第44話 トロッツの告白
査定大会でワネを反則負けにしたベッチャ大尉の裁定は物議を醸した。
特に彼と出世争いをしていたオノラト大尉が激しく糾弾した。
さらにオノラト大尉はワネの能力を高く評価して、王直属の兵士として招こうとまで言い出した。これが採用されれば反則負けにしたベッチャ大尉がいい笑いものになる。
「くそっ!オノラトの奴、ふざけたことをしやがって・・・」
そんな時にベッチャ隊の前に現れたのがトロッツだった。
人間の姿として城にやってきたトロッツは門番の兵士に「話の分かる奴を連れて来イ。この国にとって良い話ダ」と言った。
追っ払おうとした門番二人を軽く倒した。次に出てきたのは査定大会の後に降格していたブルだった。部下を簡単にねじ伏せるトロッツを見てブルは怯えつつも「要件を聞こう」と言った。
「ワケあって母国に戻れなくなッタ。安住の地を探してイル。俺を雇エ」
ブルはすぐにベッチャ大尉にこの件を伝えた。
ベッチャ大尉と対面したトロッツは自分の力を誇示した。擬態を解除して本身も披露した。
その強靱な強さは当然のことながら、ベッチャ大尉が注目したのは擬態する能力だった。
「誰にでも化けることはできるのか?」
「ああ、そいつの姿を直に見れば擬態でキル」
かくしてベッチャ大尉は兵士長達と共謀し、トロッツにワネの姿で城を襲撃させる作戦を考えた。これが成功すればベッチャ隊の手柄になるだけでなく、ベッチャの顔に泥を塗ったワネと、さらにワネを昇進させようとしたオノラトの評価も地に落ちる。まさに一石三鳥の計画だった。
※ ※ ※
「今の話は真実か。ベッチャ」
国王が詰問口調でベッチャ大尉に訊いた。国王の前で膝まづいた大尉の顔面は蒼白になり
「いや、滅相も、ございません・・・」と息も絶え絶えになっている。
「もうよい、ベッチャよ。お前の処遇は後日言い渡す」
ベッチャはがっくりと項垂れた。その一部始終を見終えたキトが手を挙げた。
「ポエン国王、それじゃ我たちはこれで帰らせてもらうよ」
「せっかくなので話をしないか。貴公の国の話なども聞かせてほしいのだが」
あー、とキトは言いながら頬を掻いた。
「うん、聞かせるよ。けど今度でいいかい?今はワネを早く休ませてやりたいんだ」
するとポエン国王も頷いて「分かった。いつでも待っている」とあっさりと引いた。
王室お目通し部屋から出ていこうとした時、「待ってくださイ、王女」とトロッツが叫んだ。
「俺も連れていってくだサイ。あんた様の下につかせてくレヨ!俺と組めば世界征服だって簡単にできまスゼ!」
立ち止まってトロッツの話に耳を傾けていたキトは嫌そうな表情で首を振った。
「遠慮しておくよ。世界征服とか興味ない」
「それじゃ、俺はどうすればいいんダヨ!」トロッツの言葉遣いが乱れた。
「ミカバラ国に戻って、農家でもやればいい」
ふざけンナ!とトロッツが叫んだ。
「世界征服に興味がない?それじゃ、なんで先代王を殺したンダ?なんのために自分の父親を、部下もろともあんな無残に焼き殺したンダ!?」
鏡柵の番人 みかくに @tyanai
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