Case3

Case 3-1.Rest in early summer

 天国と地獄。


 高校生にとって、七月はそう形容するのにふさわしい月だと思う。

 前半には期末テスト。後半には夏休み。負のイベントと正のイベントを兼ね備えた七月は、学生生活を凝縮しているといっても過言ではない。


 だがそんな七月も、期末テストさえ乗り切ってしまえば、あとは天国を待つのみ。テストが終わればテスト休みに短縮授業なので、ほぼ夏休みとも言える。

 そうテスト休み。テストに心血を注いだ心身を労わるもよし。休みだった部活動に専念するもよし。各々が思い思いの活動にいそしむ期間。


 そんなテスト休みのとある日。

 俺は休むでもなく、部活動をするでもなく。

 遊園地にいた。


「むっはー! テンション上がるねー!」


 俺の前を歩く夕月ゆづきが、両手を上げてひときわテンションの高い声を上げる。楽しげな声は、そこかしこで流れるBGMかき消す勢いだ。


「子どもじゃないんだから、あんまり走り回るなよ」

「いーじゃん、遊園地なんて久しぶりなんだしー」


 白いシャツと、リボンのついた赤いキュロットスカートが、彼女の動きに合わせてひるがえる。ポニーテールもふわふわと、まるでエサを前にした犬の尻尾みたいなはしゃぎっぷりだ。


「次、あれ乗ろうよー!」

「おっ、フリーフォールか。いいチョイスだな星宮ほしみや


 夕月の隣でうなずくのは、ラフなTシャツとジーンズに身を包んだクラスメイトのすばる。こちらも同じくテンション高め。

 そんな二人とは正反対に若干引き気味なのが二人。俺と部長だ。


「フリーフォールって、たしか足が宙に浮いて一気に落ちるのよね。私は遠慮しておこうかしら……」

「俺も。ちょっと休憩したい」


 部長の言葉に続けて俺は同意する。

 かれこれアトラクション三連続。平日で園内が空いているせいで待ち時間がほぼないこともあって、休む暇なく乗り物に身体を揺さぶられている。せっかく人も少なくてのんびりできるんだから、もう少しゆっくり回ってもいいじゃないか。


「えー。とばり先輩も行きましょうよー。てかハルは怖いだけなんじゃないのー?」

「なんだー晴人はると、そうなのか?」

「違う。純粋に休みたいからだ」

「私たちはかまわないから、二人で行ってきていいのよ?」


 部長が提案する。が、夕月はまったく聞く耳を持たないで、


「まーまー、二人とも。とりあえず乗りましょーよ。乗ればきっと楽しいですってー」

「おいこら――」

「あ、ちょ――」


 右手で俺の腕を、左手で部長のそれをつかむと、アトラクションの列へと向かってずるずると引っ張っていく。

 絶叫系は正直、得意じゃない。部長もそんな顔をしている。けれど、俺たちの要望ばかり通すわけにはいかない。


 なにせ、今日の主役は夕月だ。俺と部長は、あくまで見守り役。


 俺と部長、それに夕月と昴。この四人で遊園地に来たのは、テスト終了の打ち上げというわけではない。仲の良い友だち同士で遊びに来た、それもまた違う。


 全ての発端は、期末テスト前に夕月が部室へとやって来た時に遡る。

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