第11話 ミリアム王子の奇跡 #3
第11話 続き #3
[18]ー《緑の国》城 ミリアム王子の部屋
ミレーネ「少しの間、ミリアムと二人にして頂戴」
〈お辞儀をして、ミリアム王子付きの侍女が部屋の外に出る。廊下で侍女と護衛はそのまま待機している。〉
ミリアム「姉様、天使ちゃんはお願いを叶えてくれる前に帰っちゃったね。また、会えるかな?」
ミレーネ「ええ。〈手を伸ばし、ミリアム王子の手を取りながら〉ミリアムがいい子で、天使と会ったことを秘密に出来るなら大丈夫よ」
ミリアム「出来る!僕、まだ誰にも話していないよ」
ミレーネ「〈頭を撫でて〉そう、偉いわ。天使は約束を守る人を大切にするの。いつかまた、どこかで会って、その時はミリアムの願いを、きっと叶えてくれるはずよ」
〈ミレーネ姫の目には見えないが、嬉しそうに微笑むミリアム王子。〉
ミレーネ「・・・〈意を決して〉ねえ、ミリアム。〈首飾りを外し〉これをもう一度かけてみて。〈手探りでミリアム王子にかけ〉天使ちゃんと、クマのぬいぐるみで遊んでいた時のこと、姉様に話してくれる?」
ミリアム「〈ミレーネ姫の真剣な口調に、少し緊張しながら〉クマさんの顔を手で触って、耳、鼻、口、目と教えてあげていたんだ。〈ミレーネ姫の手を取り、自分の顔を触らせて〉そうしたら、天使ちゃんが目が見えないって泣き出すから・・・」
ミレーネ「〈焦る気持ちを抑えながら〉それで?」
ミリアム「〈ミレーネ姫の目に触れ〉こうやって、僕が天使ちゃんの目を触って、治りますように!って神様にお願いしたんだ!」
〈その途端、真っ暗闇だった、ミレーネ姫の目に一条の光が射す。驚き震える姫。〉
ミレーネ「ミリアム!もう一度!もう一度、お願いしてみて!私の目を触りながら!」
ミリアム「〈再びミレーネ姫の目に触れ〉治りますように!」
〈ミレーネ姫の目に小さな光が生まれ、じわじわとその明るさが広がる。そして次第に周りの色や形がぼんやりと見えてくるようになる。そこで気を失うミリアム王子。ハッと気付くミレーネ姫。〉
ミレーネ「ああ、ミリアム、ミリアム!〈抱きかかえて〉どうしよう!私のために力を使い過ぎたのだわ!〈扉の向こうにいる侍女と護衛に向かって、声を限りに叫んで〉ミリアムが倒れたの!すぐに医官を呼んで頂戴!!」
[19]ー城 ノエルとマーシーの相部屋
〈マーシーが仕事から戻って来ると、部屋の前に近衛副隊長ウォーレスと、もう数人の近衛がいる。会釈して、部屋の中に入るマーシー。〉
マーシー「ノエル、廊下に副隊長達がいるわ。それから近衛もかなりの人数ね」
ノエル「毒見が終わるまで、私に護衛がつくことになったの。刺客の正体が分かるまで安心出来ないから、ウォーレスさんも自分が守るって来ているわ。御免なさいね。
マーシー「それはお互い様よ。昨日から妹のことで色々と迷惑をかけてしまったもの。でも、毒見役のこと、本当に決めたのね。決心は変わらないの?」
ノエル「ええ。さっき、王様にお会い出来たわ」
[20]ー【ノエルの回想 : 数時間前 王の会議室 】
王様『毒見を怖いと思わぬのか?』
ノエル『姫様がお飲みになる薬です。城下町で売られている怪しげな薬より、考えようによっては、ずっと安全なものではないでしょうか』
〔ノエルの脳裏に浮かぶ、元・女官アイラの笑顔。〕
ノエル(心の声)『アイラ姉さん、これで王様と姫様を味方に出来るわ。お城での第一歩よ!』
[21]ーノエルとマーシーの相部屋 続き
マーシー「じゃあ、もうミレーネ姫やポリー様達も、あなたが新しい毒見役って知っているのかしら?」
ノエル「多分ね。マーシー、あの、昼間、階段で聞いたことは・・・」
マーシー「分かってる。〈少し声を落として〉モカを隠す時、協力してくれたじゃない?お姉さんのことは絶対、誰にも言わないわ」
[22]ーミリアム王子の部屋
〈医官とミリアム王子付きの侍女、ミレーネ姫が、ベッドに横たわっているミリアム王子に付き添っている。〉
ミリアム「うーーん〈少し目を開ける〉」
ミレーネ「ミリアム!ミリアム!」
ミリアム「〈小さい声で〉姉様・・・」
ミレーネ「ああ。〈ミリアム王子の手を握り、医官に〉もう大丈夫ですのね??」
医官「姫様、失礼いたします」
〈侍女が支え、ミレーネ姫が少し下がり、医官がミリアム王子の脈をとったり、舌を見たり、体に触れたりする。〉
医官「このまま、ゆっくりお休みになれば、朝にはお元気になられているでしょう。今日はよほど、お疲れになられたのですね。お身体の調子を整え、心身の気を上げるお薬を明朝にお持ち致します」
ミレーネ「〈安堵の涙を流して〉医官殿、有難うございます」
医官「〈侍女に〉念のため、今夜は寝ずの番を。何かあれば、すぐ知らせて下さい。あと、王子様が望まれれば、お飲み物を差し上げて頂けますか」
ミリアム付きの侍女「了解致しました」
〈部屋から医官が出て行く。侍女は、いつでもミリアム王子が何か飲めるように、部屋の奥へ用意をしに行く。ベッドの横に座り、ミリアム王子の頭を撫でながら、王子を見つめる姫。明かりを落とした部屋の中でも、顔を近づければミリアム王子の顔の輪郭がうっすらと分かる。〉
ミレーネ(心の声)「ミリアムと首飾りに、こんな力があったなんて・・・。でも、ミリアム、本当に御免なさい。もう、これ以上させないわ。私がお願いしたために、貴方にもしものことがあったら・・・」
ミリアム「〈自分の頭を一心に撫で続けている姫の手に気付き〉姉様、僕、とても眠たいよ」
ミレーネ「ええ、ええ。朝までぐっすり眠っていいのよ。〈頬にキスして〉お休み、ミリアム。姉様も部屋に戻るわ」
ミリアム「〈眠そうに〉お休みなさい」
ミレーネ(心の声)「モカちゃんの時も知らぬ間に、大きな力を使ったのね。あなたの弱い体には耐え難いものだったでしょう。ミリアム、あなたが成長して自分でこの力をコントロール出来るようになるまで、私が必ず守ってあげる。ええ、誰にも知られないように・・・」
〈立ち上がって、周りを見回すと、姫の視界はまだ、うすぼんやりとした感じであるが、今までのように真っ暗闇ではない。〉
ミレーネ(心の声)「ああ、早く朝にならないかしら?光の下ではっきりこの目を確かめたいわ!〈もう一度、眠っているミリアム王子をそっと抱きしめ〉本当に有難う・・・」
[23]ー城 王の会議室 夜遅く
民政大臣「それでは、明後日に毒見と同時にミレーネ姫様への投薬を行うということでしょうか?」
王様「本日、新しい毒見役と話して、その揺るがぬ決意を窺い知ることが出来た。もう、早く決行しようと思うのだが」
外事大臣「善は急げと申します。良いご決断かと存じます」
王様「今回は自発的な申し出のため、余も少しは気が楽になった。公にして進めても問題は無いと思われる。姫と薬師にも伝え、明日中に準備を整えてくれ。ところで刺客の捜索はどうだ?やはり手掛かりすらないのか?」
近衛隊長「申し訳ございません。城の内外、隈なく探しましたが、何も見つかっておらず、全て異常なしとの報告です。
王様「帰らずの森か・・・」
民政大臣「確かに、あの場所では刺客も道に迷った挙句出られず、命を落とすことになると思われます」
王様「念のため、新しい毒見役には護衛を付けておるのだな?」
外事大臣「はい。姫様の投薬まで二度と同じことが起こりませぬよう、見張りの強化は万全であります」
[23]ー城 薬師ゴーシャの客室
【
〈隣りのサイモン王子の部屋を壁越しに見る
[24]ー城 サイモン王子の客室
〈今夜も爆睡しているサイモン王子と従者レックス。その側で眠り薬入りのお茶を片付けている剣士ケイン。〉
[25]ー城 ミレーネ姫の部屋 深夜
〈薄明かりの中を落ち着かない様子でウロウロ歩いているミレーネ姫の姿。〉
[26]ー城 ジュリアスの部屋 深夜
〈まだ起きていて、悶々と悩んでいるジュリアス。〉
ジュリアス「ミレーネが、あの薬師の薬を飲むことが、どうしても不安でならない。ミレーネにとって本当に正しい選択だろうか。ミレーネの身に危険が迫る場合、必ず首飾りが知らせるから大丈夫と自分達が過信しているだけだとしたら・・・。あの闇夜の戦いの時は、その力の大きさを特別なものと感じたが、単なる偶然ということもある。まだよく分からないことが多過ぎるな。只の思い込みであるならば、服薬の時、ミレーネが命の危険に
[27]ー城 ミレーネ姫の部屋 朝
〈窓から朝の光が眩しく部屋に差し込む。窓の近くのソファで眠っていたミレーネ姫の顔にも優しく陽が当たる。〉
ミレーネ「〈目を覚まし〉いつの間に眠ってしまったのかしら?」
〈辺りを見回すと、鮮明ではないが、色も形もすべて分かる、部屋の様子。手近にある物を次々と目に近づけ見えることを確信するミレーネ姫。嬉しさで震え、目が
ミレーネ「ああ、本当に見えるわ!神様!お母様!まだ完全ではないけれど、光が目に戻り、こうして見えるようになるなんて!」
〈立ち上がり、部屋の中の物に顔を近付けては、一つ一つ確かめていく。そして、鏡の前に立ち、グッと近付いて自分自身を見つめるミレーネ姫。〉
ミレーネ「これが、今の私・・・。6年経った私。薬師の薬を飲めば、もっと見えるようになるかしら?でも・・・〈そこでハッとして〉ミリアムの様子を見に行かなくては!」
[28]ー城 ミリアム王子の部屋
〈ベッドに座り朝食を食べているミリアム王子。その隣に腰掛けるミレーネ姫。〉
ミリアム王子付きの侍女「落ち着いていらっしゃいます。ご安心なさって下さい」
ミレーネ「良かったわ」
ミリアム「お腹がいっぱいになったら、また眠くなっちゃった〈欠伸をする〉」
ミレーネ「〈頭を撫で〉好きなだけ眠っていいのよ」
〈目を閉じるミリアム王子。ミレーネ姫は侍女に気付かれないように、目を近付けて、ミリアム王子の顔を間近に見つめる。〉
ミレーネ(心の声)「赤ちゃんだったミリアムが、こんなに大きくなって・・・〈微笑む〉」
[29]ー外事大臣の執務室
〈扉を開けて入ろうとする武官アリ。中でガタゴトいう気配に、そっと扉を開けて、まず中を覗く。机の下に這いつくばって何かしている外事大臣。その姿をじっと見てから、扉をノックし、中に入るアリ。気が付き、急いで立ち上がる外事大臣。〉
武官アリ「何か探し物ですか?」
外事大臣「いや、大したことじゃないんだが。歳を取ると、しまい忘れが増えるようだ。どうした?何か用か?」
武官アリ「父上、最近、家に戻られたことは?」
外事大臣「藪から棒に何だ。仕事に追われれば、城に泊まりこみだ。いつものことではないか」
武官アリ「私も武官見習いになって以来、ずっと城の宿舎暮らし。ほとんど実家に顔を出していません。父上は母上の様子が気になりませんか?」
外事大臣「私もお前も二人とも家にいなければ、母と娘だけで気楽に過ごしているだろう。お前も今まで母親のことなど、知らぬ顔をしていたじゃないか。何だ、急に。おかしな奴だ。帰りたいなら今日一日、実家に行って来れば良い。明日は姫様の投薬で城も忙しい日となるだろう。その後は、また、すぐ武官の昇級試験だ。ぼやぼやしている暇などないぞ」
[30]ー城 書架室
〈ミレーネ姫が本に顔を近付けて一生懸命に読んでいる。ノックの音で慌てて、本を閉じる。ジュリアスとポリーが入って来る。〉
ポリー「ミレーネ、聞いた?投薬は明日に決まったみたいよ」
ミレーネ「ええ。これから午後に、お父様と直接、明日のことをお話する予定ですの」
〈ぼんやりと、二人の全体像が分かる姫。〉
ミレーネ(心の声)「早く近寄って二人の顔が見たいけれど、もう少しの辛抱ですわ」
※第11話 終わり
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