第2話

「南北朝の動乱はまだ終わってないの」


 先程の神社へ連れていかれたかと思えば、開口一番にそんな事を言われてあっけにとられる。

「どういう意味?」

「さっき、アナタ、南北朝時代の話してたでしょ」

「う、うん」

「じゃあ、後南朝ごなんちょうって言葉も知ってるよね?」

 読んで字のごとく、二つの朝廷が合体した後でもなお、抵抗したかつての南朝勢力。僕は首を縦に振って、話の続きを促す。

「吉野には南朝の天皇や忠臣の神社があるの。そこで神として鎮魂されているのだけど、後南朝がいた時代には、そんなものは全く無く、神社のほとんどが明治維新の時につくられたの」

「……そうだったんだ」


 深緑の和服を着た少女は淡々と郷土の歴史を語りだす。まるで姿だけが若々しいだけで、中身は老婆のようにさえ感じさせる話しぶりだ。

「明治維新で神社を多く建てたのも、『我々は北朝ではなく南朝として新たな政治を始める』っているイデオロギー的役割が強く、主要人物ばかりで、後南朝の人々はそこでも日の目を見なかったの」

 これはルポルタージュのネタにうってつけだと、少しずつ彼女の話に魅了され、僕の関心が伝わったのか、彼女も重大な秘密を明かすように話し続ける。


「お兄さんにだけ特別に教えてあげる。南朝の怨念は確かに静まったかもしれないけれど、後南朝は違う」

「つまりまだ、成仏?はしてないって事かな」

「その怨念はもうすぐ爆発し、人々を呪い殺すよ」

「そんなまさか」

 中高生の変わった女の子の妄想か、あるいは観光客への嫌がらせか。

 科学は未だ万能ではないが、何もかも言われたままを信じる人は少数だ。それはまさしく後南朝みたく、先の時代に懐古しているに過ぎない。


「私を信じればお兄さんは助かる。でも、そうじゃないなら、お兄さんのお友達と一緒に苦しむことになるよ」

「………避ける事はできないの?」

「無理だよ」

 バッサリと言うが、仮に真実であったなら、祈祷師きとうしなどはついに看板を下ろさざるを得ない。

「君を信じれば、僕が助かると言ったけど、笹山、僕の友達は」

「死ぬよ」

 冗談の域をついに越え、僕はどうしたものかと思ったが、無視できないような不思議な目がまっすぐ、こちらを見つめ続けている。


 お化けかと疑った相手から、怨念話を聞かされたのだ、戸惑いを隠せないのも仕方ない。単なる妄想と切り捨てられないのが、何よりも僕を混乱させた。


「今夜、一人で夕食前にここに来て。私と二人で晩ごはんを食べるか、旅館で最後の晩餐ばんさんにするかはアナタの自由だから」

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