第12話 魔獣

「お前達!! そこで何やってるんだよ!!」



 僕が叫んでも襲い掛かる人間はその歩みを止めない。

 抵抗する女性に対して、腕を掴み噛み付こうとしている。



「その人から離れろ!!」



 僕が全身を使って体当たりをして、やっと女性から手を離した。

 そのまま僕と襲った人は地面に倒れてしまう。



「やったか?」


「アァ‥‥‥ア‥‥‥」


「なっ、何だよ!? こいつは!?」



 僕が体当たりをした人間はどこかおかしかった。服は人間と同じものを着ているが、手や足の肌の部分は紫色になっておりとても人間とは思えない。



「ァ‥‥‥ァア‥‥‥」


「目の焦点もあってないし、本当に生きてるの?」



 まるで死人が蘇ったかのようだ。映画でいうとゾンビのようである。



「この人‥‥‥本当に人間?」


「アァ‥‥‥アァ‥‥‥」


「まずい!! 逃げないと!!」



 その場に立ち上がるが、時すでに遅し。目の前の人間もどきは僕の腕に掴みかかっている。



「くそ!! 力が強い!!」



 とても人間の力のようには思えない。その握力で僕の手首が粉々に砕けそうなぐらい痛い。



「この‥‥‥離せ!!」


「ファイアーウォール!!」


「アァァァァァ!!」



 僕と人間もどきの間に炎の壁が出来ると、あまりの熱さの為か人間もどきは手を放してしまう。

 かくいう僕もただでは済まない。あとワンテンポ人間もどきの手を放すのが遅れていたら、僕も丸焦げだった。



「この化け物!! 貴方の相手はその人じゃなくて私よ!!」



 路地奥から現れた女性。それは先程人間もどきに襲われていた女性である。

 僕はその女性に見覚えがある。今日も教室でこの人に怒られた。



「月城さん!!」



 あの長い黒髪に凛とした表情、間違いなく僕のクラスメイトの月城七海さんだ。

 先程は暗くてよくわからなかったけど、今の月城さんは制服姿に黒い手袋をはめていた



「えっ!? 嘘!? 如月君!? 何で貴方がこんな所にいるのよ!!」


「そっちこそ!! 何で月城さんがこんな夜遅くに路地裏なんかにいるの!!」


「それは貴方には関係ない事でしょ!! それよりも早くそいつから離れて!!」


「えっ!?」


「アッ‥‥‥アァァァァァァァl!!」


「なっ!? 人間もどきが急に走り始めた!?」



 体は半分炭化しながらも、人間もどきは僕達を襲おうとする。

 先程の力強さや機敏な動きといい、人間離れをしている。



「この人間もどき、知性があるの!?」


「そうよ。何をしてくるかわからないから、油断しないで」


「くそ!!」



 僕に襲い掛かってきた人間もどきに前蹴りをお見舞いした。

 その攻撃は予想していなかったのか、僕の蹴りは人間もどきの胸部に直撃し後頭部から横転した。



「やった!!」


「まだよ!!」


「アァァァァ‥‥‥」



 性懲りもなく人間もどきは立ち上がろうとする。

 だけど立ち上がる直前、炎の壁が人間もどきを取り囲みそのまま燃やしつくそうとする。



「月城さん!!」


「危ないから、そのまま下がってて」



 いつの間にか月城さんが僕の前に立ち、炎の魔法を唱え続けている。

 その間も人間もどきの周りを炎が取り囲み、周りを燃やし続ける。



「あれは一体‥‥‥」


「あれは魔獣よ」


「魔獣!? 人間の姿なのに!?」


「そうよ。あれは最近この辺りで出回ってる魔獣なの」



 その話を聞いてピンときた。この魔獣はもしかして‥‥‥。



「最近東京近辺で魔獣が目撃されているってニュースがあったけど‥‥‥」


「えぇ、きっとそれはこいつの事だと思う」


「こんな僕達の近くにいるなんて‥‥‥」


「魔獣なんてどこにでもいるものよ。それこそ世界各地に点在してるわ」



 炎の壁がやがて消失して、中からは先程の人間もどきこと魔獣が姿を現した。

 その姿は先程までとは打って変わり、全身焼け焦げて炭化している。



「これでよし。後は本部に報告して回収してもらうのを待つだけね」


「月城さんは、何でここにいたの?」


「もちろんこの近辺で魔獣が発見されたっていう口コミがあったからその見回りよ」


「見回り? 学生の月城さんが?」


「そうよ。国の方から依頼があって、魔法学園の学徒に所属する一部の生徒はこうして町中をパトロールするように指令が出たのよ」


「指令って‥‥‥それは国が出した命令ってこと?」


「そうよ。実際見つけたらすぐに国の本部に連絡を入れるんだけど、放って置いたらどんな被害が起きるかわからないから先に攻撃を加えたの」



 何ともアグレッシブな人だ。いきなり魔獣に先制攻撃をするなんて。



「でも後から連絡を入れるなんて、国の規律に違反していないの?」


「どうせ連絡を入れたとしても、すぐ攻撃するように指令が出ていたわよ。それが後か先かの話だから大丈夫でしょ」



 とても大丈夫なように見えないけど、ここは黙って置こう。

 結果的に魔獣は倒されて僕達は無事だったんだ。月城さんに感謝をしないといけない。



「月城さんは平気なの? 魔獣なんてものと戦って」


「別に魔獣は怖くないわ。むしろ私にとって魔獣は憎むべき敵ね」


「敵?」


「そうよ。魔獣は昔、私の家族を‥‥‥」



 その時月城さんの後ろから迫る影が見えた。その影は徐々に大きくなり月城さんに迫っていく。



「月城さん!! 後ろ!!」


「後ろ? 後ろに何が‥‥‥」



 もっと警戒しておくべきだった。魔獣はただものじゃないってわかってたのに油断していた。

 先程の魔獣がおもむろに立ち上がり、月城さんのすぐ後ろまで迫っていた。



「なっ!?」


「アァァァァァァ!!」


「月城さん!!」



 僕が声をかけた時にはもう遅い。魔獣は月城さんに向けて襲い掛かった。



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