後南朝の華

綾波 宗水

第1話

 南北朝時代。教科書ではほんの少しのページしか割かれていない。

 だが、その名の通り、北にある京都と、南に位置する奈良・吉野の両方に朝廷があった時代であり、その前後に当たる鎌倉幕府倒幕~建武の新政と、室町時代は、その一天両帝によって、動乱の世となった。


 結果的に言えば、勝者は足利、すなわち北朝側であり、南朝は吸収合併。しばらくは抵抗した勢力もいたが、やがて史料にその名は見当たらなくなってゆくのだった。



「さすがはルポライター志望だな。俺はそんな説明聞いても眠たくて仕方がね~よ」

「僕も受験勉強くらいで、こうして宿泊券を貰えなければ、一生、思い出すことは無かったかもしれないな」

 大学二年の秋、友人の笹山ささやま信二しんじがノリで奈良の南部にある吉野への無料旅行へ応募し、偶然にも当選。

 彼女を誘うつもりだったようだが、当選発表の頃には、破局しており、僕が誘われ、悲しくも気楽な男二人の旅となったのだ。


 僕は笹山の言ったように、ルポライターになりたいと考えており、旅行やその地の歴史が好きなので、実はかなり感謝しているものの、当人が失恋のショックで、田舎の風景に悪態をついているので、道中はそこまで盛り上がらなかった。

 二泊三日に旅は始まったばかりだというのに、これではなかなか大変だぞと心の中でぼやきつつ、ふと視線を寂し気な神社へ向ける。


 田舎ゆえに、滅多に人とはすれ違わず、その多くは老人だったのに対し、そこに居たのは和服を着た少女だった。

 幼女ではないのがむしろ、神隠し的な何かを彷彿とさせ、不思議と目が離せなかった。


「こんにちは………」

 非現実的存在でないのをそれとなく確認するために挨拶をした。笹山も気づいたようで、僕にしか聞こえないくらいの声で「うっ」と驚いていた。

 しかし、その和装少女は何も答えず、境内へ消えていった。

「お化け?」

「まさか」

 何となく気になる出来事が起きたのもあって、笹山は機嫌をもどし、ようやく旅館へと着いたのだった。


 そう若くはないだろうが、綺麗な女将さんに案内されたのは、写真とは少し違うようにも感じさせる和室。

「まあ、無料で旅行出来てる訳だから、仕方ないか」

「たしかにな~」

 二階の窓からはそれなりに大きな池が見えるので、見に行こうと誘ったが、疲れたと言って昼寝をし始めた。本当に気ままなヤツだ。


 ルポライターごっこと言われればそれまでだが、僕は旅の写真と紀行文的なモノを作るのが趣味だったりする。

 彼と一緒に居ては、写真なんて撮れたものじゃないので、構わず池のコイにピントを合わせていると、どこからともなく「こんにちは」と言われ、顔をあげると、さきほどの少女の姿があった。


「アナタになら、話してあげる」

 年下なのを思わせない、神妙で大人びた表情でそう言われた僕は、黙って、彼女へついていく事に決めたのだった。

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