She's Leaving Home
何十度目になるか、もしかすると百度を超えるかもしれない。ルーシーは唯一自分で買った本を繰り返し読んでいる。ひとがいなければ孤独をなぐさめる友を作らなければならない。それは「み空」のおともだちではない。手を伸ばして確かにつかめる、孤独の友だ。実際、ルーシーは本が誘う幻想に深く酔うことができたし、それを呼び水に自力で創りだす「み空」も、なかなかの腕前になっていたのだ。銀河の夜船、プラチナのカイト、ステンシルやセロファンを使って、ルーシーはさまざまな作品を創った。「気味が悪い、狂人の絵だ」と養育者は言い、芸術活動をやめさせようとして、画材や紙を無断で焼いてしまった。いったい、何がいけないのか——ルーシーは生まれてこの方感じることのできなかった、養育者へのはっきりとした疑問と怒りを抱いた。
「本など買ってやった覚えはない。どうせどこかからくすねてきたんだろ。本屋に返しなさい!」たった1冊しかない本も奪われそうになったその時、初めてルーシーは養育者に立ち向かった。
「あたしは、あんたとは、別の、人間なの! せっかく、真人間に、なろうと、してるのに、邪魔、し、ないで!」
ルーシーはいつもぶたれるストーブの火バサミを取って重心をかけて思い切り振り抜いた。
空につっと舞った鮮血が、ルツと見上げた夕刻の、細く輝く雲の軌道のようだと、ぼんやりルーシーはおもった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます