第5話 異世界滞在・最終日
「忘れもんないよな?」
「ええ」
境林の最奥。最初に着ていた服を身にまとい、シュテリーゼの貴賓は社の前に立っていた。
1階建ての木造平屋の前に、赤い木のオブジェがそびえている。
「シキ。まこと世話になった。ハルカや集落の者たちにも、礼を伝えておいてくれ」
「ああ、伝えとく。皆喜ぶだろうよ」
「……そういえば、どうやって帰ったらいいのかしら?」
「それはそろそろ……お、来たな」
紫輝が指さした先には赤のオブジェ。オブジェを通した先の景色がゆらりと歪んでいる。
「あの鳥居をくぐれば帰れる」
「ふむ……特に痛みも伴わないようだな」
「多分はぐれることはないと思うけど……心配なら手でも繋いでった方がいいぜ」
「そうね、そうするわ!」
ルチーアはフィオルスの手を取る。彼女は慌てるが、ルチーアはニコニコと笑うばかりだ。
「それじゃあシキ、私たちは行くわね。短い間だったけれど楽しかったわ!」
「ひ、姫様お待ちを! シキ、息災で!」
笑顔で手を振ったルチーアが鳥居に飛び込み、その後をフィオルスが追う。
……鳥居の向こうから二人が顔を出すことはない。紫輝は安堵の息を吐き……鳥居越しに二礼二拍手一礼をして、本殿に背を向けるのだった。
境林のマレビトさん 篠原 鈴音 @rinbell_grassfield
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