何でもない私だけの石ころ
その日は、実習室での授業だった。
私の席の机の裏に彫られた一文。
『私だけが私じゃないの』
うっかり筆箱をひっくり返して、机の下に潜り込んだときに、たまたま見つけた。
シャーペンの先で何度も削って書かれたような一文。
何だか口の中で転がしたくなる響きを感じ、授業も上の空で、そぉっと指でなぞっていた。
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帰り道。
友達と分かれて、一人で歩いているときに、ふと思い出す。
アレはどういう意味だったのか。
「私」以外に「私」がいるってこと?
つまりは、ドッペルゲンガー?
ホラーは苦手だなぁ…
もしくは、多重人格?
アレは病気の一種だというから、助けを求める声なのかも。
それか、厨二病?
それこそ、多重人格に憧れてたり…。
そうでないなら、哲学?
「私」だけでなく、みんなが「私」の視点、つまり、主観を持っているということ?
それなら、自分と他者についての話?
他人との間にこそ人格が生まれる的な?
それともそれとも……
………………
……
ふと気がつくと、我が家の玄関前。
考えに耽って、足元しか見えてなかった。
あぶない、あぶない…。
まぁ、とりあえず、今のこの私は私だけだ。
愛犬の熱烈なお出迎えに応えながら、そう確信する。
リビングからは、温かい甘い香り。
「ただいまぁー」
今日のおやつは、何だろな。
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