#12 チームワーク
偽皇子一行
「かぁぁ~~っこいい~~っ!!」
私は思わず興奮して甲高い声を上げてしまった。当のスレインさんは困ったように笑っている。
「ああ……ありがとう。どうだろう。皇子に見えるか?」
「まるで御伽噺に出てくる白馬の王子様みたいですよ!! ビャルヌさん、ありがとうございます!!」
「喜んでもらえて、オイラも嬉しいよー!」
トマスさんの代役ということで衣装を作ってくれたビャルヌさんも、私の感想に満足してくれたのか、ぱっと顔が明るくなって頬が緩んでいるのがわかる。超可愛い。
実際その出来栄えはさすが職人と称賛に値するもので、赤いマントに暗い紺色のフロックコートがビシッと決まっていて、そのまま貴族の社交界に出ても遜色ないほどだった。
「おねーさんカッコイイからね、すごくすーっごく似合ってるよ!」
「そう言ってもらえるのは嬉しいが……あまり目立ちすぎるのも良くないんだ」
「軍服をベースに作ったからね、軍人さんにも見えるよ」
「でも――あの、スレインさんが顔のこと言われるの嫌いだってわかってるんですけど……すいません! イケメンすぎて目立ちます!! 私もう、気絶しそうです!!」
「わかったわかった。兜で隠そう。それも用意してもらっているんだったな?」
「うん! 帝国の紋章が入ってるやつ!」
ビャルヌさんは羽飾りのついた兜を持ってきてくれた。皇子様風の衣装に似合うデザイン性はもちろん、軽くて頑丈で機能性にも優れたものらしかった。
「ビャルヌ。何から何まで頼みっぱなしで申し訳ないんだが、このことは――」
「わかってるよ。しーっ、だよね? オイラ1人で作業したからだいじょうぶだよー」
幼い子供のようなあどけなさのあるビャルヌさんだけど、仕事に対する姿勢は真摯そのものだし、口外される心配はないだろう。
これで、私たちが<EXストラテジー>に扮する準備は整った。
◇
私とスレインさんが集合場所である帝都の門の前に向かうと、すでにゼクさんたちが待っていた。例によって例のごとく、ロゼールさんの姿は見えないけれど。
「すまない、待たせた」
待っていた3人は一様に皇子様ルックになったスレインさんを凝視した。
「おう、いよいよ完全に男だな」
ゼクさんは半分馬鹿にしたようにニタニタ笑っている。
「そこまで派手ではないし、敵の目はちゃんとごまかせそうだね」
マリオさんはあくまで合理的に評価する。
「……失礼になるかもしれないですけど、とても素敵だと思いますよ」
ヤーラ君が一番紳士的な反応だと思う。先の2人にはデリカシーが足りない。
「――あら。どこの貴公子様かと思ったわ」
いつの間に来ていたロゼールさんが、背後からスレインさんの肩を引く。
「ロゼールか。君にしては早いじゃないか」
「皮肉がお上手だこと」
「ロゼールさん、新記録ですよ!! 19分39秒です!」
ヤーラ君は皮肉でなく本気で喜んでいるみたいだ。でも忘れないで、理想は0分00秒なんだから。
メンバー全員が揃ったところで、門の外で待っている馬車のところへ向かった。
「お待ちしておりました。<EXストラテジー>の皆さまですね」
「え?」
思わず私が聞き返すと、御者さんがおや、と目を丸めた。後ろからゼクさんに小突かれて、私ははっとする。
「あ、ええ、そうです。<EXストラテジー>の者です」
「どうぞお乗りください」
危ない危ない、ロキさんの作戦のことをすっかり失念するところだった。
御者さんは特に怪しむ様子もなかったけれど、これからのことを考えると、少し……憂鬱になる。
◇
シルクハットを被った少年がひょいっと上空に放ったステッキが、ぱっと花に変わってひらひらと舞い落ちる。
「わぁ、綺麗……!」
「おい、そいつはどういう仕掛けだ? 俺にだけタネ教えろよ!」
「だめだめ、企業秘密」
馬車の中での退屈しのぎにと、マリオさんの公演が開催されていた。単純な私が操り人形の手品に感動していた傍ら、意外にもゼクさんも楽しんでいるみたいだった。
兜を被ったスレインさんは見ていたかどうかわからないけれど、腕を組んで物静かに威厳ある雰囲気を醸している。どこ吹く風のロゼールさんは居眠りをしていて、仕事熱心なヤーラ君は薬の準備をしている。
「その子の名前、なんていうんですか?」
「ジョージだよ。手品師なんだ。本当はカードを使った手品が得意なんだけど」
「なんだお前、人形に名前つけてんのかよ」
「友達だからね」
私はジョージ君が実在の人間で、マリオさんが彼をどうしたのかも想像がつくけれど、そんなことをわざわざ他人に言いふらすつもりはない。
マリオさんは絶妙に自分の経歴をはぐらかす。「殺し屋」というのも、大抵の人は本物ではなく異名のようなものだと思っているみたい。
知られてもいい人にしか打ち明けていないようなので、私がどうこうする余地などないだろうし。
「皇子様はなかなか芸達者な方をお連れのようですな」
御者さんがこちらを向かずに話しかける。
「勇者たるもの、ただ戦いに強ければいいというものではないさ。極端な例を挙げれば、まったく戦えなくても、いるだけでパーティの支えになれるような者であれば、勇者としての才覚は十分だ」
スレインさんは私のほうをちらっと見て微笑んでいる。ちょっと照れ臭い。
「ははあ、含蓄のあるお言葉に聞こえますな。お若いのに……皇子様は、おいくつでしたか」
「19だ」
「もっと上に見えますよ」
19というのはおそらくトマスさんの年齢で、スレインさんの本当の歳は22だったはずだ。
「そういう君は何歳なの?」
マリオさんが御者台のほうにひょこっと顔を出す。
「私ですか? もう40近いオジサンですよ。皆さん若そうで羨ましいですな」
「そうなんだ。ぼくはマリオ。友達になろう」
何の脈絡もない誘いに、御者さんは振り返ってぽかんとしている。が、マリオさんの人懐こい笑みと差し出された手に、警戒を解いたようだ。
「ええ。こんな私でよければ――」
マリオさんは握り返された手を捻り上げ、あっという間に彼を御者台から引きずり下ろした。
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