臨時メンバー
ああ、失敗したなぁ……。よりによって、自分たちが助けなきゃいけない皇子様を怒らせてしまうなんて。
そもそも、トマスさん本人が自分が狙われていると思っていなかったのが意外だった。でも冷静に考えたら、自分の妹をそう簡単に疑えないよね。彼はきっと優しい人なんだろう。
だけど、今の状況はまずい。
当のトマスさんと私たち<ゼータ>は別々の馬車に乗っていて、戦う場所も別々で、要するになんのために私たちが協力しているのかわからなくなっている。
いわく、「お前らが一番信用ならん」だそう。
それはそうだ。あの場で堂々とどうやって彼を殺すかを議論して、マリオさんに至っては実演までしてしまった。みんなが善意でやってたのは私はわかっていたけど、トマスさんはそうじゃない。
とはいえ――あの<EXストラテジー>というパーティ、それぞれのメンバーは普通に強そうに見える。
元AランクのノエリアさんとBランクのヘルミーナさん。ロゼールさんやマリオさんの元仲間がまとめてあっちにいるとは思わなかったけど、この2人に見合った実力を持っているにちがいない。
ロキさんは戦えるかはわからないけれど、情報という武器を持っている。そしてたぶん、相当頭がキレるタイプ。
何より、マリオさんの動きに合わせていたあの2人。
シグルドというエルフの男性は寡黙で何を考えてるか読みづらいけど、あの身のこなしは間違いなく手練れだ。あと、顔がイケメンだ。マーレさんとか目が合っただけで気絶しそう。
そして、あの小さい猫ちゃんの獣人、ミアちゃん。あの子、ずっと椅子の上で丸まって寝てたよね? なのに、あの行動の速さ。獣人は身体能力が高いというけれど、あの子は規格外だ。あと、可愛い。
個々の力は十分。あとは、チームワーク。うちと似てるな、なんてちょっと笑いそうになる。
だけど、うちと違うのはリーダーが狙われているってこと。これは笑いごとじゃない。
「なんだか面倒になってきたわ。私、帰っていいかしら」
「ダメですよ、ロゼールさん。私たち、ロキさんに恩があるんですから」
「あの男、そうやって人を操るのが好きなのよ、きっと。エステルちゃんみたいに優しい子につけこんでね」
カミル先生もそんなこと言ってたなぁ。でも、ゼクさんを助けてくれたのは事実だ。
「ロキの企みは置いといても、皇族どうしで争いがあるのは看過できん」
「身内で揉めている間に魔族が狙ってくるかもしれませんからね」
真面目なスレインさんとヤーラ君はこの事態を真剣に考えている。いや、他の人も考えてないわけじゃないと思うんだけど。
「ねぇスレイン。トマス君の妹のカタリナちゃんってどんな人?」
マリオさんが素朴な疑問を投げかける。この人皇子様でも敬語使わないのね。人類皆友達だと思ってるのかな。
「実際、清楚で心優しいお方だ。私は皇女殿下の側近あたりが臭いと思っている」
なるほど。優しい人の周りには怪しい人が集まりやすいのかな。
「兄妹どうしで争うなんて――なんだか、悲しいですよね」
私が素直にそう言うと、そういえば自身も王族であるゼクさんが吐き捨てるように応えた。
「何言ってやがる。俺らみてぇな立場になるとな、兄弟が一番憎たらしくてぶっ殺したくなるんだよ」
◇
べちゃべちゃと濁った泥水が足に絡みつく音で、もっと汚れてもいい服装にすればよかったと後悔した。
別行動とはいえ皇子様の手前、あんまりダサイ服だと失礼かなと変に気を回すべきじゃなかった……。
仲間のみんなはそんなことは気にも留めず、沼地を進んでいく。ロゼールさんだけは地面を凍らせてその上を歩いているので、汚れることはない。私も魔法使いたい。
トマスさんは、ここは元々綺麗な湿地だったと言っていた。魔物のせいでこんな鬱蒼とした毒々しい沼地になってしまったんだろうか。
魔物は魔界からゲートを通じてこちらに侵入してくる。魔族は美しい自然まで奪ってしまうのか。
少し開けた場所で、最終確認を行う。
戦術は合同作戦とほぼ同じ。今回は区画に分けて担当の場所の魔物を全滅させる。ビャルヌさんが作ってくれた<伝水晶>で私とヤーラ君が位置取りを把握しつつ、適宜連絡もしていく。
「エステルさん。回復薬のセット、用意できました」
「ありがとう、ヤーラ君。みなさん、自分の持ち場はわかりましたよね?」
「ったりめぇだろ」
「問題ない」
「OKだよー」
「なんとかなるわよ」
「もちろんですわ」
……んん!? 返事が1つ多くなかった?
いつの間に、ロゼールさんの傍にもう1人待機している。
「――ノエリアさん!? なんでここに!?」
「わたくし、あの馬鹿皇子にほとほと愛想が尽きましたの。やはり、わたくしとお姉様の愛は何者にも引き裂けない!! ということで、こちらに参加させていただきますわ」
「待て待てノエリア。君がここにいるということは、トマス殿下のほうは戦力が減り、危険が高まるということだ。今すぐ戻ってくれ」
「お断りしますわ、騎士様。あの馬鹿の作戦とやらに付き合っていたら、わたくし仲間を全員焼き殺さなければならなくなりますの」
「なるほど。ノエリアちゃんの魔法は強力だものねぇ」
「ああっ!! お姉様に褒められるなんて、幸せで死んでしまいますっ!!」
つまり、トマスさんは仲間の能力を考えずに作戦を練ってしまったらしい。作戦を立てられるだけ私よりマシだと思うんだけど。
「どのみちここの魔物を倒すことに変わりありませんもの。わたくし、お姉様とご一緒させてよろしくて? リーダーさん」
「うーん……元仲間どうしだから、連携は大丈夫ですかね?」
「ええ。まずノエリアちゃんが魔法で敵を撹乱しながら、剣で斬り込んでいくの。その間、私は紅茶を飲んでるわ」
「サボってるじゃないですか!!」
「リーダーさん、安心なさい。お姉様はそうやって万一に備えて力を蓄えてらっしゃるのよ。お姉様が動かないということは、戦況に余裕があるということ。すべてわたくしたちにお任せなさい」
「はあ……わかりました。ヤーラ君。回復薬、ノエリアさんのぶんもお願いできる?」
「はい。すぐに」
元Aランクパーティの2人だし、これほど自信満々に言うなら大丈夫なんだろう。トマスさんのもとへ戻ったところで、ノエリアさんが真面目に戦うかどうかは怪しいし。
それにしても、この2人を相手にしてたマーレさんとエルナさん、大変だったろうなぁ……。
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