第8話 光と闇の対決 #3

第8話 続き #3


[17]ー城の庭 塀に近い大木 木の上


剣士ケイン「……魔界の力は夜明けまで破られるはずがないのに。あの者達は眠りにつかずに動いている。見えるのは、たった一つの光。あの光が闇の支配を妨げているのか?」



[18]ー薬師ゴーシャの客室


薬師ゴーシャ魔王グレラントがカーテン越しに窓の外をそっと見る。一ヶ所だけ光が動き、人々の話し声が聞こえる。〉


薬師ゴーシャ魔王グレラント「これが、姫の首飾りの力――全くの予想外じゃ。こうなるとケインが子どもを上手く連れ去ることすら危うい」



[19]ー城の正門


〈近衛副隊長ウォーレスが中から門を開ける。〉


ジュリアス「無事で良かった。二人、一緒だったのだね」


近衛副隊長ウォーレス「こちらは、どなたですか?」


ジュリアス「今年の新入り夏組のマーシーさんです」


〈突然の状況に頭が真っ白になり、言葉が出ず、ただ頭を下げるマーシー。〉


ポリー「いったい何がお城に起こったの?明るいのはミレーネ姫の首飾りの光だけよ」


ミレーネ「私達もまだ何も分からないの。ポリーの悲鳴が聞こえたから、まずここへ飛んで来たのよ。誰かに襲われたりしたのではありませんのね?」


ポリー「大丈夫。ただ、真っ暗闇になる前に、怪しい人影を見たので大声をあげたの。〈少し離れた方向を指差して〉向こうの木の上よ!」


マーシー「〈震える小声で〉木から塀の上に大きな袋を乗せていました。その後、塀を乗り越えて道に出ようとしていたみたいです」


ジュリアス「何だって!?泥棒ということか?もう逃げられたかも知れないな」


ポリー「急いで叫んだのに近衛も護衛も来ないし――本当にどうなっているの?」


近衛副隊長ウォーレス「とにかく、その木の所へ確かめに行った方がいいですね。城の中の様子も気になります。急ぎましょう」


〈一斉に動き出す5人。ミレーネ姫の首飾りの光は、皆と行動するようになって、まだ明るさを保っているが、先ほどまでの異様な輝きは少し落ち着く。〉



[20]ー城の庭 塀の近くの大木の上


剣士ケイン「〈光が近付いて来るのを見て〉まずい……。こっちへ来る」


〈木の上で慌てるケイン。その時、枝に引っかかっていた布袋の紐が外れて、袋の口が開く。中から眠ったままのモカを出し、とりあえず袋はそのままに、モカを担いで木から降り、近くの茂みに身を潜める。〉



[21]ー城の庭


ポリー「この木よ」


ジュリアス「〈見上げて〉光も木の上までは届かないな」


近衛副隊長ウォーレス「姫様、首飾りをもっと上にかざせますか?」


ミレーネ「ええ」


〈ミレーネ姫が首から首飾りをはずし、手に持つ。そうしている間に、ケインは気配を消したまま、モカを抱きかかえ、先の暗い闇に紛れ込もうとする。〉


――ドクン、ドクン


ミレーネ「〈首飾りを手にしたまま〉待って。皆、そのまま動かず静かに」


――ドクン、ドクン


〈ケインは気配を消しているが、抱えているモカの心臓の確かな鼓動が姫の耳に届く。〉


ミレーネ(心の声)「これは生きている人間の鼓動だわ。それもすぐ近くに」


ミレーネ「〈鼓動がする方向に歩み寄り、首飾りの光を向け〉ここに誰かいますわ!」


近衛副隊長ウォーレス「姫様、お気を付けて!」


〈急いで、ミレーネ姫の前に出て剣を構えるウォーレス。ジュリアスも、その隣にすぐ並び、剣を構える。覆面をした剣士ケインは、モカを茂みに残し、懐から短剣を取り出すと、無言で茂みから飛び出し斬りつけて来る。〉


近衛副隊長ウォーレス「うわっ!姫様、下がって下さい!」


〈ジュリアスはケインとウォーレスの剣のレベルの高さについていけず、あまり動けていない。ほぼケインとウォーレスの一騎打ち。首飾りを手に持ち、辺りを照らしているミレーネ姫。横からポリーとマーシーが姫を囲むように守っている。短剣でも、敏捷びんしょうな身のこなしで柔軟に対峙して来る相手の様子と、助太刀できていないジュリアスの姿に、見ていてイライラして来るポリー。〉


ポリー「ジュリアス、それでは勝てないわ!私と代わって!早く剣をこっちに」


〈仕方なくポリーに剣を渡し、代わりに姫の守りに入るジュリアス。剣を受け取り、覆面剣士ケインの前に進み出るポリー。〉


近衛副隊長ウォーレス「ポリー様、無茶はいけません。ここは私にお任せを」


〈ウォーレスの言葉に従わず、向かっていくポリー。ケインも向かって来る。必死で手を高く伸ばし首飾りを掲げているミレーネ姫の姿を見て、マーシーがジュリアスに声をかける。〉


マーシー「ジュリアス様、あの、姫様の首飾りを、背の高いジュリアス様が掲げれば、より簡単に明るく遠くまで照らすことが出来るのではないでしょうか」


ジュリアス「いや、それが自分では駄目なんだ。ミレーネ姫かあるいは――〈戦いに気を取られながら、言いかけて、ハッとなり〉いや、何でもない」


〈戦いながら二人の声が耳に入って来たケイン。思わず一瞬、意識が首飾りの話に向いてしまう。その隙をポリーが狙う。〉


ポリー「隙あり!」


〈一瞬で意識を戻し集中させたケインはポリーの剣を短剣でしっかり受け、跳ね返す。強い勢いで地面に転がってしまい、一気に襲われてもおかしくない体勢のポリー。〉


ジュリアス「気を付けろ、ポリー!」


マーシー「きゃあ〜〜」


〈ウォーレスが倒れたポリーを守ろうと動いた途端、ケインは、今度は、ミレーネ姫が手にしている首飾りを目掛けて急に向きを変え、ミレーネ姫に突進して来る。〉


近衛副隊長ウォーレス「姫様!」


ポリー「〈地面に転がったまま、ミレーネ姫の方に顔を向け〉ミレーネ!危ない!」


〈咄嗟にジュリアスがミレーネ姫を抱え込むようにして守る。そこへ一陣の風が吹きつけ、近寄ろうとしたケインの動きを阻む。突風にあおられ身動き出来ないケイン。ミレーネ姫の手の中で、首飾りの石は再び異様なまでのまぶしい光を放つ。ウォーレスが風にあらがいながら、ケインに背後から近付き斬りつけようとする。〉


近衛副隊長ウォーレス「やあーーーっ!」


〈ケインは間一髪、よけて、少し、皆がいる位置から離れる。ミレーネ姫に駆け寄るウォーレス。ミレーネ姫はその時、何かが頭上を駆け抜けたような気配を感じる。月を隠していた雲が切れ、冴え冴えとした月光が庭と城全体を照らす。驚いて月を仰ぎ見る覆面姿のケイン。〉


剣士ケイン(心の声)「月光?身元がばれることだけは避けねば」


近衛副隊長ウォーレス「姫様、お怪我は?」


ミレーネ「大丈夫ですわ。それより怪しい者は?」


〈皆が明るくなった辺りを見回すと、少し離れた所で走って逃げていく覆面の男の姿。〉


近衛副隊長ウォーレス「あっ、あそこに!追って参ります」


〈追いかけるウォーレス。〉


ジュリアス「〈腰を抜かしたようにしゃがみ込みながら〉危なかった……」


〈ポリーも立ち上がって、ミレーネ姫の元に来る。〉


ポリー「ミレーネ、本当に大丈夫?」


ミレーネ「ええ。〈少し落ち着き〉それより、ジュリアス、マーシー、今、私達の上を通ったものは何ですの?」


マーシー「えっ?上ですか?」


ジュリアス「上?何が通ったって?」


〈首を振るミレーネ姫。〉


ミレーネ(心の声)「皆は気付かなかったなんて――。かなりの大きさのものが頭上を空に向かって動いたように感じたのに。それに独特な臭いもしたわ。ええ、まるで湖の深い底のような……」



第8話 終わり


※作者注:ミレーネ姫の最後の言葉が、後々、首飾りの石の謎を解くヒントの一つになります。解明されるのは、かなり先ですが!


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