夏のはじまりに

「お兄、夏休み予定あるの? 咲希さんいないから一人じゃない?」

「なんだ、ぼっちの兄を笑いたいのか。泣くぞ」

「いや言ってないし。遊びに行こっかって話しようと思っただけ。お兄の妹はぼっちでした。めでたしめでたし」


 そんなことは嘘だ。俺とは対照的に優奈には友達は多い。その友達に重度のブラコン扱いされているのは非常に申し訳ない話なのだが、これに関しては仕方ない。


「どうする? お兄の行きたいとこに合わせるけど」

「行く前提なのか」

「えっ……行かないの?」

「行きたいのか」


 どうやら今日は優奈が暇な日らしい。やれ、ならいつも助けてもらってるから付き合うしかないじゃないか。


「どこに行くかは優奈が決めろよ。たまにはお前の行きたいところに行こう」

「ほんと? じゃあそうだなぁ……」


 ガチャ。

 静かに玄関の扉が開く音が聞こえた。


「母さんたちが帰ってくるの今日だっけ……?」

「違うぞ。まったく、インターホンくらい鳴らせよ」

「あっ……!」


 誰が来たのかはわかったらしく、優奈は明るい表情で玄関へと向かう。本当は俺もそのテンションで出迎えてやりたかったが、なんとも照れくさい気分になってしまいやめる。

 家には帰らなかったようで、大きな荷物を持ったままやってきた彼女は、疲れの色一つ見せずににこやかな笑みを浮かべていた。


「おかえり」

「うん、ただいまっ!」

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新年と、変わらない距離。 神凪柑奈 @Hohoemi

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