Case 1-6.Lively lunchtime
午前最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
途端に空気が
「おーい
教科書をカバンにしまったところで、クラスメイトの
昴とは、入学直後のオリエンテーションで同じグループだったことがきっかけで話すようになった。今ではこうして昼休みは昼食を共にしたりしている仲だ。
「相変わらず大きいな、昴の弁当」
机に広げられた二段の弁当箱を見て言う。ご飯はぎゅうぎゅうに詰められていて、数種類のおかずもはみ出んばかりだ。対して俺の机には、登校中にコンビニで買った総菜パンが二つとコーヒー牛乳。
「いやいや、普通だろ。むしろ晴人が少なすぎじゃね?」
「そうか?」
これが運動部と文化部の違いってやつか。
「それにしても、晴人がホントうらやましいぜ」
「なにが?」
「とぼけんなよ。あんな美人の先輩と二人きりの部活だぜ?」
「美人の先輩って……ああ、部長のことか」
部室の窓際で読書にふける姿が思い浮かぶ。たしかに立ち居振る舞いは絵になるし、顔立ちだって整っている。かわいい部類に入るとも思う。だけど内面がなあ。人を召使いみたいに扱うときがあるし。そういうのを喜ぶ人もいるのかもしれないけど。
「昴がうらやましがるようなことなんて、何もないよ」
「ほんとかー?」
「そんなに気になるなら、天文部に入部するか?」
部費獲得のためにも、本来の活動を取り戻すためにも、部員は多い方がいい。それが知った仲ならなおさらだ。
「いんや、俺は陸上一筋だからな」
「ま、昴ならそう言うと思ったよ」
「それに兼部なんて器用なマネ、俺にはできねえよ」
「だよな」
「あーでも美人先輩との部活動はやっぱ憧れるぜー」
なんてぼやきながら、ご飯を頬張る。よほどお腹が空いていたのか、弁当箱はすでに半分ほど空になっていた。
「それを言うなら、陸上部の方が女子たくさんいるだろ」
廃部一歩手前の天文部と違って、陸上部は女子だけで二桁はいるだろうに。
「わかってねえなあ晴人は。陸上部の女子なんてぜんぜんだぜ。がさつだし、男子みたいにバクバク食うし――へぶっ」
すぱん、という小気味のいい音が聞こえたかと思ったら、昴の声が強制終了した。原因が見知った人物による後頭部めがけたチョップだということは、俺の位置からよく見えた。
「誰ががさつだって……?」
「いってえー、なんだよ
チョップの主――
「いいのかなー、そんなこと言って」
夕月は額に怒りマークをつけたまま笑みを浮かべて、
「今のセリフ、女子キャプテンに伝えようかなー?」
「ちょっ、星宮! それはなしだって!」
慌てて手を合わせ、昴は拝む。どうやら女子キャプテンは相当恐れられているらしい。
「まったくもー」
ぶつくさと文句を垂れながらも、本気で告げ口する気はない様子の夕月は、俺の前の席に腰かける。購買で買ってきたらしいビニール袋から焼きそばパンを取り出すと、はむっとかじった。
俺と昴と、夕月の三人で昼休みを過ごす。最近よくある風景の一つだった。それにしても、夕月は違うクラスなのにわざわざ来るなんて、昴とは同じ陸上部同士、仲がいいんだな。
「にしても早く梅雨明けねーかな」
「ねー」
陸上部ふたりは、窓の外に広がる灰色の空を見て愚痴を漏らす。この雨じゃあ、今日もグラウンドは水びたしだろう。
「あ、そうだ。久しぶりに放課後、遊びに行かね?」
弁当を食べ終えた昴が提案してきた。
「今日も部活休みだからヒマなんだよなー。いいだろ?」
「いや、俺は部活あるし」
「どうせ天文部も雨だとすることないんだろ? 星どころか太陽だって見えないんだし」
「そりゃそうだけど……」
昴の言っていることは間違いない。この天気では天体観測の「て」の字もない。だからといって、放課後が暇なわけではないのだ。今日だって、
だが、依頼とはまったく無関係の昴に、そんな理由を正直に言えるわけもない。
「いや、行きたいのは山々なんだけど」
「けど?」
どう言い
「まーまー。ハルは用事あるみたいだし」
意外な方向から助け舟がきた。
「しょーがないから私がつきあってしんぜよー」
「げ、星宮とふたりかよ」
「なによー、私じゃ不満ー?」
「いいけどその代わりマックのポテトおごりな?」
「なぬ? レディーファーストって言葉を知らんのかー」
ぎゃあぎゃあと、騒がしくなるふたり。部活でも普段からこんなかんじで仲良く言いあっているのが容易に想像できた。ともあれ、変に言い訳せずに済んでよかったと
ぶるぶるぶる。
ポケットに入れたスマホが震えた。画面を見ると、メッセージの新着。送り主は隣にいる夕月からだった。
『どーせ依頼のやつでなにかあるんでしょ』
どうやら、俺の事情を見越したうえでの助け舟らしい。
『悪いな』
短く一言、返信を打つ。気を遣ってもらったからには一層、のんびりなんてしていられない。
今一度決意し、俺は昼ごはんのたまごロールにかぶりついた。
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