転生なら頼むから僕に任せろ!

西東友一

第1話

 トラックが僕の目の前に現れる。

(あっ、これ…テンプレのやつだっ)


 激しいブレーキ音と眩しいライト。

 五感のうちの二つにすごい刺激を与えられると、体は全く動かなくなる。


(閃光手榴弾を投げつけられると、これ以上なのかな?)

 日常生活にありえない状況に直面すると、人間は無駄なことを考えるようだ。


「やっと、転生できるんじゃね?」

 僕はそんな非現実的なことを呟いた。

 

 次の瞬間全ての五感が停止し、何も感じなくなった。

  


 ブーーーッ


 トラックのクラクションの音で意識が戻る。

 痛みなどは全くない。

 転生に成功したかもしれないぞ、これ。


 魔法のある世界なら嬉しい。けど、女ばかりの世界でモテモテもありだし、現代の知識を利用して、店を経営してもいい。

 こんなことがあろうかと、異世界転生の鉄板のマヨネーズの作り方だけは学校の成績が良くない僕でもしっかり覚えている。


 ブーーーッ


(うるさいな、さっきから)

 トラックのクラクションがまた鳴る。


(でも、あれ?もしかして痛覚がなくなっただけで、僕はその場に倒れたままのパターンか?)


 僕は目を開けようと目に力を込める。


 パァッ

 トラックのライトが付いた。


(ん?)

 目の前には倒れている僕、秋本トラオがいた。


『目を覚ましたようですね、秋本さん』

 脳に直接女神の声が聞こえた。

(あっ、ここから始まる感じか。よかった。今は霊体なのかな?)

 自分の体が透けてるか確認したいが、定点カメラのように視界が動かない。


(くそっ、動け…っ。駄目か。まぁいいや、女神様。早く連れてってくださいよ。転生する心の準備はもうしてあるので)

 僕は心の中で念じる。すると、女神から返事が返ってきた。


『…秋本さん。あなたは罪を犯しました。あなたはその罪を償うまで転生できません』


(えっ、僕は転生することだけを心の支えにして、いじめも我慢しましたし、勉強も…駄目だったけど、僕なりに頑張ってましたし、罪になるようなことはしてきてないはずですっ!)

 僕は反論する。


『そうですね…今まではしてきまおりませんが、『今さっき』されました。あなた…わざとトラックの前に飛び出ましたね?』

(…)

 僕の心は限界だった。


 夜中に、味方だと思っていた家族にまでひどいことを言われて、家を飛び出した僕は行く当てもなく歩いていたら、このトラックがやってきて、気づいたら足が出ていたのだ。


(地獄に行くんですか…?僕は)

 ぎゅっと体の先にも力がこもる。


『えぇ。本来であれば、これから閻魔様のところにあなたの魂を預ける必要があります。自殺とはかなりの重罪ですから。地獄のルールも現世の労働基準法改正と同じで、環境がよくなりつつありますが、親よりも先に亡くなったということであれば、三途の川で半永久的に石積みを行うようになるかもしれませんね』

(『半永久的』って…ほぼ永久じゃん)

 確か三途の川での石積みは石を積んでいると、鬼が来て破壊して、また積み上げるのを『永久』に行うという童話を聞いたことがあるが、『半』永久的となっているようだ。


『ムリゲーから、ベーリーハードゲーになりました』

(いやいや、僕には無理でしょ)

 そういうゲームは超苦手だ。


『ですが、あなたには転生する資格があります。本当でしたら、あと3日後に転生させる予定でした』

(うそんっ)

 はやまったことをしてしまったらしい。


『なので、チャンスを与えます。罪を償うチャンス。私が出す条件を達成すれば、あなたの望むファンタジーの異世界に転生させます』

 

(受けます)

 僕は即答した。

『いいでしょう。では、あなたはその姿で100人のあなたと同じ境遇の人たちを異世界に転生させてください』


 ブーッ

(えっ)


『実はすでにあなたをトラックに転生させてあります。実は毎回実在する運転手さんに過失運転致死の罪を被せることが天界で議論になっていまして、無人トラックになってくれる魂を募集していたんですよ』

 てへっ、と女神が陽気な声でおねだりしてきた。


 僕はようやく自分の体がトラックになっていることに気づいた。


 ◇◇

 それから、僕は馬馬車の如く働いた。いや、トラックだから、トラックのトラックの如く…。いや、なんでもない。


『はい、そこを左折でーす』

 脳内に響く声の通り、今日も深夜に僕は走る。


「うわっ」

 目の前でぼーっとしていた少年にライトとブレーキ音で五感を奪い、異世界転送を行う。

『はい、あと15人。次は高速に乗って、埼玉まで行くわよ』

(…)

 僕は女神と契約した。100人の人々を異世界に送り届ければ、異世界に転生して、本来であれば1つの望みだったところを2つの望みを手にした状態でスタートできる契約だ。

 そして、この契約にはさらに条件がある。


「うわっ」

(あっ、間に合わない)


 ドンッ


「はい、あと100人ね」

(だああああああっ!!)

 自殺しようとトラックに出てきた人を轢いてしまった場合は、数字がリセット。僕のミスの場合は、プラス10人追加だ。


『はい、君も今日からトラックね』

 そして、轢かれた人もトラックになる。


 …みんな、頼むからトラックに轢かれないように気を付けてくれ。

 特に自殺でトラックの前に出るのは駄目だ。

 異世界に行くべき奴はちゃんと順番に送り届けるからさっ!?


 Fin

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生なら頼むから僕に任せろ! 西東友一 @sanadayoshitune

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ