降りていくミレーネ姫。後に続くジュリアスとポリー。姫は、もう片方の手で首飾りの石を触っている。〉


ミレーネ(心の声)「今までも、この力を借りて記憶を頼りに一人で歩くことが出来たけれど、現実の世界はやはり違うわ。周りに存在する一つ一つの何を見ても愛おしい・・・!」


〈階段を降りたところにある、城の本館の入り口からそのまま庭に出る姫一行。初夏の陽光と風がミレーネ姫を包み込む。〉



[6]ー城の庭


ミリアム「〈空を指差し〉姉様、見て!真っ青で綺麗な空!」


ミレーネ「〈見上げて〉本当に・・・。美しい景色の素晴らしさを一緒に分かち合えることが出来て嬉しいわ。〈少し涙ぐみながら〉生まれ変わったみたいよ」


〈ミリアム王子と手を繋ぎ、庭を走るミレーネ姫の姿。〉


ポリー「〈二人を追いかけて〉今日の風は最高に気持ちがいいわね!」


〈皆の様子をゆっくり歩きながら見守るジュリアス。〉


ジュリアス(心の声)「このところ城で不可解なことが続いて何かと不安だったが、今だけはミレーネ姫の目に光が戻ったことを素直に喜ぼう!本当に良かった!」



[7]ー城 厨房


厨房班長「近々開かれる予定だった祝宴が今夜開かれることに急遽きゅうきょ決まった。姫様の目の回復祝いと、白の国からの客人達の歓迎を兼ねて行うそうだ。準備が間に合うか大変だが、皆、頑張って欲しい」


厨房班員全員「はい!」



[8]ー城の庭 続き


ミレーネ「〈ジュリアスとポリーにお伺いを立てるように〉このまま森へも行っても良いかしら?」


ジュリアス「〈その意味を理解して〉ポリー、一緒に行って来たらいい。僕とミリアム王子は少し武術の稽古に行ってくるよ。その途中で、護衛に森へ向かってもらうよう声を掛けておくから」


ミリアム「今日はポリーじゃなくてジュリアスが教えてくれるの?」


ポリー「そう。私は当分、教えてあげられないんだ」


ミリアム「どうして?」


ジュリアス「〈ミリアム王子の頭を撫でて〉大人の事情だよ。僕が先生でもいいだろう?」


ミリアム「うん。じゃあ、姉様、後でね」


〈手を振りながら城の鍛錬場の方へ行くミリアム王子とジュリアス。手を振り返すミレーネ姫。ミレーネ姫とポリーは森の中へ歩き始める。〉


ポリー「目が見えるようになって、あの薬師の姿を見たでしょ?」


ミレーネ「ええ。まだ、はっきりではなく、ぼんやりとですけれど」


ポリー「かなり気味が悪くなかった?あの薬師の薬を飲んで、全く体に異常はないのよね?」


ミレーネ(心の声)「ポリー、心配してくれているのに本当のことが言えなくて御免なさい」


ミレーネ「大丈夫よ。〈胸元に隠しているハンカチを、ドレスの上から押さえながら〉かえって飲む前に顔を知っていたら躊躇ためらったかも知れなかったわね」


ポリー「服薬と同じ時間の頃、関係のないはずなのに、あの剣士が廊下を彷徨うろついていたし。薬が効いて成功したと言っても、どこか怪しくない?」


ミレーネ「そうでしたの?当分、まだ気を抜けませんわね」


ポリー「まあ、サイモン王子はいい人そうだけれど〈笑う〉」


〈あら、そうなの?っという顔のミレーネ姫。〉



[9]ー城 薬師ゴーシャの客室


〈剣士ケインが合図のノックをして滑り込むように入って来る。〉


薬師ゴーシャ魔王グレラント「ここへ来て大丈夫なのか?」


剣士ケイン「祝宴が始まるまでサイモン王子は絵を描くとのこと。始め出したら他には注意を払いません。レックスは部屋で待機していますが、うたた寝しています。作戦ですが、薬に毒は仕込まなかったのですか?」


薬師ゴーシャ魔王グレラント「最後の最後まで迷ったが、結局元の通りに呪術を解く方にした。じゃが・・・。それなのに、姫の目は完全に治っとらんと言うではないか?なぜだ?」


剣士ケイン「それもグレラント様の作戦のうちかと思いましたが違うのですか?」


薬師ゴーシャ魔王グレラント「ここでは、よく分からんことが色々起きる。王に望みを聞かれたが、状況が把握出来ぬままでは迂闊うかつなことは頼めぬと思って保留にしておる」


剣士ケイン「もう少し様子見でお待ちになる訳ですね?」


〈苦虫を噛み潰したような顔で頷く薬師ゴーシャ魔王グレラント。〉


剣士ケイン「分かりました。それから、一つ報告です。6年前のマリオらしき人物が、城下町で店をやっており、サイモン王子達と訪れました。何も問題はないと思いますが」


薬師ゴーシャ魔王グレラント「まあ、お前の今の風貌じゃ、どう考えても白杖の少女とは結びつかぬだろう。念のため、その店に行く時は、マリオと距離を取っておくことじゃな」


剣士ケイン「〈お辞儀して〉では戻ります」


薬師ゴーシャ魔王グレラント「〈丸薬の入った小瓶を渡し〉使方の薬だ。お前が持っているがいい。見つかるでないぞ」



[10]ー城 森の奥


〈帰らずの森の手前、神秘の木の近くまで来て、ミレーネ姫が足を止める。〉


ミレーネ「ポリー、ここからは一人で行ってもいいかしら?目が治ってコットンキャンディーと会えることに感謝の祈りを捧げたいの」


ポリー「いいわよ。ここで待っているから、ゆっくり行って来て」


〈ミレーネ姫が神秘の木の前に行く。少し離れて見守っているポリー。〉


ミレーネ「コットンキャンディー?」


〈木の枝から羽ばたき、姫の手に乗るコットンキャンディー。〉


ミレーネ「ああ、分かるかしら?コットンキャンディー、私、目が見えるようになったのよ」


〈ピピッと鳴き、小さな頭を姫の手に擦りつけるコットンキャンディー。〉


ミレーネ「喜んでくれているのね。神様、有難うございます。6年前のあの日からここまで辿りつけましたことに感謝致します」


〈ミレーネ姫は手の上のコットンキャンディーをそっと撫でて、目を近づけてよく見る。〉


ミレーネ「手触りで毛並みが変わってきているとは感じていたけれど、あなたも6年で少し老けたのじゃなくって?」


〈ピッと怒るコットンキャンディー。〉


ミレーネ「御免なさい、心配して言ったのよ。〈また、頭を撫でる。そして、ハンカチを取り出し、ハンカチの中の薬を見せ〉コットンキャンディー、これはとても大切な物。誰にも知られてはいけないから、あなたに預かって欲しいの」


〈背伸びをして、手を伸ばし、コットンキャンディーの寝ぐらである巣にハンカチを入れる姫。〉


ミレーネ「こうして巣の中に入れて置くから守ってね。危険なものかも知れないから決して食べたりしてはダメよ」


〈姫の目をじっと見て、ピピッと鳴くコットンキャンディー。〉


ミレーネ「また、会いに来るわね」



[11]ー城 森


〈ポリーと城へ戻るために歩いているミレーネ姫。そこへ護衛が走って来る。〉


護衛「姫様。今夜、祝宴が開かれることが急遽決まったそうです。そろそろ、お支度のため、お部屋にお戻り下さりますよう、女官長からの伝言でございます」


ポリー「えーー!?祝宴は今夜なのですか?」


ミレーネ「ポリー、どうしたの?そんなに、あなたが驚くなんて」


ポリー「まずいのよ、もう少し練習しないと・・・」



[12]ーミレーネ姫の部屋


〈ミレーネ姫はまだいない。女官長ジェインと、他数名の女官がいる。そして、新しく女官に抜擢されたノエルの姿。〉


女官長ジェイン「ノエル、新人で姫様付きの女官になるなんて、お城の歴史始まって以来よ」


〈他の女官達もざわめく。『毒見役に志願したのですって』『姫様に随分気に入られたとか』など、ボソボソ囁く声。〉


女官長ジェイン「でも、ここでは皆を公平に扱いますから、そのつもりで。仕事がこなせなければ、すぐ美化班へ逆戻りよ」


〈『それもキツイわね』と顔を見合わせる、他の女官達。〉


ノエル「頑張ります。宜しくお願いします」


女官長ジェイン「さあ、祝宴のために姫様がお召しになるドレスを用意しましょう。幾つか候補を挙げて最終的には姫様ご本人に選んで頂きます。姫様が6年ぶりにご自身でお決め出来るなんて、本当に素晴らしいこと〈涙ぐみそうになる〉」


〈皆でドレスを見立てている中、姫も笑顔で部屋に戻って来る。〉



[13]ーサイモン王子の客室


〈様子を見る剣士ケイン。一心不乱で絵を描いているサイモン王子。相変わらず、そばでうたた寝をしている従者レックス。〉



[14]ー城の中 廊下


〈皆が祝宴準備で右往左往している。その中を歩いている剣士ケイン。ふと、耳に聞こえてきたピアノの曲。練習しているポリーの方に少し近づく。〉


剣士ケイン「これは・・・あの曲」


【ケインの回想: 昨日 城下町から城へ帰る道 『カノンに捧ぐという曲です』と言うポリー。】


剣士ケイン(心の声)「カノン、カノン・・・」


〈その場に立ちすくんでいる剣士ケイン。その耳に誰かの懐かしい声が聞こえる。〉


【ケインの回想: いつか遠い昔 『カノン、私の可愛いカノン・・・』と言う、誰か分からない女性の優しい声。】


剣士ケイン(心の声)「今のは誰なんだ・・・。誰の声!?」


〈遠い記憶がさざ波のようにピアノの調べに乗って押し寄せて来る感じ。思わず、ピアノを弾くポリーの方へもう少し近寄る。ポリーからはケインの姿は見えない。〉


【ケインの回想: いつか遠い昔 『カノン、おいでよ、こっちだよ』と言う男の子の声。他の人達の笑い声も聞こえて来る。】


〈ケインはピアノを弾くポリーを不思議そうに見つめたまま。そこへミリアム王子を部屋に送ったジュリアスが通りかかる。ジュリアスに気付き、慌てて会釈し、その場を去るケイン。ピアノを弾くポリーの隣りへ立つジュリアス。〉


ジュリアス「急にピアノの練習など珍しいな」


ポリー「〈弾くのをやめて〉ジュリアス!これは父様の陰謀なの。今夜の宴で私がピアノを弾かされるのよ」


ジュリアス「それで、この曲を?」


ポリー「だって、私がまともに弾けるのはこれぐらいしかないから」


【ジュリアスの回想: 約16〜17年前 一人の小さな女の子の笑顔。おぼろげに思い出す感じ。】


ジュリアス(心の声)「カノンか。懐かしいな。以前はこの曲を聞くのが辛かったが、もうすぐ、あれから20年近くなるのか・・・」


ポリー「どうしたの、ジュリアス。考え込んで・・・。私の演奏がそんなに下手?」


ジュリアス「いや、ポリーにしては上出来だろう。それよりサイモン王子の護衛の剣士がさっき、じっとポリーを見ていたよ。心当たりは?」


ポリー「何それ!集中したいのに変なこと、言わないで!」




#2へ続く

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