冥婚

よしおかさくら

.

わたしは朝を証明しなくては


──光はどうですか

盲いていても


──鳥の囀りは

音を拾えなくても


──時間は

夜の長さは計れない


──朝食にスープを

食に喜びを見出せなければ


朝を証明する義務がある 睡眠食事が滞りなく訪れ この人生は喜びに満ちている 

しかし 

死ぬ前に朝を地に刻印する必要がある


植物に命を捧げ 新しい稲を作る 血や肉でなく ただ命を それで世界は救われると聞いた 荒れ果てた世に丈夫な稲を 地に刻印を


それは首筋から聞こえる

わたしは唱和する

管を通って

命が

植物の株に吸い込まれる

命ではない物が少しずつ還ってくる

わたしは毎日

少しずつ薄められていく

色はほとんど無い


なぜ命を早めると こいびとが泣いて 父母が泣いて わたしが泣いた

弱って腫れてしまいたくない

朝を歌えなくても

霞のように消えていきたい


そのようにしてわたしは死んだ

朝を証明すると言いながら

朝を奪った

こいびとは

死後の結婚を仄かしていた

そして


実行した


こいびとは

わたしが腐らないうちに

わたしを蹂躙した

処女のままでは呪うと言って

わたしはこいびとに

わたしを与えなかった

汚されたくなかった

死が

全て清めてくれると

知らなかった

わたしは無い

わたしは無いのに

こいびとがわたしを泣く

それから埋めて

おしまいにした


こいびとがこいびとを作り

新しい稲を共に食し

結婚して

繁栄して

わたしは呪いを始めた

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冥婚 よしおかさくら @sakuraga396

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