Case 3-4.Date + Date
「疲れた……」
俺はベンチに倒れ込むように腰を下ろすと同時、素直な心情を空気中に投げ出した。
「同感だわ」
隣に部長も座る。いつも内面の見えない表情には、珍しく疲労の色が浮かんでいた。
フリーフォールに引きずられるように四人で乗った後も、
「これで、いいんですよね?」
「ええ」
夕月と昴。俺と部長。二手に分かれての行動は、夕月に伝えていない部長の作戦だ。夕月にできるだけ未練が残らないよう、自然と昴との二人きりの時間を作る。そのために俺と部長は休憩という名目で別行動をとった。もちろん、疲れたというのも本当だけど。
「二人ともアウトドア派でよかったわ。どちらかがインドア派だったらこの作戦は成立しなかったもの」
部長はベンチに力なく背中を預ける。微かに風が吹いて、彼女を包む空色のワンピースが膝のあたりでゆらゆら揺れた。
「あいつ……今日で諦めるつもりなんですよね」
「あら、こうして一緒に来ておいて、今さら協力しないなんてのはナシよ?」
「わかってますよ」
今回の件で、俺にその資格はない。幼なじみとして近くにいたのに、あいつが悩んでいることに気づいてやれなかったのだ。どうこう言える立場にない。
ならせめて、夕月の望むことに協力してやるのが、せめてもの罪滅ぼしだ。
隣を見れば、部長が虚空を覗き込むように空を見上げていた。この人は、どう考えているんだろう。いつもと同じように、恋に対しても、きちんと諦める手伝いをする。そう思っているんだろうか。
「そういえば部長、今日はストールしてないんですね」
ふと気になったので訊いてみた。トレードマークたる青いチェックのストール。肌を守るためということで、美術展覧会の時でさえ身に着けていたそれは、今日は彼女の首周りには見当たらない。
「さすがに今日は暑すぎるもの。その代わり、しっかり日焼け止めは塗ってきたわ」
言葉どおり、ワンピースからのぞく白い腕や足は日焼け止めでつやつやしている。どれくらい塗るのが正解かよく知らないが、塗りすぎなようにも見える。
「……」
「な、なんですか?」
無言でじっ、とこちらを見てくる。じろじろ見ていたのがバレたのだろうか。
「……それだけ?」
「は?」
「今日の私の格好を見て、何か言うことはないの?」
「何かってなんですか」
ストールをしていないことにはさっき触れた。他に何があるというのか。
「せっかくのデートなのに、女の子の服装に対してコメントはないのかしら?」
「でっ」
思わず舌を噛みそうになった。
「デートって、俺たちは夕月の付き添いでしょ!」
「あら、今日の名目はダブルデートでしょ? 間違いじゃないわ」
「たしかにそうですけど……」
というのは建前で、実際は面と向かって褒めるのが気恥ずかしいだけだ。正直、すごく似合っていて……かわいいと思う。そんなこと言えないけど。
「そういうのは、彼氏ができたらその人にでも言ってもらってください」
「あら、残念」
その残念には「服装を褒めてもらえなかった」というより「俺をからかえなかった」ことを意味しているように聞こえた。勘弁してくれ。
俺は脱力してベンチに背中を預ける。ある意味ジェットコースターに乗るよりも疲労感がある。このままだと、次はどんなことでおもちゃにされるかわかったものじゃない。夕月たち、早く戻ってこないかな。
なんて考えながら、ぼんやりと前を見つめていた時、
「あ~! 待ってよしゃーく君~」
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