第12話 封印された記憶の鍵 #1

シーズン1 第12話 封印された記憶の鍵 #1


[1]ー《緑の国》 城 書架室 続き


〈ミレーネ姫と、ジュリアス、ポリーが話している。〉


ジュリアス「すぐに王様から話は聞くと思うが・・・」


ポリー「〈兄を促すように〉早く知っていた方がいいはずよ」


ミレーネ「どうしたの?」


ジュリアス「新しい毒見役だが、美化班新入り夏組のノエルさんだ。マーシーさんと同室の人で、自分から毒見役に名乗り出てくれた」


ミレーネ「そうなのですね?モカちゃんの一件で、お父様が毒見役をもう一度立てるかどうか気になっていた所ですわ。でも、その人がどうして自分から進んで引き受けてくれたのかしら?」


ジュリアス「あの騒ぎの夜、モカちゃんを一時、マーシーさんの部屋に隠しただろう?その時、色々事情を知り、考えた上で決めたらしい」


ポリー「マーシーさんの部屋で少し話をした時の印象がね、とてもしっかりした感じの人だったよ」


ミレーネ「そう、ポリーはもう顔見知りなのね。〈少し考えて〉ノエルと言ったかしら?二人きりで直接、話したいわ。ここへ来るように伝えてくれる?」


ポリー「分かった。稽古に行く前に声を掛けておくから。じゃあ、私は城下町まで行ってきます」


〈ポリーが部屋から出て、残ったジュリアスが姫の近くの椅子に座る。〉


ミレーネ「誰がなぜ、投薬を邪魔しようとしたのか、また何か仕掛けて来るつもりなのか、ジュリアスはどう考えていますの?」


ジュリアス「分からない。だから、正直、今とても心配なんだ。ミレーネ、今回、服薬するという選択だが、本当にこれで良いのだろうか?」


ミレーネ「大丈夫ですわ。ノエルもいてくれるもの。それに、このまま予定通り進み、全て終わった時に、あの白の国の王子と薬師は、我が国に対してどんな要求を出してくるのか・・・。ジュリアスも気になるでしょう?その要求を聞けば、この不可解な事件の謎に隠されている何かを、また新たに掴めそうな気がしますの」


〈すでに目に光が戻っているミレーネ姫は毅然として明日に向け対応しようとしている。その強気の態度を見て、事実を知らないジュリアスは少し不思議そうな様子。〉



[2]ー城下町 画廊マリオ


ポリー「こんにちは。師匠、マリオさん!」


マリオ「〈少し慌てて〉ポリーさん、そんな堂々と。あくまで内緒ですよ」


ポリー「すみません。お邪魔します」



[3]ー城下町 画廊マリオの裏庭


〈面や胴着を着けて、剣を手に向かい合うポリーとマリオの妹セナ。〉


セナ「今日も頑張りましょう」


ポリー「はい、師匠!宜しくお願いします!」


〈斬り合い、受け合いの稽古を始める二人。〉


【ポリーの回想: 2日前の晩 城の庭 戦った刺客の姿。】


ポリー(心の声)「あの刺客の身のこなし。訓練を積んでいるけれど、若者と見たわ。短剣のさばきがとにかく素早かった。剣先がまるで生き物のように激しく動いて・・・」


〈セナに隙あり!を取られるポリー。〉


セナ「ポリー殿!今日は雑念が多そうね」


ポリー「すみません。実は・・・」



[3]ー城 厨房の外 洗い場


〈初春組の二人と、マーシーを含む夏組新入り三人が、野菜についた虫を取ったり、野菜の、少し悪くなった部分を取るなど、細かい下準備の作業をしている。そこへ、厨房班のデザート担当の班員が来て、少し離れた所からマーシーに手招きする。〉


厨房班 デザート担当の班員「マーシー、ちょっと。〈その側へマーシーが行くと〉昨日借りた道具を使ってみたら、梅の甘味漬けがやっと上手く出来たわ。エレナさんの焼き菓子も、色々な種類を差し入れしてくれたお蔭で、もう一度、本来の味を確かめることが出来たの。本当に有難う」


マーシー「〈笑って〉いいえ」


厨房班 デザート担当の班員「〈洗い場で仕事をしている様子を見ながら〉ねえ、今、ちょっと一緒に来てくれる?焼き上がったお菓子の味見をして欲しいの。お礼も兼ねてね。成功していたら、今日、白の国の王子様にお出しするつもりよ」


マーシー「〈嬉しいが、少し困りつつ〉先輩達にまず聞いてみないと・・・」


厨房班 デザート担当の班員「〈少し離れた所から〉マーシーを少し借りるわよ!」


〈洗い場で作業をしながら頷く初春組。初春組も、さらに上の先輩には逆らえない。〉


厨房班 デザート担当の班員「ほら、大丈夫。さあ、行きましょう」


〈デザート担当の班員に腕を取られ、引っ張られるように連れて行かれるマーシー。後ろを振り向くと、初春組の先輩達が睨んでいる。〉


初春組 先輩A「〈作業しながら〉聞いた?焼き菓子の差し入れだって!私達には何も持って来なかったくせに」


初春組 先輩B「あの子、誰に一番世話になっているか、分かっているのかしら?」


初春組 先輩A「ずっといなかった間、あの子の分まで仕事をしたのは、この私達よ」



[4]ー城下町 画廊マリオ


〈胴着を脱ぎ、普段の格好をしているポリー。カウンターに座って、マリオとセナと話している。〉


マリオ「城でそんなことが。皆、無事で本当に良かったよ」


〈考え込んでいるセナ。〉


マリオ「セナ、何か心当たりがあるのか?」


セナ「刺客と戦った時のポリー殿の感想なんだけど。“相手の剣先がまるで生き物のように動くようだった”っていう点がちょっと引っかかったのよ。どこかで聞いた気がするのよね」


ポリー「そうなんですか?」


セナ「調べてみるわ」


ポリー「お願いします!刺客が何者なのか、全く手掛かりが無いのです。それから、新たな秘技をどんどん伝授して下さい。刺客がいつまた現れるか分かりませんので」


セナ「ポリー殿には、まだ伸びしろがあるわ。私も本気で鍛えてみたいと思うの。覚悟しておいてね」


ポリー「頑張ります!」


マリオ「今日は、この後、隣の店を手伝って行くのかい?」


ポリー「あっ、そうなんです!もう一つ大変なことを思い出した・・・」


〈急にがっくりカウンターに突っ伏すポリー。その様子に顔を見合わせるマリオとセナ。〉



[5]ー城 書架室の前 廊下


〈ふうっと一度大きく息を吐いて、呼吸を整え、扉をノックする美化班ノエル。その後ろに待機している数人の護衛と、近衞副隊長ウォーレス。〉


ミレーネ「どなた?」


ノエル「ミレーネ姫様、美化班夏組のノエルと申します」


ミレーネ「どうぞ、入って」


ノエル「失礼致します」


〈ノエルが一人で入って来る姿が、ぼんやりと分かるミレーネ姫。〉


ミレーネ「護衛は?」


ノエル「はい、ドアの外に」


ミレーネ「〈小声で〉隣に座って頂戴。お話ししたいことがありますの」


ノエル「〈少し怪訝けげんそうに〉はい・・・」



[6]ー城 薬師ゴーシャの客室


〈机の上に置いてある、薬の二つの瓶を眺めている薬師ゴーシャ魔王グレラント。一つの瓶を手に取り、皿に丸薬を開け、別の薬瓶からスポイトで、不気味な液体を塗布する。それをまた、ピンセットで瓶に戻して蓋をする。また、薬の二つの瓶を前に悩ましそうにする薬師ゴーシャ魔王グレラント。〉


薬師ゴーシャ魔王グレラント「明日、どちらを使うべきか・・・」



[7]ーサイモン王子の客室


サイモン王子「今日もミリアム王子の姿を見ないな」


従者レックス「そうですね。ミリアム王子がまた一緒に遊びたいと、ミレーネ姫がおっしゃっていましたので、今日ぐらいはお顔を見せにいらっしゃるかと思いましたが。ミリアム王子の元気な声が聞こえないと寂しいですね」


サイモン王子「ああ見えて、体が弱いと聞いた。体調を崩していなければ良いのだが。ところで、姫への投薬は明日らしいな」


従者レックス「そのように決まったようでございます」


サイモン王子「明日は、城下町に出て、物見遊山する気持ちにはならないだろう。今日、一度、画材道具を物色しに行きたいと思うのだが」


従者レックス「宜しいですね!王子様のお疲れもやっと取れ、こちらの国の風土にも少しずつ慣れていらっしゃいましたから。ぜひ、出かけましょう。どの店が良いか、急いで情報を集めて参ります」



[8]ー城下町 ナタリーの店


ナタリー「まあ、そんな難題を?〈笑っている〉」


ポリー「母様、本当にこれは笑い事じゃないの。ちゃんと出来なかったら、多勢の前で恥をかくのよ。真剣に教えてね」


ナタリー「はい、はい。分かったわ。これも娘に対する父親の愛情よ」


ポリー「全然、私には愛情と思えないけれど〈膨れっ面顔をしながら、店のオルガンの前に座る〉」


ナタリー「こうでもしなければ、貴女がやる気を出さないでしょう?」


ポリー「はあ・・・〈オルガンを弾き始める〉」



[9]ー【ポリーの回想 : 城下町に出かける直前 城の廊下】


民政大臣『ポリー!』


ポリー『父様、お早うございます。これから、母様の店の手伝いに行って来ます』


民政大臣『丁度いい。ピアノで弾ける曲を何か練習しておきなさい』


ポリー『はい?』


民政大臣『延期になっていたが、白の国の王子を歓迎する宴が、姫の投薬が終わり次第、開かれる予定となった。そこで披露するが良い』


ポリー『どうして、私が?』


民政大臣『従姉妹として、姫様の代わりだ。サイモン王子は芸術を愛するお方だからな。この間、お前と“今後は武術ではなく芸術を”と話し合ったはずだ。王様に提案したら、とてもお喜びのご様子だぞ。では、当日、楽しみにしておるからな』


〔さっさと歩いて行ってしまう民政大臣。〕


ポリー『そんな。父様!一方的に決めないで下さい!』


〔後ろ姿に向かって叫ぶポリー。振り向きもせず、立ち去る民政大臣。〕




[10]ー城下町 ナタリーの店 続き


〈教えてもらって練習しているポリーの姿。弾いているのは、母ナタリーが作曲した“カノンに捧ぐ”の曲。〉


ナタリー「〈手を止めて〉ねえ、ポリー。違う曲にしない?こんな、私の曲など・・・」


ポリー「だって、私がまともに弾けるのは、この曲ぐらいよ。それに、今から、別の新しい曲なんて、絶対無理!大丈夫、これは、誰が聞いても気に入ってくれる曲よ」


ナタリー「そうだと良いけれど。今回は時間も無いし、仕方ないわね」



[11]ー城下町 店が立ち並んでいる、賑やかな辺り


〈両側の店を眺めながら歩いているサイモン王子と従者レックス。その後ろを少し離れて歩く剣士ケイン。〉



[12]ー城下町 画廊マリオ


従者レックス「サイモン王子様、ここのようです」


〈店に入るサイモン王子一行。〉


マリオ「いらっしゃいませ」


サイモン王子「〈入って〉おお。こんな洒落た店は初めてだ」


従者レックス「見て下さい。画材の種類も豊富ですよ」


マリオ「今日は何かお探しですか。何でもお尋ね下さい」


〈その時、隣の店に面した窓から、ポリーが弾く“カノンに捧ぐ”の曲が聞こえて来る。王子の側に立っていた剣士ケインが曲に自然と反応しビクッとなり、勝手に早まる自分の鼓動に戸惑う。〉


剣士ケイン(心の声)「この曲・・・。どこかで。どこかで聞いたことがある曲・・・」


〈オルガンの音色につられ、開いていた窓から隣りの店を覗いた従者レックス。〉


従者レックス「隣りの店でオルガンを弾いているのはポリー様ですよ!」


サイモン王子「ポリーさんが隣にいるのか?〈レックスの横に来て窓の外を見る〉」


マリオ「えっ?ポリーさんとお知り合いですか?〈改めて一行の様子を見て〉もしかすると、白の国の王子様では?」


従者レックス「はい。そうですが・・・」


マリオ「〈嬉しそうに〉私の店に来て頂き、光栄です。友人のジュリアスから、お話は伺っております〈お辞儀をする〉」


サイモン王子「ジュリアスさん・・・。確かポリーさんのお兄さんのことですね?」


マリオ「はい。今すぐ、隣に行ってポリーさんを呼んで来ます。お待ち下さい!」


〈いったん店から出るマリオ。残された3人の耳に聞こえるは“カノンに捧ぐ”の調べ。〉



#2に続く

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