三度唱えるまで待って

「よしっ…!」

 彼女は気合を入れると、深く息を吸い込んだ…。


「とうきょうとっきょキョキャキョキュ‼」


「あはは、言えてないしー」


「あー…もういいの!

 ホントは、東京特許 許 可 局 なんて、存在しないんだから!」


「だよねー、私もゆっくりなら言えるんだよな


 ...って、え?無いの?!東京特許 許 可 局 ?!」


「うん、特許は特許庁が管理して...って、何急にスマホ触ってんの?」


「ホントだー。

 ふーん...そういう名前のドラマもあったんだー」


「ググってたのか、このやろう!

 あたしのこと信用してねぇな、このやろうっ!!」


「いたいいたいいたい、ごめんって!

 でも、早口言葉なんて、そういうの多いな」


「たしかに…客が柿をよく食うとかどうでも良い!」


「そういえばさ、イタリアの早口言葉で、『ベンチの上のヤギは生き残って、下のは死ぬ』みたいなのがあるって聴いたことあるわ」


「何それ...呪い...?」


「ぷっ...あはははっ

 怖い!怖いよ!

 そんな呪いのベンチのある公園なんて行かないわ!!


 あ、魔除けの呪文になってる早口言葉もあるらしいよ」


「ヤバすぎ...

 ヤギは早口言葉を言えないから、きっと魔にヤられた...」


「ぷふふっ

 魔ってなんじゃい?!


 てかさぁー、英語の宿題めちゃ難しくなかった?」


「え?!」


「あー、もしかして忘れたの?

 英語、次だよ…」


「………。

 私!今日はベンチの上で過ごすから!

 トウキョウトッキョキョカキョクトウキョウトッキョキョカキョクトッキョキョカキョク」


 彼女が教室を飛び出すと同時に、始業のベルが鳴る。

 晴れた日の心地良い午後。

 今日も空は青く、雲は白い。

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