バクたちの夢 ※こども向けの物語です……が、夢を見失った大人たちにも読んで頂きたい物語
ぱのらま
プロローグ
『バクたちの夢』 全一話 読み切り
ぼくたちは『バク』。
子供たちの夢の中の世界に住んでいて、その夢を壊そうとする悪い怪物たちと戦っている。そんな怪物たちのことを『ナイトムア』というのだ。
ぼくの名前は『ウルくん』。見かけは、子犬のぬいぐるみだよ。ハスキー犬という種類の犬なのだけど、狼みたいだから、『ウルくん』とよばれている。
ぼくの飼い主は、翔くんという名前の男の子だよ。
翔くんは、毎日、元気に幼稚園に行く。
毎朝、「おはよう、ウルくん。幼稚園に行ってくるね」と元気に声をかけてくれる。
夜になると、ぼくは、翔くんと、夢の中をいつもいっしょに散歩する。
夢の国にある大きな山をのぼったり、広い海をおよいだりするよ。翔くんは、夢の中でも、積み木が得意で、お家をつくったり、大きなビルを建てたりしている。
ある夜のことだった。
とても強そうな『ナイトムア』がやってきた。
『デビルモンス』というとても怖そうな怪物なのだ。
いやな気配を感じたぼくは、夢の世界のとびらにバリアーをはって、怪物が中に入って来られないようにしようとしたのだけど、そのバリアーはかんたんにやぶられてしまい、あいつはやって来た。
『デビルモンス』は、毎晩、翔くんの大切な夢の世界を
食べてしまう。翔くんが、楽しそうに作っていた夢の国は、
どんどんこわされてしまった。
ぼくは、『デビルモンス』を追い払うために、ワンワンとほえた。
あいつは、それでも、こわすのをやめようとはしない。
かみつきに行ったら、『デビルモンス』は、口から火を吹いてきて、ぼくのツヤツヤの毛並みは、ぼろぼろになってしまった。
とても、熱かったから、思わず、ぼくはにげだしてしまった。
この頃、翔くんは、朝になって目がさめても、ぐったりしていて、なんだか、ぜんぜん元気がない。ぼくは、とても心配になった。翔くんのパパとママもずいぶんと心配している。とうとう、翔くんは、幼稚園にも行かなくなってしまった。
大好きな積み木のおもちゃやミニカーでも遊ばなくなった。
まだ、翔くんのところに来る前のことだけど、ぼくは、りっぱな『バク』になるために、『バク』の学校で勉強していたことがある。そのときに、習ったことを思い出した。
子供たちの夢の世界がこわされてしまうと、その子供は、
元気がなくなって、ごはんをたべなくなったり、遊ばなくなったり、パパやママのことをきらいになってしまうみたい。
そんな大変なことになったら、その子供は、きっと悪い人間になってしまだろう。
このままだったら、翔くんも悪い大人になってしまう。
よしっ、今度こそ、『デビルモンス』をやっつけよう。
翔くんの大切な夢は、かならず、このぼくがまもるぞ。
今夜、ぼくは、『デビルモンス』と戦うと決心した。
夜になった。翔くんは、いつものように枕の横に僕を置いて、すやすやとねむりはじめた。
そろそろ、あいつが暴れはじめるころだ。
ぼくは、夢のカケラにかくれて様子をみていた。
来た、『デビルモンス』だ。
あいつの吐き出す真っ赤な炎は、とても熱くて、翔くんが夢のなかで作ったお家やビルや電車や車がつぎつぎととけてしまう。
でも、ぼくは動けなかった。ふるえて、足も手も動かない。
しっぽもだらりと下がってしまっている。
このまま、ここにかくれていよう。ごめんよ、翔くん。
ぼくは、なんてなさけない『バク』なんだろ。
『デビルモンス』は、とても大きな声で怒鳴っている。
ぼくは、耳をぺこりとさげて、また、にげだしてしまった。
そんなある日。 『ウルくん』は、もうボロボロになったから捨てましょうと、翔くんのママが言ったけれど、翔くんは、ぼっとしていて何も言わなかった。
翔くんのパパは、会社から帰ってくると、翔くんが元気になってくれることを願って、強そうな新しいぬいぐるみを買ってきたみたいだ。たくましいクマのぬいぐるみだ。名前は、『ボス』という。『ボス』は、自信にみちあふれた態度でどっしりとかまえている。
翔くんが両手いっぱいでだっこしても落っことしそうになるくらいの大きなクマさんだ。
ぼくは、「翔くんをたのむよ」と、『ボス』にあいさつをした。
これで、もう安心だ。あしたの朝、廃品回収の車が来る、とうとう、おわかれだ。ぼくは、とても、さみしかった。
初めて、この家に来たのは、クリスマスの夜だった。
きれいなリボンの箱に入ってぼくはやってきたのだ。
翔くんは、「ふわふわ、かわいいワンちゃん」と言ってうれしそうにぼくを抱きしめてくれたのだ。
ママは、「まあ、おりこうさまみたいね」と、パパは、「強そうな
子だね。翔くんをしっかりまもってくれよ」と言ったのだっけ。
ぼくは、「よしっ、がんばるぞ」と心に誓ったのだ。
玄関の外に、こわれたオモチャやいらなくなった家具といっしょにぼくは並んでいた。
その夜、『ボス』は、『デビルモンス』とたたかった。
『ボス』はよくがんばっている。でも、『デビルモンス』は強すぎる。
『デビルモンス』の炎が『ボス』の顔に当たった、『ボス』の耳や目はとけてしまった。
『ボス』は、『デビルモンス』がどこにいるのかわからなくなった。
もう『ボス』に勝ち目はない。
翔くんは、いっぱい汗をかいて、ふとんのなかでゴロゴロしていた。そして、泣きそうな声で、『ウルくん、たすけて』とぼくを呼んだ気がした。
こわくって、声も出ないはずなのに、翔くんは、力をふりしぼってぼくのことを呼んでいる。こんな弱虫のバクなのに信じてくれているというのかい。「もう、にげないぞ。このぼくも・・・」
『デビルモンス』が、『ボス』に火のかたまりをぶつけてくる。
目の見えなくなった『ボス』には、それをよけることはできない。
ぼくは、勇気をふりしぼって、戦場となった夢の中へと飛んでいく。
『ボス』に当たりかけた火の玉をうけとめた。
ジュッとひどい音がした。ぼくの毛並みは、こげてしまって、ボロ布みたいになった。
「『ボス』、いまだ。あいつは目の前にいる」
「ありがとう、ウルくん」そういうと、『ボス』はすべての力をこめて『デビルモンス』に体当たりしていく。
大きなクマの一撃に、さすがの怪物も遠くへふっとんでいった。『デビルモンス』は、もう、ここへは来ないだろう。
「しっかりしろ、ウルくん」と叫んで『ボス』はぼくのからだをなぜてくれた。
「これで、約束、はたせたよ。ぼくはここへ来たときから、
誓っていたのだ。 翔くんをまもるって」ぼくはつぶやいた。
朝になると、翔くんは、元気がもどっていた。
おはようと大きな声であいさつすると、朝ごはんもたくさん食べて、さっそうと幼稚園へ出かける。
玄関で、ボロボロになったぼくをみつけると、大事そうにひろいあげて、ほほをすりつつけた。
「ウルくん、こんなになってしまって」翔くんのほほに涙のしずくがつたっていた。
「これで、いいんだよ。きみの夢をまもることがぼくたちの夢だから。さあ、行ってよ、未来へ。でもさ、時々でいいから、
ぼくたちとすごした昔のこともおもいだしてね」
あれから、何年たったのだろうか。
翔くんも、もう中学生だ。テストにクラブ活動におおいそがしである。
ぼくたちは、翔くんの勉強部屋の棚にならんでいる。
ボロボロになったぼくや『ボス』なのに、翔くんは拾って
大事にしてくれた。
ある日、裁縫のとくいな翔くんのママが、ぼくたちをきれいになおしてくれたのだ。天気のよい日に洗濯もしてもらって、ぼくの毛並みもつやつやで、ふわふわとなった。
今は、翔くんもひとりでもがんばれるたくましい少年になっている。
うれしいときや楽しいときだけじゃない。かなしいときやさみしいときにも、ぼくたちはいつも応援しているよ。
( 完 )
バクたちの夢 ※こども向けの物語です……が、夢を見失った大人たちにも読んで頂きたい物語 ぱのらま @panora77
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