Case 3-3.The method to give up

「もしかして、すばるか?」

「!」


 ぴくり。三度夕月の身体に力が入る。そして数秒経ってちいさくうなずいた。どうやら図らずも正解を当ててしまったらしい。


「そっか、昴のことを……」


 教室で三人一緒に昼食をとったりした光景を思い浮かべる。あの時からすでに、夕月ゆづきは昴のことが気になっていたということなんだろう。こんなに近くに相手がいたというのに、気がつかなかった俺はなんて鈍感だったんだ。


晴人はるとくんも知り合いみたいね。どんな人なの?」

「ああ、名前は午塚うまづか昴。俺と同じクラスで、いかにも運動部って感じのやつで、活発な性格だな。ちょっとおおざっぱなとこはあるけど」


 けど、同じ部活で仲良くしていて性格も合いそうだし、お似合いのふたりに思える。まだまだ一緒に過ごす時間もあるだろうし、なにも今諦めなくても。


「その午塚くんに彼女はいるのかしら?」

「俺は聞いたことないけど……夕月は心当たりあるのか?」

「えっ? あ、うん。いないみたい。けど」

「けど?」


 夕月は顔を伏せる。


「この間、男子同士で話してるのを聞いちゃって……気になってる人は、いるみたい。陸上部以外の人、で……」

「夕月……」


 そういうことか。昴が想いを寄せる相手は、少なくとも自分ではない。それで夕月は諦めるという結論に至った。


 本当にいいのか。

 もう一度訊きそうになったが、隣から視線を感じる。これ以上言って彼女の心を乱すのはやめなさい、部長の黒い瞳はそう語りかけていた。


「そう……」


 それだけ言うと、口元に手を当てて黙り込む。考えているのだ。夕月が昴のことを諦める方法を。恋を諦める手段を。


「一番きっぱり諦められる方法となると、やっぱり告白して――想いを午塚くんに伝えて断られることね」


 提案したのは、そんな方法だった。


「シンプルだけど、それが星宮ほしみやさんにとっても明朗な結果として受け取れるんじゃないかしら」

「は、はい……」

「問題はいつ、どこでするか、ね。時間の融通が利きやすいのはやっぱり学校なんでしょうけど――」

「あの」


 考えを整理する部長に、夕月が声を挟む。


「こんなこと言うのはおこがましいかもなんですけど……どうせなら一度くらいはデートしてからが、いいです……」

「夕月……」


 それが夕月の望む形なのだと悟った。『デート』なんて言葉、いつもの夕月ならふざけて言いそうな単語だけど、今の彼女は真剣そのものだ。


「わかったわ」


 そして、部長はそんな依頼人のすべての願いを聞き受ける。きちんと諦めさせるために。


「それじゃあデートした後に告白する、という流れでいきましょうか。もちろん、デートプランは私も一緒に考えるし、当日も近くで見守ることにするわ。あとは午塚くんをどう誘うかだけど……星宮さんが誘いにくいなら、私たちの方でやるわよ?」

「いえ、私が誘います。私のことですし、それくらいは」

「じゃあお願いするわね。後はどこにデートに行くか、ね。もうすぐ期末テストだからその後のテスト休みに行く方がいいかしら?」

「たぶん、その方が予定を合わせやすいと思います」

「わかったわ。本当なら依頼から一週間が原則なんだけど、今回は特例ということにするわ」


 二人の間で、話が進んでいく。夕月は俺にも話を聞いていてほしいと言ったけれど、俺にできることはなさそうだ。それに、夕月ならきっと大丈夫だ。ちゃんと諦めて、いつもどおりの笑顔でまた俺のことをからかいにくるだろう。俺はそれを待っていればいい。


「えっと、それでもう一つお願いがあるんですけど」

「気にしなくていいわ。星宮さんは依頼人なんだもの。なんでも言って?」


 部長が笑みを向けると、夕月はもう一度唇にきゅっと力を込める。それからどういうわけか、俺の方を一瞥して、


「デートなんですけど、二人きりだと緊張するので……とばり先輩とハルも一緒についてきてくれませんか?」

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