She's Leaving Home

 何十度目になるか、もしかすると百度を超えるかもしれない。ルーシーは唯一自分で買った本を繰り返し読んでいる。ひとがいなければ孤独をなぐさめる友を作らなければならない。それは「み空」のおともだちではない。手を伸ばして確かにつかめる、孤独の友だ。実際、ルーシーは本が誘う幻想に深く酔うことができたし、それを呼び水に自力で創りだす「み空」も、なかなかの腕前になっていたのだ。銀河の夜船、プラチナのカイト、ステンシルやセロファンを使って、ルーシーはさまざまな作品を創った。「気味が悪い、狂人の絵だ」と養育者は言い、芸術活動をやめさせようとして、画材や紙を無断で焼いてしまった。いったい、何がいけないのか——ルーシーは生まれてこの方感じることのできなかった、養育者へのはっきりとした疑問と怒りを抱いた。

「本など買ってやった覚えはない。どうせどこかからくすねてきたんだろ。本屋に返しなさい!」たった1冊しかない本も奪われそうになったその時、初めてルーシーは養育者に立ち向かった。


「あたしは、あんたとは、別の、人間なの! せっかく、真人間に、なろうと、してるのに、邪魔、し、ないで!」


 ルーシーはいつもぶたれるストーブの火バサミを取って重心をかけて思い切り振り抜いた。


 空につっと舞った鮮血が、ルツと見上げた夕刻の、細く輝く雲の軌道のようだと、ぼんやりルーシーはおもった。

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