第78話 姉の受難 5
玲奈改造計画を企んでから数日後、私は家で玲奈を待っていた。
春樹にはバレないように、春樹が中学の部活に行ったタイミングで家に玲奈を呼んだ。
「そろそろかな」
時刻は10時前。玲奈に家に来るように指定した時間は10時。
集合時間まで刻一刻と時間が近づいていた。
『ピンポーン」
「来たわね。はいは~い! 今開けるからちょっと待ってて」
私も出かける準備をして、玄関へと歩いていく。
ドアを開くと、そこには可愛らしい服装をした玲奈がいた。
「すいません、遅れました」
「全然待ってないわよ」
ふむふむ。相変わらず玲奈は可愛いわ白の花柄のワンピースに大人っぽいデニムジャケット。
格好可愛い玲奈にはぴったりなコーデだ。
「それじゃあ行きましょう」
「どこに行くんですか?」
「それはまだ内緒。とりあえずついてきて」
「わかりました」
家を出て私はある場所へと歩き出す。玲奈も私の後ろを黙ってついてきてくれる。
「美鈴さん、ここら辺あんまり人がいませんけど大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。私を信じてついてきなさい」
大通りから外れた人気のない路地を歩き、私が来たかった場所に玲奈を連れて来た。
「ここよ! 私が連れて来た場所は!!」
「美鈴さん、ここって‥‥‥」
「私が通っている美容室よ。玲奈の魅力をアップさせるために、まずはその髪型を変えましょう」
「髪形を変えるんですか?」
「えぇ、せっかくだから今よりももっと可愛い髪形にしましょう」
今の玲奈の髪形も似合ってはいるけど、どこか昔の田舎の芋娘のようにしか見えない。
もう少し髪形を変えて垢ぬければいいのにと中学時代からずっと思っていた。
「髪形を変えるんですか?」
「そうよ。何か不都合でもあるの?」
「別に不都合はないんですけど‥‥‥」
「その髪型に思いいれがあるなら、ぜひ聞きたいんだけど?」
「えっ!? でも恥ずかしい」
「大丈夫よ。笑ったりしないから」
玲奈の事だ。きっと些細な理由だろう。
もしかすると私に憧れて髪を伸ばしている可能性もある。
「本当に‥‥‥本当に笑わないですか?」
「笑わないわよ」
「それなら話す」
恥ずかしがっている玲奈も可愛い。思わず抱きしめたくなってしまう。
いかん!! 思わず鼻血が出そうになったけど、ギリギリでそれを堪える。
「昔‥‥‥」
「昔?」
「昔‥‥‥春樹が『玲奈の髪はサラサラで綺麗だね』って言ってくれたからこの髪形にしてるの」
「よし! 即刻その髪の毛をバッサリ切って、可愛い髪形にするわよ」
春樹はいつの間にそんなこと言っていたのよ。
これはダメだわ。少しでも春樹の影響を消さなきゃ。あいつの存在事態が害悪なのに、より一層悪影響を与えてしまう。
「待って美鈴さん!? 私今結構重要なこと言ったつもりだけど!?」
「春樹が出てくる時点で全然重要じゃないわ。早く中に入るわよ」
「でも‥‥‥」
「それに長い髪よりも短い髪の方が春樹も気に入ってくれるかもよ」
「そうかな?」
「そうよそうよ。だから行きましょう」
「わかった」
ちょろい。今の玲奈はちょろすぎる。
春樹の名前を出すのは癪だけど、それで今よりも玲奈が可愛くなるならこの作戦もやぶさかではない。
「すいません、今日予約した小室ですけど‥‥‥」
「いらっしゃいませ。あら! 久しぶりね、美鈴ちゃん」
「お久しぶりです」
「今日はどんな髪形にする? 春だから、いつもより少し短めにしてあげようか?」
「すいません。今日お願いしたいのは私じゃないんです」
「そうなの?」
「はい。実はこの子を何とかしてほしくて」
そう言って私は玲奈をお姉さんの前に出す。
玲奈は驚きながらも、恥ずかしそうに前に出るのだった。
「美鈴ちゃん、どうしたの!? こんなに可愛い子を連れてきて!?」
「可愛いだなんて‥‥‥そんな‥‥‥」
「そんなに謙遜しなくていいのよ。貴方は可愛いの。玲奈」
玲奈はこうして可愛いと言われることに慣れていない。
だからこうしてすぐに恥ずかしがってしまう。
「美鈴ちゃん。この子ってもしかして鈴ちゃんの妹さん?」
「悲しいことに、この子は私の妹じゃないんです」
「そうなの?」
「えぇ、過去何度もこの子が私の妹ならいいなと思っていたんですけど。非常に‥‥‥非常に残念ながら、血はつながってないのよ」
今まで生きてきて玲奈が血がつながってればいいと何度思った事かわからない。
うちの愚弟と玲奈を何度交換したいと思った事だろう。その数は夜空に見える星の数以上に考えた。
「それで美鈴ちゃんの要望としては、この子の髪を切ればいいの?」
「えぇ、出来れば可愛くしてほしいの」
「私に任せて!」
そういうと美容院のお姉さんは目をキラキラとさせながらどこかへ行ってしまう。
その後どったんばったんという音が聞こえて来たので、どうやら奥のバックヤードから何かを探しているようであった。
「美鈴さん、あの人は誰?」
「私の髪をよく切ってくれるお姉さんよ」
「そうなんだ」
「中学に入った時からお世話になっている人なの。だから玲奈の髪もきっと可愛く切ってくれるはずだわ」
この人とは中学に入ってから大体3年、もうすぐ4年になるの付き合いだけどその間私の髪を切ってくれた。
初めてこの店に来た私の無茶なわがままもちゃんとこなしてくれた凄い人である。
「この人なら信頼できるから、きっと玲奈の髪も可愛くセットしてくれるはずよ」
何よりこのお姉さんは私と同じ可愛い女の子好きであることに共感がもてる。
だから玲奈のような可愛い子のセットも真剣にしてくれるだろう。
「お待たせ。ちょっとカタログを探すのにてこずっちゃって」
「そのヘアーカタログの山、どうしたんですか!?」
「これ? その子に似合う髪形がないかなって思って、ちょっと調べてたんだ」
「あの一瞬で?」
「ちょっとって量じゃないと思うんですけど‥‥‥」
待合室のテーブルの上に置かれた大量のヘアーカタログ本。その量は尋常じゃない。
「このカタログに全部目を通したんですか?」
「そうですよ。流し読みみたいな感じだけど、一通りは頭に入ったかな」
この一瞬でこの量のカタログに目を通すなんて、やっぱりお姉さんは凄い。
どうやら私の目に間違いはなかったようである。このお姉さん、本気で玲奈の事を可愛くしようとしているみたいだ。
「お忙しいのに、すいません」
「美鈴ちゃんこそ、そんなに謙遜しなくて大丈夫よ。これも仕事だから。それに‥‥‥」
「それに?」
「それにね、こんな可愛い子がわざわざ私を指名してくれたんだから、腕によりをかけて切らせてもらうわ」
さすがお姉さん。よくわかってる。
初めて私が来た時も同じことを言っていた。
だからこの人は信用できるのだ。現に今も目をキラキラとさせながら、玲奈の事を見ている。。
「それで今回玲奈ちゃんに似合うと思った髪形なんだけど、ショートカットとかどう?」
「ショートカットですか?」
「そう。大体こんな感じになるんだけど、どうかな?」
「凄く‥‥‥可愛いです」
「そしたらその髪型に決定しても大丈夫? 今伸ばしてる髪の毛をバッサリ切っちゃうけど」
玲奈は質問されて考えているようだ。
本当にその髪型にしようか悩んでいるように見える。
「こうすれば‥‥‥」
「うん?」
「こうすれば‥‥‥私も可愛くなれますか?」
「もちろんなれるわよ。お姉さんが保証してあげる」
ここまでこのお姉さんが自信満々に言うのは珍しい。
普段は冷静なのに。余程玲奈の事を気に入ってくれたのだろう。
「それじゃあこれから切るから、こっちに来て」
「はい」
それから玲奈はお姉さんと一緒に髪を切りに行く。
戻ってきた玲奈は垢ぬけており、今までより数段可愛くなったのだった。
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ここまでご覧いただき、ありがとうございます。
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神殺しの少年
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