第11話 ミリアム王子の奇跡 #1

シーズン1 第11話 ミリアム王子の奇跡 #1


[1]ー《緑の国》 城 ミリアム王子の部屋


〈すっかり仲良くなったミリアム王子とモカが遊んでいる。その様子を笑って見ているポリーと厨房班夏組新入りマーシー。ミレーネ姫もミリアム王子とモカの一挙一動の様子に耳を凝らして微笑んでいる。そこへ扉をノックする音がする。マーシーがーモカを連れていったん奥の部屋に隠れる。〉


ポリー「〈奥へ行ったのを見届けてから〉どなた?何の御用?」


ジュリアス「僕だ」


ポリー「〈ドアを開けて〉何だ、ジュリアス。ビックリさせないで」


ジュリアス「〈入って来て〉ここは上手く行っているようだね」


〈マーシーとモカが奥から出て来る。〉


マーシー「ジュリアス様。この度は本当に有難うございました」


ジュリアス「いえ、いえ。お礼ならミレーネ姫に」


〈ジュリアスはポリーに目くばせし、外に行くよう合図する。察するポリー。〉


ポリー「ミリアム王子、天使ちゃんに何か美味しい物を持って来てあげようか」


ミリアム「うん、そうだね。天使ちゃん、ちょっと待っていてね」


ジュリアス「天使ちゃん!?」


〈ミリアム王子とポリーが笑いながら出て行く。〉


ミレーネ「ジュリアス、お城の様子は?」


ジュリアス「刺客とモカちゃん。この二人を見つけるよう徹底的に捜索が行われているよ。隠し場所をここにして正解だった。姫や王子がいる部屋を調べはしないからね」


マーシー「あの、本当にモカのことをこのまま隠していて宜しいのでしょうか?王様にだけでも本当のことを申し上げた方が良いように思いまして」


ミレーネ「王様の耳に入るということは周りにいる者の耳に必ず届くと思わねばなりません。モカちゃんがお城にいると刺客が知っていたのは、誰か内通者が確実にいるはずですわ。そうでしょ?ジュリアス」


ジュリアス「そうだね。それも多分、王様の近くにいる人の可能性が高い。まだ刺客の狙いがはっきりしない限り、モカちゃんの安全を第一にした方がいいと思いますよ」


マーシー「後で皆様にご迷惑をお掛けすることになりませんか?それだけが心配なのです」


ミレーネ「迷惑だなんて・・・。お城で、こんな騒ぎに巻き込まれたのよ。本当に御免なさい。許して頂戴〈マーシーに手を伸ばし、マーシーがその手を取ると、頭を下げる〉」


ジュリアス(心の声)「ミレーネ姫はモカちゃんが自分の毒見役として連れて来られたとすでに気付いていたのか」


マーシー「〈そんな姫の姿に慌てて〉姫様、いけません。どうぞお顔を上げて下さい。皆様のご親切に感謝し尽くしても足りないぐらいです。どうか、姫様!」



[2]ー城 王の部屋


〈外事大臣が入って来る。〉


外事大臣「これが、毒見役に志願してきた、夏組新人ノエルの身上書です」


〈王にノエルの書類を渡す外事大臣。〉


外事大臣「親、兄弟姉妹もおらず、身元引受人は城下町役場の民政課。つまり万が一、身代わりで亡くなったとしても、訴える者は誰もないと思われます。毒見役としては適任かも知れません」


王様「子どもが行方知れずとなった今、渡りに船の申し出。薬の効能までは確かめられぬが、毒見だけでも姫を守るには十分だ。しかし、なぜ、この娘は危険な役目を引き受けたいと申すのか」


外事大臣「後ろ盾を持たない使用人の中には早く手柄を立てたいと望む者が多くおり、この者もそういう一人でありましょう。己の身を投げ打ってでも出世したい野望の持ち主ならば、それを上手く利用するのも宜しいかと存じます」



[3]ー城 ミリアム王子の部屋 続き


〈ポリーとミリアム王子がトレイや籠に入れた、たくさんのお菓子や果物を持って帰って来る。〉


ポリー「大変よ!今、そこで女官長に会ったのだけれど、ミレーネ姫を探していたわ。これからサイモン王子とお茶をするのですって。あの怪しい薬師も一緒だそうよ」


〈言ってから、アッと口を押さえるポリー。ジュリアスに軽くにらまれる。〉


ミレーネ「いいのよ。私は薬師が直接、見えないのですもの。ポリーが率直な意見を教えて頂戴。でも、投薬が決まれば、お世話になる人ですものね。避けてばかりもいられませんわ。少しお相手を務めて参ります」


【ミレーネ姫の回想: 昨日 薬師ゴーシャの部屋 姫の首飾りに興味を示し、見える目と引き換えに手放せるかと聞いて来た薬師。】


〈少し考えるミレーネ姫。〉


ミレーネ「ミリアム、こちらに来て頂戴。〈自分の首から首飾りを外し、手探りでミリアム王子の首に掛け〉姉様が戻るまで預かっていてね」


ミリアム「はーい。でも・・・サイモン王子様とお話するの?いいなあ。僕も行きたい」


ポリー「ミリアム王子は天使ちゃんと遊ぶ約束でしょ?さっき、待っていてねと言ったのは誰かな〜?」


ミリアム「〈ニコッと笑い〉姉様、サイモン王子にまた遊ぼうって伝えておいて」


ミレーネ「まあ、ミリアムはいつの間にサイモン王子様と仲良しになったの?知りませんでしたわ。伝えておきますね。では行ってきます」


〈出ていこうとするミレーネ姫にジュリアスが声をかける。〉


ジュリアス「部屋まで一緒に行きますよ。その後、自分は城下町に出てみます。何か手掛かりになる噂があるかも知れない」


ポリー「途中で母様とマリオさんの店の両方へ寄ってくれる?私は今日、とても行けそうにないから」


ジュリアス「分かった」


マーシー「あの。私も厨房へ顔を出して来たいのですが。実家から戻る予定の時間が近付いています」


ジュリアス「そうだね。一度、行って来た方がいい。厨房でも君の事情は知れ渡っている。行っても今日の仕事は免除されるはず。エレナさんの様子を見たり、妹を探したいからと、またすぐ戻って来れば大丈夫だろう」


マーシー「はい。離れの母の所へ寄った後、急いでここへ戻ります」


ポリー「ええ〜〜!じゃあ、その間、私が一人で子ども達二人を?」


マーシー「すみません。この子もすっかり慣れました。少しの間でしたら平気と思います。お願いします」


ミレーネ「〈小声で〉ポリー、頑張ってね」


〈ジュリアスもファイト!のポーズ。ミリアム王子とモカは少し離れた所で楽しそうに遊んでいる。〉


ポリー「分かったわ。今のうち気付かれないように、皆そっと出て。そおっとよ!」



[4]ー城内 廊下


〈ミレーネ姫とジュリアスが歩いて行くと、姫を探していた女官長ジェインに出会う。ジェインに付き添われ、サイモン王子が待つ客用食堂へ向かうミレーネ姫。〉



[5]ー城 ノエルとマーシーの相部屋


〈マーシーが鞄から木で出来た道具と、焼き菓子の袋を取り出し、厨房に急ぐ姿。〉



[6]ー城 客用の食堂


〈ゆったりとお茶を飲んでいるミレーネ姫、サイモン王子、薬師ゴーシャ魔王グレラント。少し離れて見守る女官長ジェイン、従者レックス、剣士ケインと緑の国の城の護衛。〉


ミレーネ「〈サイモン王子の方向に〉ミリアム王子が仲良くして頂いていると聞きました。嬉しいですわ」


サイモン王子「はあ・・・。〈と続かない会話〉」


〈そんな王子を歯痒そうに見ている従者レックス。薬師ゴーシャ魔王グレラントはじろじろと、ミレーネ姫の、首飾りのない胸元を見ている。〉



[7]ー城の庭 離れの客室


マーシー「母さん!〈飛び込み、抱きつく〉」


エレナ「ああ、マーシー。モカが、モカが・・・」


マーシー「〈側にいる医女を気にしながら〉知ってる」


〈急いで周りを見回し、昨夜ポリーが渡した焼き菓子袋を見つけると、中から林檎味の焼き菓子を母に握らせ頷きながら、目で大丈夫と必死で訴える。〉


マーシー「母さん、祈って待とうね」


〈エレナも言葉を発せずに口の形だけで“大丈夫?”と確かめる。何度も頷くマーシー。〉


マーシー「〈もう一度ぎゅっと焼き菓子と一緒に手を握り〉もう少しの辛抱よ。食事はしているの?無理にでも食べて、気をしっかりね」



[8]ー城 ミリアム王子の部屋


〈ミリアム王子とモカが遊んでいる。ミリアム王子は、自分がお気に入りのクマのぬいぐるみを持って来る。クマの首にはミリアム王子の象徴である四葉のクローバーと王家の紋章が刺繍された緑色のリボンが巻いてある。〉


ミリアム「天使ちゃん、触ってごらん、クマさんだよ」


〈クマを抱っこするモカ。〉


ミリアム「お顔が分かるかな?〈モカの手を取り、クマの耳に触れさせ〉ほら、これが耳」


モカ「みみ!」


ミリアム「うん。これが鼻と口。〈手を持って触れさせる〉」


モカ「〈嬉しそうに〉はなとくち。〈今度は自分で自分の顔を触り〉これ、はな。これ、くち」


ミリアム「そうそう。よく分かるねー。えっと、次は目!〈モカの手をクマの目に触れさせる〉」


モカ「。クマたんの。〈今度は自分の目を触り〉これ、!・・・おめめ・・・まっくら」


ミリアム「〈ドキっとして、しどろもどろに〉あ、大丈夫だよ。きっとすぐ良くなるよ」


モカ「〈泣きそうになって〉おめめ、みえない・・・まっくら、こわいよー」


ミリアム「大丈夫だから。〈モカの目をさすり〉すぐ見えるようになるよ。天使ちゃん、泣かないで。ああ、神様、お願いします。どうか早く治りますように」


〈必死で目を閉じ祈るミリアム王子。その時、ミリアム王子の首にかけられた首飾りの石が一瞬、閃光のような光を放つが、誰も気付いていない。〉


モカ「〈ウルウルしていたが、ついに〉ねえたん!ねえたんがいない!わーーーーん!」


〈モカの泣き声に、それまでソファでくつろいでお菓子を食べていたポリーは驚いて立ち上がり、二人の元に飛んで来る。〉


ポリー「ミリアム、どうしたの!?〈モカを抱き上げ〉よし、よし、いい子ね」


〈ミリアム王子、困った顔をして、立ちすくむ。かなり疲れた様子。モカはまだ泣き止まない。〉


ポリー「女官が聞きつけたらまずいわ。ミリアム、何かオルゴールをかけて!〈モカに〉ねえたんはすぐ来ますよ〜。よし、よし」


〈ミリアム王子は、部屋にある大型のオルゴールの扉を開けて、ディスク状の盤を選び、急いで曲を流す。モカはオルゴールに気を取られ、いったん泣き止む。〉


ポリー(心の声)「ああ、マーシー、早く帰って来て!」



[9]ー城 廊下


〈見回りをしている近衛副隊長ウォーレスが歩いて来る。掃除をしている美化班新入りノエルの姿を見つける。立ち止まると、ノエルも気付き、目が合う。〉


近衛副隊長ウォーレス「こちらに」


〈階段の踊り場へ移動するウォーレスとノエル。辺りに人の気配がないことを確認して話し出す。〉


近衛副隊長ウォーレス「もう一度、考え直すのだ。気持ちは分かるが、もっと違うやり方があるだろう。あまりに無茶だ」


ノエル「6年前の真実に近づく好機なの。どれだけ、悔しくて、辛くて、惨めな6年間を過ごしてきたのか、分からないでしょうね!家族全員を奪われた私の気持ちなんか!失うものは、もう何もないの。何も怖くないわ」


近衛副隊長ウォーレス(心の声)「ノエル、もしかするとアイラは白の国で生き延びているかも知れないのだぞ・・・」


〈ウォーレスをにらみつけているノエル。〉


近衛副隊長ウォーレス「王様が今、君の素性を調べている。毒見役に相応ふさわしいかどうかを検討し、間もなく呼び出しとなるだろう」


ノエル「話してくれたのね!じゃあ、もう、これでいいじゃない?これからはお互い知らぬ顔で済ませるわ。他にはもう何も頼まないから」


近衛副隊長ウォーレス「いや・・・、やはり、そんな訳にはいかないよ。俺は姉さんが君をどれだけ大切にしていたかを知っている。君は裏切ったというが、俺は今でも彼女を想っている。この気持ちに偽りはない」


ノエル「ウォーレスさん、止めて!諦めさせるために、そんな嘘を!」


近衛副隊長ウォーレス「嘘じゃない!本当だ」


近衛副隊長ウォーレス(心の声)「アイラのお腹には俺の子どもがいたのだから」


〈そこへ下からマーシーが階段を上がって来る。〉


近衛副隊長ウォーレス「〈一息つき〉君がアイラの妹だと王様に話すよ」


ノエル「何を言い出すの!姉さんは王様に死罪を命じられたのよ。その家族がお城にいると知れたら!」


〈驚き、足を止めるマーシー。上にいる二人から死角になっている場所に留まる。〉


近衛副隊長ウォーレス「城から追放されるだろうな。だから報告して全て明らかにするんだ。君が毒見役をどうしても諦めないと言うなら!」


マーシー(心の声)「ノエルが毒見役ですって!?」


ノエル「じゃあ、私も言うわよ。ウォーレスさんと姉さんの過去を!」


近衛副隊長ウォーレス「構わないよ。覚悟はできた。俺も一緒に城を出る。あの時、6年前に本当はそうすべきだったんだ」



#2へ続く


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