第12話 封印された記憶の鍵 #3

第12話 続き #3


[23]ー《緑の国》 城 厨房 夜


〈皿洗いをしている厨房班新入りマーシー。そこへ入って来るポリー。〉


ポリー「また一人で皿洗いしているの?」


マーシー「ポリー様!はい。あっ、でも全然平気です、これぐらい〈笑う〉。ポリー様は夜食のお時間ですか?」


ポリー「やり慣れないことを父にさせられて、何だか疲れちゃった。美味しいものでも食べないと元気がでないわ。〈戸棚からお菓子を出して〉はい、後でマーシーも食べて」


マーシー「有難うございます」


ポリー「〈マーシーの側で食べながら〉マーシーもお城に上がってすぐに、色々なことがあったわね」


マーシー「母とモカのことでは本当にお世話になりました。あの後、刺客は結局見つからなかったのですか?」


ポリー「そうなのよ。〈少し声を潜めて〉森に逃げ込んで行方知れずってことになっているけれど、どう思う?あの曲者くせものは相当、訓練を積んだ、やり手なのに」


マーシー「〈思い出すように〉若い人でしたね・・・」


ポリー「〈食べながら頷き〉そう、そう」


マーシー「剣先の動きに特徴があって・・・」


ポリー「〈次々食べながら頷き〉そう、そう・・・って、えっ!?マーシー、あなた、武術が分かるの?実は習っていたとか?」


マーシー「いえ。あの、私、自分では出来ないのですけれど、武術の練習や試合を見るのが大好きなんです」


ポリー「待って、待って。武術を見極める目はあるってことよね」


マーシー「そんな・・・。本当にただ好きで見ているだけなんです」


ポリー「さっきみたいに自分が感じた通りを言うだけなら出来るでしょ?これは、すごく大事なことよ。今度、武官の昇級試験が行われるのは知っている?」


マーシー「はい。2年に1回ある試験で、武術の大会のようだと聞いています」


ポリー「もしもよ、もし、あの刺客が内部の人間で、城のどこかで今も平然と過ごしているならば、素知らぬ顔して試験に出場するのではないかとジュリアスが山をはっているの」


マーシー「そんな!武官の誰かが刺客ですか!?」


ポリー「マーシーも気付いていたじゃない?あの曲者くせものは高度な訓練を受けた若者だって。お城に紛れ込んでいるならば、武官である可能性も否定できないってことよ。ジュリアスは今度こそどんな些細なことも見落とさないように必死なの。確かに、あの刺客の動きには他にはない特徴があった。それが今のところ、唯一の手掛かりよ」


マーシー「初めて見る、不思議な動きでした」


ポリー「あの夜、刺客を間近で見ていたマーシーが、試験を見に来てくれるなら、より心強いわ。当日、ぜひ一緒に協力してね」



[24]ー城下町 画廊マリオ 夜


〈隣の店では、ジュリアスの母ナタリーがまだ残って残業している。窓越しに、その姿を見ながら、お酒を一人で飲んでいる武官アリ。テーブルの上には、父である外事大臣の執務室から、隠し持ってきた古い絵。そこにアリの友人2人が入って来る。急いで絵を隠すアリ。2人がアリと同じテーブルに着く。〉


アリの友 その1「何だ、一人で来ていたのか。今夜はやけに飲むペースが早いんじゃないか」


アリの友 その2「城下町では、お城から帰ってきた子どもの目が治った話で大盛り上がりさ。どんな良い薬を処方してもらったのかってね。すごい薬師が隣りの国から来てるらしいな」


武官アリ「噂ではそうなっているのか」


アリの友 その1「そうなっているのかって本当は違うのか?」


武官アリ「いや、何でもない・・・〈また酒を飲む〉」


アリの友 その2「何か今日は荒れているな。親父さんにまた何か怒られたのか?」


武官アリ「ほっといてくれ」


アリの友 その1「まあ、飲みたい日もあるだろう。だけど、昇級試験だけは頑張ってくれよ」


アリの友 その2「ジュリアスには勝ってくれないと、俺たちの賭けが・・・」


アリの友 その1「〈友1が友2の口を慌てて塞ぎ、誤魔化すように〉ははは」


〈窓越しに、ナタリーがオルガンを弾き始める姿が見え、その音色が画廊マリオまで届く。〉


武官アリ「〈その姿を酔った目でじっと見て〉ジュリアスだけは何が何でも叩きのめしてやる!」



[25]ー城 ミリアム王子の部屋 夜


〈そっと入って来るミレーネ姫。眠っているミリアム王子の側に行く。〉


ミリアム王子付きの侍女「姫様。こちらでお休みになられますか」


ミレーネ「いいえ、今夜は大丈夫ですわ。昨日までより落ち着いています。眠る前に、もう一度、ミリアムの側にいたいと思っただけですの。少しだけ、ここにいて、部屋に戻りますわ」


〈侍女が離れたのを見届け、自分の首飾りを触りながら、そっと眠っているミリアム王子の頬に手を乗せると、どこからか遠くにタティアナの声が聞こえてくる。〉


タティアナ(声のみ)「気を付けて。足らねば与えられる。使い過ぎては枯れる」


ミレーネ(心の声)「私もミリアムも、きっと健康そのものだったら、この力を与えられなかった・・・。そして、むやみに力をふるえないのですね。力があまりに強過ぎて心身が負けてしまうのだわ」


タティアナ(声のみ)「ネツケバ繁る。守るために使われる。無償の愛と祈りで満ちる。城外の名もなき花々を忘れずに」


ミレーネ「ネツケバ繁る・・・ここの意味はまだ謎だけれども、その次に続く言葉は、モカちゃんの事件のお蔭で少し分かった気がするわ。城外の名もなき花々とは市井しせいの人々を指していて、ミリアムがモカちゃんを助けたように、民を心から救いたいという気持ちがあれば首飾りはその偉大なる力を発揮する。そういうことでは、ないかしら。首飾りの光はもしかしたら、私よりミリアムが進む道を照らしているのかも知れない・・・」


〈もう一度、顔を近付け、ミリアムの顔を見て、首飾りを触るミレーネ姫。〉


ミレーネ「ミリアムは素晴らしい力を秘めているのね。いつか、この首飾りをあなたに渡すまで私がしっかり預かっておきますから。決して誰の手にも触れさせぬように」



[26]ー情景 朝


〈城や城下町の朝の様子。〉



[27]ー城下町 画廊マリオ 朝


〈店の準備をマリオがしていると、妹セナが入って来る。〉


マリオ「セナ、どうしたんだ?今日は、姫様の服薬の日だから、ポリーさんは練習に来ないだろう?」


セナ「そうよ。ポリーさんは練習も、隣りのお手伝いも出来ないと思う。だから、私が隣りのお店を少し手伝おうと思ったのよ」


マリオ「この頃、こっちに来てばかりで、鍛錬所の方は大丈夫なのか?」


セナ「お弟子さん達を忘れていないから安心して。両方、うまくやっているわ。今日は少しの間だけでもポリーさんの代わりになればいいかなって」


マリオ「やけに張り切っているな。お前、ジュリアスによく思われようと頑張っているのか?」


セナ「お兄ちゃんったら、そんなの質問、恥ずかしいからやめてよ」


マリオ「ええっ!本当にそうなのか?ジュリアスは難しいぞ。この6年間、ミレーネ姫の話しかしないからな」


セナ「でも、今、お城に白の国の王子様が滞在していらっしゃるじゃない?お姫様と王子様。これは両国に関わる結婚話に発展するって、最近では町中の噂よ。もう、お兄ちゃん、鈍いわね〜。いくら、ずっとお側にいても、ジュリアスさんは従兄弟だし、姫様のお相手になることはないと思う」


マリオ「だからと言って・・・」


セナ「お兄ちゃん!もう、それ以上は言わないで。とにかく、私はお隣りに手伝いに行ってくるから〈出て行く〉」


〈窓から隣りの店を見るマリオ。ジュリアスの母ナタリーとセナが仲良く笑い合っている様子が見える。〉


マリオ「まあ、おばさんとは仲良くやっているが、どうしたって無理だろう。セナでは、考ることもなすことも、姫様よりポリーさんに近いからな」



[28]ー城 孔雀の間 朝


〈扉から入って正面には王座。扉から右横は、ぼんやり透けて見える程度の布張りの衝立で三方から、壁の前を囲み、その中にテーブルと椅子2脚が置いてある。衝立の外、すぐ横で、医官、医女、薬師、護衛が控えている。扉から入って左側の、衝立の向かい側には大臣、重臣達が立っている。ジュリアスもここにいる。〉


近衛隊長「〈隣りの外事大臣に〉いよいよですな」


〈頷く外事大臣。そこへ女官長ジェインに手を引かれたミレーネ姫と、毒見役ノエルが入って来て、衝立の中に入り、椅子に座る。ジェインは下がり、医女が薬師の用意した丸薬と、水のグラスを運んで来る。医女は下がり、衝立の中はミレーネ姫とノエルのみ。まず、ノエルが丸薬を水で飲もうとする。少し離れた物陰に潜んでいる剣士ケインの姿。神妙な薬師ゴーシャ魔王グレラントの顔。〉



[29]ー【ノエルの回想 : 1日前 書架室 】


〔ミレーネ姫とノエルが顔を近づけ、二人だけで静かに話している。〕


ノエル『飲む振りだけで宜しいのですか?』


ミレーネ『ええ。わたくしのために命を賭けようとしてくれたあなただけにお話します』


ノエル『でも、それでは姫様の目は治らないままなのではないですか?』


ミレーネ『実は少し良くなってきていますの。だから、薬師の薬が効いた振りをすることが今回の目的なのです。これは極秘の計画ですけれど、あなたはモカちゃんの事件の時も協力してくれたと聞いていますわ。信頼出来ると信じています』


ノエル『分かりました。お引き受けします』


ミレーネ『〔少し微笑んで〕ただ飲むより、をするのはある意味難しいかも知れませんが、宜しくお願いしますね』



[30]ー城 孔雀の間 続き


〈手に丸薬と水のグラスを持っているノエル。〉


ノエル(心の声)「何のためのお芝居なのか、私には分からないけれど、私がこうして一役買うことには変わりはないのよ。落ち着いて。〈深呼吸する〉堂々とやってみせるわ」


〈ノエルがさっと薬を飲む。(実際には振りをする)。何も起こらない。見守っていた一同、ほっとため息をつく。薬師ゴーシャ魔王グレラントの何とも言えない顔。物陰にいる剣士ケインは、まだ、いつでも飛び出せる体勢で隠れている。〉


ノエル「姫様、毒見が終わりました」


〈ミレーネ姫の手が届くように、薬とグラスの位置を手を取って教える(振りをする)。ここでも、すでに見えている姫は、ぼんやりと物の場所は分かる。姫が薬を手に取る。その動きを、衝立越しに見つめるジュリアス。〉


ジュリアス(心の声)「首飾りの石が光れば、ここからでもすぐに分かる。ノエルも飲み、石も危険を知らさぬということは、薬は安全なのか・・・」


〈ミレーネ姫が手にした丸薬をじっと見つめる。手にした近い距離にある物は、もう見えるため、姫が丸薬を見つめていると、なぜか、その薬に吸い込まれそうになり、ふと飲んでしまいたい衝動に駆られてくる。横から、その様子を心配そうに見るノエル。〉


ノエル(心の声)「姫様?どうしたのかしら?まるで引き込まれそうに薬を見ていらっしゃるわ」


〈嫌な予感がして周りを見回すが、医女も衝立の外に下がり、ここにはノエルしかいない。〉


ノエル(心の声)「毒見をしていない薬を、まさか飲んでしまったら・・・」


〈何かに操られるようにミレーネ姫は丸薬を口に持っていこうとする。〉


ノエル「〈思わず、横から姫を揺さぶり〉姫様!!」


〈ハッとなり、急いで薬を隠すミレーネ姫。皆、どよめく。〉


王様「何事じゃ!」


〈同時に護衛、女官長、ジュリアスが衝立の中に飛び込む。医女も駆け寄る。〉


ミレーネ「大丈夫です。何でもありませんわ。緊張し過ぎて、少し目眩がしたのです。皆、下がって頂戴」


〈いったん、ノエルを残して全員が衝立の外へ出る。薬を飲む振りをして、グラスの水を飲むミレーネ姫。〉


ミレーネ「〈少し落ち着き、小声でノエルに〉危なかったわ。有難う」


〈ノエルが頷き、飲んだことにした丸薬をハンカチに忍ばせミレーネ姫に渡す。ミレーネ姫はそのハンカチをドレスの胸元の奥にそっと隠す。衝立の外では、皆、その後の様子を気にして、そわそわした様子で待っている。〉


ミレーネ「〈少し大きな声で〉ジェイン、ここへ」


〈女官長ジェインが急ぎ、姫のところへ来る。〉


ミレーネ「〈ジェインを見て〉飲み終わりました」


女官長ジェイン「〈衝立の外に出て〉姫様、無事、お薬を飲み終わられました!」


〈見守っていた一同から安堵の声が漏れる。ミレーネ姫が一人で衝立の中から出て来て、顔を上げ、まっすぐ前を見ながら王の御前に進む。再度、しんとした空気が張り詰める。〉


王様「大丈夫か、姫?先ほどは何か良からぬことでも起こったかと驚いたぞ。どうだ?余の顔が見えるか?」


ミレーネ「まだ、はっきりとは見えませんが、ぼんやりと分かります」


〈一同、おおっと小さく感嘆の声を漏らす。〉


王様「もっと近くへ」


ミレーネ「〈王の手を取り、顔を近づけ〉ええ。昔と変わらないお父様のお顔ですわ〈抱きつく〉」


〈見守っていた一同、どっと歓声を上げる。〉


王様「ああ、姫よ、良かった・・・〈抱きしめながら、離れているところへ向かって〉薬師、良くやったぞ!」


〈お辞儀をしながら、複雑な表情の薬師ゴーシャ魔王グレラント。ここまでの状況を見届けて、剣士ケインは物陰から誰にも気付かれずに、そっと去る。〉



[31]ー城 孔雀の間近くの廊下


〈様子が気になって落ち着かないポリーが近くまで来てウロウロしている。人の気配を感じて、急いで隠れるポリー。通り過ぎ、すぐ姿を消した剣士ケイン。そっと陰から見ていたポリー。〉


ポリー(心の声)「なぜ、白の国の王子の護衛が今、この場所に?」



※第12話 終わり



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