第12話 封印された記憶の鍵 #2

第12話 続き #2


[13]ー《緑の国》 城 厨房外の洗い場


マーシー「〈戻って来て〉すみませんでした。あの・・・。この後、何をしたらいいですか?」


〈無視している初春組先輩2人。困ったマーシーは、作業をしている夏組新入り2人に声をかける。〉


マーシー「これ、私も手伝うわね」


初春組 先輩A「〈すかさずマーシーをさえぎり、夏組新入り2人に〉それぐらい、あなた達だけで出来るでしょ!」


夏組2人「はい・・・」


マーシー「じゃあ、私は何をすればいいですか」


初春組 先輩B「自分で考えれば?」


初春組 先輩A「いつも自分の都合の良いように勝手にしているじゃない。やっぱり母親のコネで入った人は違うわね」


マーシー「そんなつもりじゃ・・・」


初春組 先輩B「ぼおっとそこに立っていられても仕事の邪魔なんだけど!」


〈いたたまれなくなって、その場を離れるマーシー。〉



[14]ー城下町から城へ帰る道


〈サイモン王子、従者レックス、ポリーが並んで歩き、その後ろから剣士ケインがついて行く。〉


従者レックス「いや、中々いい人でしたね、あの店の店主は」


ポリー「マリオさん?兄と以前は学友だったんです。絵も上手ですよ。お店に飾ってあった絵のほとんどはマリオさんが描いたものです」


サイモン王子「あの、肖像画の数々ですか?」


ポリー「はい。今度お店に行かれた時は、ぜひ似顔絵を描いてもらうことをお勧めします。あっという間に特徴を捉えて描いてくれますから」


従者レックス「面白そうですね」


剣士ケイン(心の声)「似顔絵・・・それに、マリオという名前。まさか、6年前に仲間が逃した、あのか?」


サイモン王子「店主自身が実際に使っているから、画材についても詳しく、環境に配慮したものを多く扱っていることも気に入ったよ」


従者レックス「隣りがまた、ポリーさんのお母さんのお店とは驚きました」


ポリー「まだ開店したばかりなんです。次は是非、母の店にもお寄り下さい」


従者レックス「そう言えば、さっきポリーさんが弾いていた曲は何ですか?」


サイモン王子「初めて聞く曲でしたが、綺麗なメロディーでしたね」


ポリー「有難うございます。母が作った曲なんです」


従者レックス「わあ、そうなんですか?」


剣士ケイン(心の声)「なぜ、自分はそんな曲に聞き覚えがあるのだ?」


ポリー「“カノンに捧ぐ”という曲です」


剣士ケイン(心の声)「!?」


〈剣士ケインは、何故だが分からぬが、心の中がひどく動揺している。〉


サイモン王子「“カノンに捧ぐ”とは、どなたかのお名前なのですか?」


ポリー「さあ、そう言えば今まで題名の由来は聞いたことがなかったのです。母はオルガン奏者だったので、あの有名なオルガン曲のカノンにちなんだのではと勝手に思っていました」


サイモン王子「ああ。確かに、優しい旋律が似ています」


ポリー「本当は近々開かれる予定のうたげで、サイモン王子様達にお披露目するために練習していたのですが、先にお耳に入ってしまいましたね〈笑う〉」


サイモン王子「何度でも聞いてみたくなる曲ですよ」


従者レックス「また、楽しみですね」


剣士ケイン(心の声)「カノン、カノン・・・」



[15]ー城 裏庭 畑がある辺り


〈マーシーがため息をつきながら歩いている。〉


マーシー「初春組の先輩達とすっかり溝が出来ちゃった。でも、仕事はサボった訳じゃないし、モカのためだったから仕方がないわ。また、皿洗いを引き受けて頑張るしかない・・・。いつか、分かってくれる時が来れば良いけど。そんな時が来るかな・・・」


〈目の前に広大な野菜畑が広がる。美味しそうな野菜があちらこちらに実っている。〉


マーシー「すごい・・・〈畑に足を踏み入れる〉」


サアムおじさん「〈野菜畑の中から急に立ち上がって〉野菜を取って来るように言われたのか?」


マーシー「ああ!ビックリした!」


〈目の前に現れた作業着姿の色黒で屈強な老人をマジマジと見るマーシー。〉


マーシー「〈お辞儀をして〉こんにちは、すみません。お仕事の邪魔をして」


サアムおじさん「野菜を取りに来た訳じゃなさそうだな。何だ、サボりか?どの班だ。厨房班か?」


マーシー「サボりだなんて・・・〈困ったように下を向く〉」


サアムおじさん「ははは。言いつけやしないよ。さては先輩達にのけ者にされたな。毎年のことさ。まあ、最初は色々ある。新入りなんだろう?名前は?」


マーシー「マーシーと言います。あの、毎年って、こういうことって、よくあるのですか?〈少し必死に聞く〉」


サアムおじさん「こういうことって、やっぱりのけ者にされたのか」


〈頷くマーシー。〉


サアムおじさん「多勢の人が一緒に働けば、皆が皆、最初から上手く付き合える訳じゃない。社会とはそういう所さ。まあ、気にせず、自分の仕事だけ、きっちりすることだな」


マーシー「それが・・・その仕事すら、もらえないのです」


サアムおじさん「ははは。それはかなり、こじれて重症だな。お前さんは、そんなに仕事が出来んのか?」


マーシー「〈泣き出し〉笑い事じゃありません。私、本当にどうしたらいいのでしょう。仕事が嫌な訳でも出来ない訳でもないのです。それなのに、何もさせてもらえないから・・・〈泣いている〉」


サアムおじさん「ああ、分かった、泣くな、泣くな。どれ、本当に仕事が出来るかどうか、わしが見てやろう。お前さんの言う通り、力があれば心配ない。道は開けるさ。ただし出来ぬのなら、サッサと諦めることだな。何も、ここで、いらぬ苦労をすることはない」


マーシー「そんな・・・」


サアムおじさん「出来もせんのに愚痴るのは、聞かされるワシの時間が無駄になる。ほれ、そこの野菜の籠を持ってついて来い」


マーシー「〈泣き止んで〉あの、おじさんは一体どなたなのですか?」


サアムおじさん「ははは。わしか?と呼ばれておる」



[16]ー城 畑のはずれ サアムの家


マーシー「ここは?」


サアムおじさん「わしの家だ。そこの台所で、この野菜を使って、2、3品、旨い料理を作ってみなさい」



[17]ー城下町 外事大臣と武官アリの家


アリの妹ロラ「まあ、お兄様。突然、どうなさったの?お母様、お母様!」


アリの母「〈奥から出て来て〉何ですか、ロラ。騒騒しい。あら、アリ、珍しいわね」


武官アリ「母上、お変わりありませんか?父上は、相変わらず忙しくて家に戻れませんが、申し訳ないと、母上のことを気遣っておいででした」


アリの母「お前こそ私を気遣って、あの人が言っていないことまで言わなくていいのよ」


武官アリ「母上・・・」


アリの母「それで今日はどうしたの?少しはゆっくり出来るの?」


武官アリ「ちょっと家で調べ物がありまして。父上の書斎の書棚を見せてもらいます」



[18]ー城下町 アリの実家


〈父親である外事大臣の書斎に入るアリ。ジロジロと部屋を見回し、一つ鍵がかかった大きな引き戸を見つけ、ガタガタと開けようとしてみる。当然、開かない。机の引き出しに鍵がないか探すが、それらしきものは見つからず、また、引き戸をガタガタ引っ張ってみる。〉


妹ロラ「〈部屋の扉の所から覗き〉何しているの?」


〈振り返るアリ。〉


武官アリ「探している資料が無くてさ。もしかしたら、ここかと思ったんだが。開きそうにないよ」


妹ロラ「そこには資料なんか、多分入って無いわよ」


武官アリ「中に何があるか知っているのか?」


妹ロラ「昔と変わっていなければね。ねえ、覚えてない?小さい頃、二人でかくれんぼして遊んだ時に、私がこの中に入ったの。お父様が、その日に限って鍵をかけ忘れたのよ」


武官アリ「そんなこともあったかな」


妹ロラ「あったわよ。私はすごく怒られたから覚えているわ。お父様ったら、あの頃から私達が勝手にこの書斎に入ることを嫌がっていたもの」


武官アリ「それで、中に何が入っていたんだ?」


妹ロラ「絵よ。キャンバスが幾つか。お父様って若い頃、絵の趣味があったのでしょう?後でそのことを知って、昔、描いた絵をここにしまっているんだと思ったわ」


【アリの回想: 昨日 外事大臣の部屋 隠してあった箱に入っていた、ナタリーを描いた絵。】


武官アリ「どんな絵だった?」


妹ロラ「さすがに、そこまでは覚えてないわ」


武官アリ「若い女の人の絵じゃなかったか」


妹ロラ「どうだったかしら?でも、急にどうして?お兄様は絵なんかに興味があるの?」


武官アリ「いや、特別な理由はないよ。武官から外事大臣に成り上がった父上が絵をたしなんでいたとは、何か妙な気分でね」


妹ロラ「そうよ。あのお父様が絵描きになる夢を中々捨てられなかったなんて〈笑う〉。可笑おかしいわね。それでも武官でトップを志す者か!って、お祖父様がすごい剣幕で怒ったのでしょう?お母様が、今でも時々そのことを思い出して笑い話にするぐらいだもの」



[19]ー城 書架室 廊下


〈ジュリアスが近くまで来ると、中からノエルが出て来る。入り口のところで中にいるミレーネ姫に向かって挨拶をするノエル。廊下には護衛や近衛副隊長がいる。少し離れた所から見守るジュリアス。〉


ノエル「では、失礼致します」


ミレーネ(声のみ)「ノエル、明日はくれぐれも宜しく頼みましたよ」


ジュリアス(心の声)「この娘がノエル?」


〈扉を閉め、ジュリアスの方向に歩き出すノエル。護衛や近衛副隊長も続く。皆がジュリアスに気付き会釈する。ジュリアスも会釈する。〉


ジュリアス(心の声)「〈ノエルの顔をじっと見て〉誰かに似ている・・・。気のせいか・・・」


〈ノエル一行を見送り、書架室に寄るのは辞めて、民政大臣の執務室へ向かうジュリアス。〉



[20]ー城 厨房


初春組 先輩A「どこかに行ったきり戻って来ないって、本当にマーシーはどんな神経をしているのかしら?」


初春組 先輩B「皆にあの子がサボっていたと言いつけてやるわ」


夏組 新入りA「〈小声でもう一人の新入りに〉帰らずの森に一人で入ったんじゃないわよね」


夏組 新入りB「まさか、精霊が!?」


初春組 先輩A「〈ギロっと睨んで〉馬鹿なこと、言わないで頂戴!」



[21]ー城 畑のはずれ サアムの家


〈テーブルに料理が並べられている。〉


サアムおじさん「どれ、どれ」


〈食べ始めるサアム。心配そうに見ているマーシー。黙って次々食べていくサアム。〉


サアムおじさん「〈一通り食べ終えて〉料理は誰に教わった?」


マーシー「母です。実は母も数年前までお城で働いていました」


サアムおじさん「お母さんの名前は?」


マーシー「エレナです」


サアムおじさん「何と!あの、伝説の焼き菓子名人のエレナか?」


マーシー「〈苦笑して〉はい」


サアムおじさん「そういうことなら焼き菓子を頼むんだった。エレナの焼き菓子は絶品だったからな」


マーシー「私も皆にそう言って喜んでもらえることが夢なのです」


サアムおじさん「そうか。夢があるなら、少しは頭を下げてでも、嫌な仕事を引き受けてでも、周りと上手くやることだな。お前さんの料理の味も悪くなかったぞ」


マーシー「本当ですか?有難うございます!」


サアムおじさん「何より丁寧に食材と向き合う態度が気に入った。今はちょっと時間がかかり過ぎのように思えるが、慣れればもう少し早くなるだろう。まあ、頑張ることだ」


マーシー「はい。お蔭様で元気が出ました。私なりに厨房で努力してみます。有難うございました〈深くお辞儀をする〉」


サアムおじさん「おお、もう、こんな時間だ。どれ、厨房班長の顔も見がてら、一緒に厨房に顔を出すとするか。今日はわしが仕事を頼んだと言っておこう」



[22]ー城 民政大臣の執務室


ジュリアス「父上。新しい毒見役のノエルですが、どんな素性の者なのですか?」


民政大臣「親、兄弟姉妹は誰もおらず、身元引き受け人は城下町役場の民政課だ。城に来る、数年前までは叔父さんの元で育てられたらしい」


ジュリアス「そうですか」


民政大臣「気になるのか?明日、毒見役に災いが及んでも、毒見役が姫に危害を与えるとは思えぬが。姫のこととなると、お前は神経質になるからな。まあ、姫の側に付き添っている立場としては、慎重なのは悪いことではない」


〈色々と頭の中で考えを巡らすジュリアスの表情。〉



#3へ続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る