第11話 ミリアム王子の奇跡 #2

第11話 続き #2


[9]ー《緑の国》 城 階段の踊り場 続き


〈近衛副隊長ウォーレスと美化班新入りノエルが揉めている。偶然、通りかかった厨房班新入りマーシーは、二人から死角になる場所でそっと様子を見守っている。〉


ノエル「嫌よ、ここまで来て、そんな・・・。お願い、私に毒見役をさせて。ここで諦めたら、結局、無実の姉さんは浮かばれないじゃない!」


〈マーシーがおどおどした様子で二人の前に現れる。〉


マーシー「ノエル、誰かに聞かれたら大変なことになるわ」


近衛副隊長ウォーレス「いつから、そこに!?あっ、君は昨夜の!」


マーシー「お世話になりました。あの・・・、ノエル、毒見役ってモカのためでもあるのね?自分が立候補すればモカはしなくて済むと思ったのでしょ?〈泣きそうに〉御免なさい、あなたを巻き込んでしまったのね」


ノエル「マーシー、話を聞いていたのでしょう?これは私自身のために決めたことなの。〈泣き出したマーシーの肩を抱いて〉あなたが泣くことじゃないわ」


近衛副隊長ウォーレス「毒見役やモカって・・・。なぜ、知っている?」


ノエル「マーシーはモカちゃんの姉なのよ」



[10]ー城 ミリアム王子の部屋


〈廊下までオルゴールの音が漏れ聞こえている。扉をノックするマーシー。中ではポリーが、次々とオルゴールの盤を替えて曲を流しながら、モカをあやしている。ミリアム王子はソファでぐったりしている。〉


ミリアム「ポリー、誰か来たよ」


〈ソファのミリアムの隣にモカを置き、クマのぬいぐるみを持たせるポリー。扉の所に急ぎ、息を整える。〉


ポリー「どなた?」


マーシー「マーシーです」


〈ポリーは扉を急いで開け、マーシーを中に引き込む。〉


ポリー「ああ、良かった!〈ソファに走りモカを抱き上げ、マーシーにモカを渡しながら〉天使ちゃん、マーシー姉さんよ」


〈マーシーに抱かれ嬉しそうなモカ。〉


マーシー「〈オルゴールの音に〉中は賑やかですね」


ポリー「〈音を止めて〉天使ちゃんが泣き出しちゃったから、泣き声が外に漏れるとまずいと思ったから。〈ミリアム王子の方を見て〉具合はどう?」


マーシー「ミリアム様、体調がお悪いのですか?」


ミリアム「ちょっと疲れただけ。もう大丈夫」


マーシー「すみません!〈お辞儀する。〉皆様にご迷惑をお掛けして。〈モカの頭を撫でながら〉どうして、そんなに泣いたの?」


モカ「〈マーシーを見て笑いながら〉ねえたん」


ポリー「見えなくても声でやっぱり分かるのね。天使ちゃん、嬉しそうだわ。もう、これで一安心!」


モカ「〈マーシーに〉クマたんとおにいちゃんとあそんだの」


ミリアム「〈微笑んで〉お兄ちゃんだって」


マーシー「〈モカに〉そう?〈ミリアム王子に〉有難うございます」


〈ソファからゆっくり立ち上がり、クマのぬいぐるみをモカに手渡すミリアム王子。クマのぬいぐるみを抱くモカ。〉


モカ「〈マーシーに〉おリボン、かわいいね」


マーシー「本当ね。えっ!?今、何て?このリボンの色が分かるの?」


モカ「おリボン〈満面の笑みで笑う〉」


ポリー「天使ちゃん、まさか!?」


〈ポリーとミリアム王子、驚いて目を合わせる。〉


マーシー「〈指を3本立ててモカの目の前に出し〉これは幾つ?」


モカ「みっつ!」


マーシー「〈今度は手を開いて、震える声で〉これは幾つ?」


モカ「〈得意そうに〉いつつ!」


ミリアム「見えてるよ!」


ポリー「わあ〜、治っている!」


マーシー「もう、お目々、まっ暗、ないのね?」


モカ「〈ニコニコして〉もう、ない」


マーシー「ああ、神様!〈モカを再度、ぎゅっと抱きしめる〉」


〈ポリーとミリアム王子も手を取り合って喜ぶ。〉


ポリー「ちょうど、ミレーネ姫のお茶の時間が終わる頃よ。部屋まで迎えに行って急いで伝えて来るわ」


マーシー「〈我に返り〉でも、一体どうして急に治ったのでしょう??」


〈手を取り合い喜んでいたポリーとミリアム王子もハタっと止まり、顔を見合わせて、不思議そうに首を振る。〉



[11]ー城 外事大臣の執務室


〈武官アリが入って来る。部屋には誰もいない。〉


武官アリ「父上はいないのか。副隊長と、あの美化班の女との話を耳に入れておこうと思ったのに」


〈机の上のノエルの身上書を見つける。〉


武官アリ「これは、あの女の・・・。そうか、毒見役の話が本当に進んでいるんだな」


〈手にした途端、床に落ち、机の下に滑りこんだ書類。慌てて取ろうと、腹這いになった武官アリ。机の下の奥の方に平べったい箱が置いてあることに気付く。書類と一緒に箱も引っ張り出すアリ。〉


武官アリ「〈箱の軽さに〉空箱か?」


〈箱を開けると1枚の絵。紙に美しい若い女性が描かれている。その絵は破られ、また別の紙に貼って綺麗に修復されたようである。〉


武官アリ「これはジュリアスの母親。今より若いが間違いない。どうして父上が、この絵を持っているのだ?」



[12]ー【武官アリの回想: 子ども時代 アリの家】


アリの母親『〔一枚の絵を手に持ち、泣きながら〕まだ、あの女が忘れられないというのですか?』


外事大臣『うるさい!返すのだ!』


アリの母親『何よ、こんな物!〈破る〉』


外事大臣『何をする!〔アリの母親を叩く〕』


〔物陰から夫婦喧嘩を見て、声を押し殺し泣いている、小さなアリ。〕



[13]ー城 外事大臣の執務室 続き


武官アリ「〈手にした絵を見て〉これは、あの時、母が破った絵・・・」


〈そこへ足音が聞こえたので、アリは急いで箱を机の下に隠し、絵は自分の服の内側に隠し、身上書の書類を持って立ち上がる。それと同時に、入って来た外事大臣。〉


武官アリ「これが机から落ちていたので〈机の上に置く〉」


外事大臣「ああ。〈机の所の椅子に座り、アリを見て〉聞いたか?子どもが見つかったそうだ」


武官アリ「えっ!何処にいたのですか?」


外事大臣「行方不明だった子どもの姉が、城の使用人だと、お前はすでに聞いているか?その姉が森の方を探していて、無事、見つけたらしい。それも、不思議なことに目が治っていたそうだ。小さな子どもだから完全に目が見えなかったかどうかも、今となっては分からんな」


武官アリ「そうですか・・・」


外事大臣「それにしても何処へ消えたか、刺客はまだ見つからぬ。まったく変な事件だ」


〈そこへ近衛隊長がノックして顔を出す。〉


近衛隊長「外事大臣、王様が今後のことを相談したいとおっしゃっています」


外事大臣「すぐ参る。〈立ち上がって、アリに〉ところで、お前は何か用だったのか?」


武官アリ「いえ、ちょうど通りかかっただけです。もう武法所へ戻ります」


〈一緒に部屋を出て、途中まで歩き、外事大臣と近衛隊長は王の会議室へ向かう。その後ろ姿を見送りながら、服の内側に隠した絵を上からぎゅっと押さえるアリ。〉


武官アリ(心の声)「父上、いったい、この絵は何なのですか?今もまだジュリアスの母親を思い続けているということですか?それは、母上や、家族に対する裏切りというものです。何十年にも渡って・・・」



[14]ー城 廊下


〈厨房へ向かうマーシーの姿。〉



[15]ー【マーシーの回想: 1時間前 ミリアム王子の部屋】


〔ミレーネ姫、ポリー、マーシー、モカがいる。ミリアム王子は、かなり疲れていて、ベッドで眠ってしまっている。〕


ミレーネ『目が治ったなんて。本当に良かったですわ。これで、お城にいる必要がなくなりました。もう、モカちゃんが狙われることもないでしょう。すぐにエレナと帰った方が良いですわね』


ポリー『どこでマーシーが見つけたことにしたら良いかな?』


ミレーネ『森にしましょう。モカちゃんに土を少し付けてあげて。その辺りに植木鉢があるはずよ』


〔マーシーによって少し土を付けられたモカの姿。〕



[16]ー城 厨房


〈働いている厨房班。その中にマーシーもいる。〉


厨房班員その1「聞いたわよ。行方が分からなかった子どもって、あなたの妹ですって!?」


マーシー「はい。お騒がせしました〈頭を下げる〉」


厨房班員その2「森でいなくなっていたなんて。精霊の仕業かも知れないと思うと、ゾッとするわ」


マーシー「精霊の仕業って何ですか?」


厨房班員その1「お城の森には噂があってね。厳しい仕事に耐えかねて悩みを抱えた使用人が、夜にフラフラと森の近くを歩いていると、精霊に導かれ森の奥深くへ連れて行かれるらしいの。そして、帰れなくなったら最後、森で亡霊になり彷徨さまよい続けるしかないのよ。お城の長い歴史の中には、森に消えたと思われる失踪事件がかなりあると聞いたわ。だから、森の奥深い場所はと呼ばれているの」


マーシー「そ、そうなんですか?そんな怖い噂があるのですね」


厨房班員その2「あなたには悪いけれど、3歳の子どもが行方不明と聞いた時、森に入り込んだら、もう見つからないと思ったわ。さすがに精霊も幼な子は可哀想過ぎて返したってことかしら?」


厨房班員その1「それも目まで治して・・・」


〈何も言えず困った顔で話を聞いているマーシー。〉



[17]ー城 書架室 夜


〈ミレーネ姫とポリーがテーブルの所に座って話している。〉


ミレーネ「モカちゃんの目が見えるようになった時の状況をもう一度詳しく話して」


ポリー「ミリアム王子とモカちゃんが遊んでいて、私はただ側にいたの。二人がクマのぬいぐるみを相手に『口』『目』とか言って、顔を触ったりしていたかな?その後、モカちゃんが急に泣き出して、マーシーが戻って来るまで、てんやわんやだったの。ミリアム王子は、その状況に疲れたのか、急にグッタリするし」


ミレーネ(心の声)「ミリアムが顔や目を触っていた・・・〈無意識に首飾りの石を触る〉」


〈すると、遠くから聞こえて来る、元・女官タティアナの声。〉


タティアナ(声のみ)「蘭の花のすぐそばに、ハチの石を隠し置き、クローバーと一緒に、北西の部屋の出窓で育てなさい・・・」


ミレーネ(心の声)「首飾りの石と、ミリアム王子を指しているクローバー。モカちゃんといた時、ミリアムは、私の、首飾りを身に付けていたのよ」


〈そこへノックの音がしてジュリアスが入って来る。〉


ジュリアス「モカちゃんの目が見えるようになって、無事、城から帰ったって聞いたよ。良かった!でも、どうして急に見えるようになったんだ?側にいたのはポリーとミリアム王子だけだったのだろう?」


ポリー「今も話していた所なの。本当に、特に何もなかったのよ。医官や医女は、目をわずらったのは一時的なものだったかもと言っているわ」


ジュリアス「そんなこともあるのか・・・。何にしても、これでモカちゃんのことは安心したよ。隠していたことはバレてないんだろう?」


ポリー「大丈夫。後は刺客よ。捜索はどうだったの?」


ジュリアス「全然、空振りばかりだ。城下町でも手掛かりになりそうな話は何も無かった」


ポリー「ますます謎ね〈黙って、何か考えているミレーネ姫に気付き

〉ミレーネ?どうしたの?」


ミレーネ「〈急に立ち上がり〉わたくし、ちょっとミリアム王子の部屋まで行って来ますわ」


#3へ続く

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