Case 1-7.When it rains, it pours
けれど、俺の決意とは裏腹に、数日経っても成果は一向に見えてこなかった。
猫を見つけるのが難しいことくらいわかっている――そう言ったのは自分だし、こうなることは予想していないわけではなかった。それでも、
別に俺だって闇雲に探し回ってたわけじゃない。桜庭先輩が聞き込みをしていた範囲を聞いて、それ以外の範囲を重点的に歩いて回った。聞き込みできていないエリアなら、もしかしたら有益な情報が得られるかもしれない。そんな推測、いや、期待を抱いての行動だった。
でも、結果はゼロ。強いて言えば、目撃証言がないということはわかったわけだけど。
「猫がいなくなってから時間が経ってるしなあ」
灰色の空に向かって、ひとりつぶやく。雨はいつの間にか止んでいたので、俺は傘についた水を落とし、たたむ。
日没にはまだ時間があるが、いかんせん曇天のせいですでに薄暗い。この暗さの中での聞き込みは難しいだろう。
ここまで……か。
沈んだ心を引きずりながら、住宅街を抜けて大きめの通りへ。いくつもできた水たまりをかわしながら、これからのことを考えていた。
『彼女は、諦めることを望んでいるのよ』
『最後に決めるのは彼女自身。私たちは当事者じゃない』
諦めさせていいなんて思えない、なんて言った自分の言葉を曲げるつもりはないけど、こうも成果が出ないと、あらためて痛感させられる。お前のしていることは無駄なんだ、と。
でも。
写真に目を落とす。まるまるとした白猫は、表情こそ仏頂面だったが、その毛並みはきちんと整えられており、とても桜庭先輩の大事にしている気持ちが伝わってくる。
だから、そんな大事な飼い猫を、諦めさせることが正しいなんて……やっぱり俺には思えない――
バシャアアアアアアアッ!
「ぶわっ!」
思考と視界が遮られたかと思った直後、身体中に冷たい感触。一瞬にしてずっしりと重たくなった制服。そこでようやく、通り過ぎた車がはねた水をかぶったのだと認識した。
まさに寝耳に水。いや、この場合は起き耳に水、か?
なんてしょうもないことを考えているうちに、犯人の車は停まって詫びるどころか、減速さえせずその姿を小さくしていく。声を上げて糾弾する暇さえなかったので、後姿を恨めしくじっと見つめることしかできなかった。
「……はあああ~~~~」
ここ数日で一番でかいため息を肺から吐き出す。前髪から滴る水が、目や鼻や頬をだらだらと流れ落ちていく。
聞き込みの成果の出ないところにこの仕打ち、泣きっ面に蜂とはまさにこのことだな。
「まいったな」
全身ずぶ濡れになった己の姿に、なんだか笑えてきた。今ならどんな悪いことが起きても動じない気がするぞ。ははは。
「ふ……ぶえっくしゅ!」
そんなポジティブシンキングを吹っ飛ばすように、くしゃみがついて出る。
急いで帰るか。夏もすぐそことはいえ、雨上がりのひんやりした空気の中でずぶ濡れはさすがに風邪を引きかねない。
とりあえずハンカチで顔だけでも拭こうかな……うわハンカチまでぐしょぐしょだ。
再びため息をつきそうになっていると。
「……ハル?」
俺をそう呼ぶのは、ひとりしかいない。
振り向いた先の
彼女はしばし俺の無残な姿をじいっと見た後、こう言った。
「とりあえず、ウチ来る?」
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