あたしのリンゴ

赤いの実は愛の果て。

     青いそれより藍の先。


      この知恵の実は

            何処にもなくて、

              見えなくて。


ずっと赤より遠くて短く、

     きっと青を越えた先。

         花すら染めゆく薄紫。

 それは七つの蛇の端。


―――――

         黒い泥から芽を出して、

       優しい光を見つめたら、

  青い腕を 天へと伸ばす。


    無邪気な風がひるがえ

       黄色い日射しがキラキラ踊る

   薄く明るい緑の葉。


      数多の涙が舞い狂い、

          夜の虫の音がやむ頃に

     あの子は紅いまと

          冷たい白を着る前に。




   数多の星が空を巡り

        幾度も霜が地に下りて


       あの子は大きく強くなる

    可憐な無垢を咲かせるほどに。


濃い泥土より知恵を得て、

   七つの蛇より愛を知る。

       身体が膨らみ、心が満ちる。


               ―――――


そして、今やあたしの手の中。


あぁ、愛しいあなた


  冷たい皮にあたしの熱がじんわり移る。

          明るく優しく触っても

         甘い蜜には届かない


  もうこのまま どこか遠くに捨てようか


       彼方に見えるは深い藍

     綺麗な朝日が毎朝昇る

  みなが愛する素敵な偶像。

         あたしに届かぬ藍の果て

        堕ちれば誰にも届かない


  それともそこに 放り出してしまおうか


視界の端の鯉の池。

  朱い魚のくらい口

           すぐに腐って甘い泥

        蜜には届かぬ濃い香り

    しょっぱい唾だけしたたった。




 迷ったあたしは悩み続けて

       静かにそっと眼を閉じた。

丸いその実を両手に包んで。



              口いっぱいの

          甘い果肉を夢にみて。

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