第9話 眠りから覚めた城 #1

シーズン1 第9話 眠りから覚めた城 #1


[1]ー《緑の国》 城の庭


〈ミレーネ姫を支えるように、横に厨房班新入りのマーシーが立つ。ジュリアスはその側にしゃがみ込んでいる。少し向こうで転がされていたポリーが立ち上がってやって来る。そこへ曲者くせものを追いかけて行った近衛副隊長ウォーレスが戻って来る。〉


ジュリアス「曲者は?」


近衛副隊長ウォーレス「城の裏手の闇に紛れてしまいました。城の灯りがつかない限り、見つけるのは難しいと思われます。すぐ塀を越えれば森ですので、そこへ逃げ込まれたら、捜索に必要な人数もかなり多くいるかと」


ポリー「悔しい・・・。私が副隊長の足を引っ張ったのだわ」


近衛副隊長ウォーレス「いえ、私一人では皆様全員を守りきれなかったかも知れません。相手は相当、腕の立つ刺客でしたから」


ミレーネ「刺客ですって?何のためにお城へ忍び込み、何を盗もうとしたのかしら?大きな袋を持って逃げようとしたのでしょう?」


ジュリアス「分からない・・・。とにかく、次は王様や王子様がご無事かどうかを早く確認しに行こう!」


ミレーネ「ええ、そうね。確かめるまで、とても怖いわ」


〈月の光に全体を照らされた城。一つ一つ灯りが戻って来て、元の明るい城になっていく。〉


ポリー「見て!お城の灯りがきだしたわ!」


近衛副隊長ウォーレス「〈明るくなって来た城内で動く人影を見て〉近衛や警護の者達も動き出したようです。先に行って、曲者くせものの件を報告して参ります」


ジュリアス「ウォーレスはそちらを頼む」


〈城の中へ走っていくウォーレス。〉


ミレーネ「さあ、早く私達はお父様とミリアムの所へ」


〈皆が城へ向かって動き出す。ポリーがマーシーのいないことに気づく。〉


ポリー「あれ、マーシーは?」


〈ポリーが振り返ると、まだ、先ほどの茂みの辺りでウロウロしているマーシー。〉


ポリー「マーシー、行くわよ!」


マーシー「〈走って来て〉あ、あの、今の騒ぎで荷物を失くしてしまいました。皆様はどうぞお城の中に。私はもう一度探してきます」


ジュリアス「一人で大丈夫ですか?すぐに近衛達も庭に出てくると思いますが」


マーシー「さっきよりずっと明るくなりましたので大丈夫です」


〈しかし、その“大丈夫”という言葉とは裏腹になぜか震え、怯えた目つきをしているマーシー。その様子にポリーが気付く。〉


ポリー「念のため、私はマーシーと一緒に行くわ。ジュリアスはミレーネ姫のことをお願い。中で護衛も合流するはずだから大丈夫よね」



[2]ー城 城内


〈あちらこちらに灯りがともり、眠りこんでいた近衛や護衛が目を覚ます。皆、口々に「何だ?」「眠っていたのか?」「なぜだ?」と言い合っている。ミレーネ姫とジュリアスは、護衛と合流し、一緒に城の中を歩いている。そこへ事件の報告を終えた近衛副隊長ウォーレスが戻ってきて、先にいた護衛と交代し、ミレーネ姫の警護につく。王の部屋に近付いていく一行。別の護衛達が走って来る。〉


王の部屋の護衛「王様の寝室には何も異常ありません」


王子の部屋の護衛「ミリアム王子様の方も異常ありません」


〈お辞儀をして持ち場に戻る護衛達。廊下に近衛副隊長ウォーレス、ミレーネ姫、ジュリアスが残る。〉


ジュリアス「ああ、まず、とにかく良かった」


ミレーネ「次はお客様の番よ。急ぎましょう。国賓として我が国へいらっしゃっている時に何かあっては大問題ですもの」


ジュリアス「何も気づかずに眠って下さっていれば良いのだが」


ミレーネ「そうね。後でお父様が今夜の報告をお受けになるでしょう。その時まで、ことを荒立てずにおきたいですわ」


〈今度は客室に向けて歩き始める3人。〉


近衛副隊長ウォーレス「〈歩きながら、ミレーネ姫の首にかかっている首飾りを見て〉城内が明るくなって、首飾りの光が消えましたね。先ほどは、その光に助けられました。それにしても不思議な光でしたが」


ジュリアス(心の声)「首飾りの石の秘密が知られるのは、まだ早い・・」


ジュリアス「〈急いで〉副隊長、真っ暗闇で、自分達も必死だったから、特にそう思えたのでしょう。よくある、暗がりで光るものですよ。それより、今回は助けて頂き、本当に有難うございました」


ミレーネ「あの場にウォーレスがいなかったらと思うと、ゾッとしますわ」


近衛副隊長ウォーレス「これが私の任務ですから。しかし、ポリー様がかなり武術を上達されていたことには驚きました」


ジュリアス「その件は口外せぬようお願い出来ますか?実は今、ポリーは父から武術を禁止されているのです」



[3]ー城の庭 茂みのそば


〈茂みの陰の地面に置かれて、眠ったままのモカを見るポリーとマーシー。マーシーはモカを抱き上げる。〉


マーシー「さっきの騒ぎの後、ここにいるのを見つけたのです」


ポリー「まさか、この子が妹?・・・死んでないわよね?」


マーシー「はい。心臓も動いて生きています。ただ、眠らされているようです。〈少し揺すって〉モカ、起きて、モカ」


ポリー「これは、どういうこと?目を治すためにお城に連れて来られたのよね?それが、なぜ、ここに倒れていたの?まさか、あの刺客が袋に入れて持ち出そうとしたものがモカちゃんということ?」


マーシー「何がなんだか私にも分かりません。とにかく、誰にも内緒で、まず私の部屋に連れて帰るつもりでした。ポリー様!モカの身にこんな恐ろしいことが起こるなんて!モカ、モカ、しっかりして?痛いところはない?大丈夫?」


〈ううんと反応するモカ。まだ半分眠ったままの様子。〉


ポリー「待って。今はまだ起こさないで。犯人の目星がつくまでモカちゃんの居場所を他の人に知られるのは危険よ。まだ誰にも見られてないわね。〈辺りを見回し〉隠して連れて行くわよ。モカちゃんにかぶせるようなものを何か持っていない?」


〈マーシーが地面に置いていた鞄を探り、風呂敷のような大きい布を取り出す。目を合わせて頷き合う2人。マーシーの背中におぶさったモカの上から風呂敷をかけ、マーシーの鞄をポリーが持ち、歩き出す2人。〉


ポリー「でも、いったい誰がどうして・・・」



[4]ー城 サイモン王子の客室


〈すでに部屋に戻った覆面剣士ケイン。サイモン王子と従者レックスは入眠作用のあるお茶に仕込んでいた睡眠薬で、まだ爆睡中である。ケインが着替えを済ませたところに、扉がノックされる。寝ぼけた振りをして扉を開けるケイン。廊下に近衛副隊長、ミレーネ姫、ジュリアスが立っている。〉


剣士ケイン「〈眠そうに〉どうされましたか?」


ジュリアス「何か変わったことはありませんか?」


剣士ケイン「王子と従者は寝ていますが、中にお入りになられますか?〈夜中にも関わらず、バタバタと人が行き来している廊下の様子を扉から覗いて〉城内が騒がしいですね。何かあったのですか?」


近衛副隊長ウォーレス「城の明かりが一時的に全て消えたものですから。すでに復旧はしておりますが、ただ今、状況を確認中です。念のため、朝まで警戒をおこたらないようにして頂きたい」


剣士ケイン「承知いたしました〈扉を閉める〉」


ミレーネ「王子様達もご無事で何よりですわ」



#2へ続く

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