最速の決着
試合を終えての大歓声の中、ゼクさんとレイは固い握手を交わす。得体のしれないランク外パーティと駆け出しのEランクの対決、なんて軽視する人はもうここにはいないだろう。戦いの余韻が残る中に、レミーさんの声が被さる。
『お互いの気迫のこもった熱い勝負だったねぇ。アンナちゃん、どうだった?』
『れーちゃんもガルおじも、パーティ組んでちょっとなのにメチャ頑張っててマジエラ~って思った。ぜっくんが強すぎなだけで、2人ともフツーに格上食えるチカラあるっしょ。もうちょい時間あればちゃんとした連携プレーとか見れたかもね~』
「確かに、戦術が雑すぎたな」
互いの健闘を称えあう場で、ガルフリッドさんは相変わらずの調子でぼやく。レイはむっと振り返るけれど、本気で怒っているわけではなさそうだ。
「兄貴が強すぎるんだよ」
「そうだな。おめぇらはよくやったよ」
ゼクさんは偉そうにふんぞり返っている。本当にその通りだからつっこみようがない。ガルフリッドさんもただため息をつくだけだ。
「あーあ、ジジイが先に落とされたりしなけりゃなぁ」
「その前に武器取られたのはどこの馬鹿だ」
「ああ!?」
「俺の前で喧嘩すんじゃねぇよ。混ざるぞ」
犬のじゃれあいみたいな言い合いをしていた2人も、ゼクさんの斜め上な脅し文句で黙らざるをえなかった。むすっとしているレイに、私は一声かけることにした。
「レイも、本当に強くなったよね」
レイは一瞬ぱっと顔を輝かせたが、ごまかすように厳しい表情を作り、人差し指をビシッと突き出した。
「今度は負けねぇからな!」
気合たっぷりの宣言に、私は自然に漏れた微笑みで返した。
◇
初戦を無事に突破した私たちは、<ゼータ>専用のボロい控室で顔を突き合わせていた。次のDランク戦に向けての作戦会議だ。どのパーティが来るか、おおかたの予想はついている。
「<ダイヤモンド・ダスト>ですかね、やっぱり……」
「戦力的に考えれば、そうだろうね」
マリオさんが平坦な声で同意する。
「強ぇのか、そいつら」
「マリオさんと互角に戦える魔法剣士の人がいます」
「へえ」
だるそうに椅子にもたれていたゼクさんは、興味を示したように少し姿勢を起こした。
「他は、ヒーラーの女の子がいます。きっちり作戦を練ってくるタイプの」
「相手が2人なら、こちらもまた2人選ばねばならないな」
スレインさんがゼクさんを一瞥する。戦力を考えれば彼は必須で、もう1人をどうするかという話になる。
「戦術を固めてくる相手なら、意表をつけるメンバーがいい。ロゼールかマリオだな」
「私、嫌よ。この暴れん坊と2人きりなんて」
「じゃあ、ぼくだね」
ロゼールさんのわがままにより、メンバーは決定した。マリオさんなら一度クルトさんと戦ったことがあるし、適格に思えた。
「ヤーラ君、事前に言っといたやつ、あるかい?」
「薬ですか? 一応、いろいろ持ってきましたけど……」
こっちはこっちで準備をしてきてくれたようで、マリオさんとヤーラ君はあれこれと相談を始める。もう一人の出場者であるゼクさんは、そちらにはまったく興味を示さず、首をゴキゴキ鳴らして本番を待っている。
時間が来て、私たちは再び大勢の観衆の前に姿を晒した。
『さあ、<ゼータ>の次の相手はDランクの優勝者!!』
向こう側から、同じように数人の影が歩み寄ってくる。驚愕したのは私だけではないはずだ。その影が、2つだけではなかったからだ。
――4人いる?
『力自慢の男たちが集う荒くれパーティ、<デーモン・ヘッド>!!』
顔も名前も知らない勇者たちを前に、私たちは唖然とした。
小柄で凛々しい冷徹な少女の姿は、ない。ふわふわ頭の柔らかな笑顔の魔法剣士の姿も、ない。あるのは、なんか怖そうなお兄さん4人の獰猛な面構え。
「ちょっと待てコラァ!! その、ダイヤモンドなんとかはどうしたァ!?」
「わ、私に言われても……」
ゼクさんの八つ当たりを受けた私は、慌てて客席に目をやる。
……と、Dランクの指定座席に、ちょこんと座るスターシャさんが見えた。
私は階段をけつまずきながら駆け上がり、なりふり構わずスターシャさんに詰め寄った。
「どういうことですか!? 負けちゃったんですか!?」
「何を興奮しているのか知らないけれど……私たちはそもそも不参加なのよ」
「なんで!?」
スターシャさんはなんてこともない様子で、淡々と説明する。
「忘れたのかしら。クルトは『ワルモノ以外とは戦わない』という主義よ。この大会に出場する気がないようだったから、私も試合には出ずに他の勇者たちのデータ収集に専念することにしたの。クルトは今頃屋台を回り終えて、昼寝でもしているのではないかしら」
「ああ……」
そういえば、朝に会ったクルトさんはやたら他人事みたいな態度だった。初めから大会をサボるつもりだったからなんだ。そう言われると、まあまあ納得できた。
私はとりあえずスターシャさんに謝ってから仲間たちのもとに戻り、今聞いた事情を説明した。ゼクさんはあからさまにやる気を喪失していた。
「おいおい、どうした? 俺たちにビビってんのかァ?」
「<ゼータ>だかなんだか知らねぇが、ザコに用はねぇんだよ!!」
相手パーティからのお言葉を頂いて、ゼクさん以外の仲間も顔をげんなりさせている。
向こうが4人なので、こちらは私とヤーラ君を除いた戦闘員4人が試合に出ることになる。
……が。
『さあ、試合開始!!』
ゴングが鳴ってすぐ、仲間たちはジャンケンを始めた。
「うわ、クソ!! 結局俺かよ!!」
「大人しく結果を受け入れろ」
「ちゃっちゃと終わらせてちょうだいね」
「頑張ってねー」
「好き勝手言いやがって、ちくしょう……。秒で終わらせっからな」
負けたゼクさんが一人、ぶつぶつぼやきながら前に出て剣を抜く。もしかして――
『これは……またしても一人で戦う気か?』
『今度こそナメプだね~』
実況席からも漂う脱力した空気に、相手パーティはふつふつと沸騰し始める。
「テメェら、ふざけたマネしやがって!!」
「さっきのEランクのザコ共とは違ぇぞ!!」
「後悔させてやらァ!!」
そう意気込んでドタドタと向かってきた4人は、ゼクさんの剣のひと薙ぎであっという間に蹴散らされた。
『試合終了! <ゼータ>の圧勝ーッ!!』
『解説、ぜっくんマジつよ。解説終わり~』
『雑だねアンナちゃん……』
おそらく本大会最速で決着のついた試合となっただろう。客席の中には夢でも見ていたかのようにぽかんとしている人たちも見受けられた。
早々とやることを済ませたゼクさんたちは、すでに撤収ムードでぞろぞろと戻ってきていた。デーモンなんとかさんたちには申し訳ないが、私たちにはまだまだ戦わなければならない強敵が待ち受けている。
次は、Cランク。<クレセントムーン>の4人だ。
◇
今回も相手は4人だから、出るメンバーはさっきと同じ。私は指揮官の席につくけれど、作戦指示を出すことはしない。ただ、みんなを見守るだけだ。
<ゼータ>と相対する4人は控室で見たときと変わらない調子で、なんならマーレさんは私に向かって笑顔で手まで振ってきた。
「エステルーっ! お互い頑張ろうねー!」
「あんたホントにのん気ねぇ……。今は敵同士なのよ?」
「うちのリーダーは緊張感が足りないです。タバサを見習うです」
「あわ、あわわわわわ……」
本当に、気が抜けてしまうほどいつも通りだ。けれど、この4人の強さは十二分に理解している。
『先ほど圧倒的な力を見せつけて勝ち上がった<クレセントムーン>の可憐な乙女たち! これまでパワープレイでゴリ押してきた<ゼータ>相手に、どんな戦いを見せてくれるのか!』
『<クレム>は元A2人の連携マジヤバだし、近接と中距離からガンガンしかけてくるからぁ、<ゼータ>ももうそろ考えて立ち回るっしょ』
『お互い一筋縄ではいかなそうだ。――では、いよいよ試合開始!』
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