台の大冒険

ちびまるフォイ

自分だけの台

「ふぁ、よく寝た……」


体を起こすとバキバキと骨がなった。

どうやら床で寝てしまったらしい。


目を開けると正方形の台の上だった。


「な、なんだこれ!?」


台は空飛ぶじゅうたんのようにふわふわと浮きながら動いている。

台のへりへ行って下を眺めると、地面はマグマがぐらぐらと煮えたぎっていた。


「うそだろ……あっ!!」


覗き込んだ拍子にポケットのスマホがマグマに落下。

一瞬だけ「ぶしゅう」と湯気が鳴ったあと、残骸ひとつ残らず溶けた。


「これからどうしよう……」


顔を上げると、自分以外にもたくさんの台が浮いていた。

よく見れば人間が乗っている台もある。


「おーーい!! おーーい!!」


必死に声をかけながら手を振った。

上の方で浮いている台の乗り手も声に気づいて手を振り返した。


「おーーい、あんたもあっちの洞窟へ行くのかい!?」


「洞窟?」


「洞窟を抜けた先には楽園が待っているそうだぞ!

 洞窟から戻ってきたやつがそう言っていた!!」


「こんな状況で楽園なんて……」


そうは思ったが、台の上には自分以外になにもない。

食べ物も飲み物もない。壁も屋根もない。

自分ひとりだけが台の上にいるだけである。


この状態は何も持たずに砂漠へ放り出されているのとほぼ同じではないか。


「あの! その洞窟の先には食べ物とかあるんですか!?」


「さぁ、そこまでは知らん! 行ってみるしかないだろう!」


「でもどうやって!? この台は浮いてるだけで動きませんよ!」


「手でこぐんだよ! こう寝そべって、空を泳ぐんだ!」


頭上の男は台にねそべり、サーフボードで海に向かうサーファーのように腕を動かした。

男の台は泳いだ方向に向かってどんどん流れていく。


男のマネをして台にうつぶせになり腕を回した。

空気をかいた方向に台が動くのがわかる。


「こっちでいいんですか!?」


「ああ、ついてこい!!」


頭上に浮かぶ台をコンパス代わりに必死に空を泳ぎ続けた。

しだいに天気が悪くなり、ぽつぽつと雨がふりはじめる。


「おいおいまじかよ!」


あっという間にザンザン降りになった雨はマグマへ落ちて湯気を出していく。

猛烈な湯気が霧のように立ち込めてなにも見えなくなってしまった。


あたりは一面真っ白な煙しか見えない。

自分が進んでいるのか、蛇行しているかもわからなくなる。


とにかく進むしかないと、まっすぐのつもりで泳ぎ続けた。

やがて湯気の向こうから口を開けたように洞窟の入り口が見えてきた。


「うわっ! すごい風だっ」


洞窟の中から強い風の吸い込みで一気に台もろとも吸い寄せられていく。

必死に泳いでも抗えない。


そのまま暗い洞窟へと台ごと飲まれていった。

泳がずに風だけで動いてくれるのは楽といえば楽。


「これが楽園に続く洞窟なのか……」


案内してくれていた男も湯気で見えなくなってしまった。

この洞窟で合っているのかもわからない。


あれやこれやと考えていると、ゴツンと頭をぶつけた。


「痛っ!」


洞窟の天井に頭をぶつけてしまったようだ。

入り口は大きかったのに、奥へ進むにつれてだんだんと洞窟が狭くなっている。


最初は台の上に座りながら進めていたが、

今となっては台の上に寝そべらないと天井にこすれてしまう。


「やばい……ここから落ちたらどうしようもないぞ……!」


必死に体を平らにして天井にこすらないようにあがくが、

さらに低くなる天井に背中がざりざりと削られていく。


「だ、ダメだ! これ以上は進めない!」


台は無慈悲にも風に押されて奥へ奥へと進んでいく。

このままでは台から擦り落とされてしまう。


台のへりを掴んでぶら下がろうものなら、

地面のマグマにつま先が溶かされてしまう。


「いだだだだだ!!」


さらに低くなる天井に後頭部からふくらはぎまで削られる。

もう一刻の猶予もない。


「そ、そうだ! 体を台に固定すれば!」


上着とズボンを脱ぐと、それぞれの端を固く結んで即興のロープを作る。

足りない長さは肌着を引きちぎって、さらに延長を試みる。


服で作ったロープを使って体と台を固定する。

自分の体は台の下にし、背中をマグマへと向ける。


「ぐおおお……腕がぁーー……!」


脳裏では母猿のお腹にしがみつく子猿が思い浮かんだ。

抱っこひものごとく体を固定している服ロープがマグマの熱と汗でじんわりゆるんでくる。


洞窟の天井はますます低くなって、ザリザリと台の表面を削る音が聞こえてくる。


「ああやばい! 服が! 服が削られる!」


台の下にへばりつく自分の体を固定する服ロープが削られながら端へとずらされていく。

どんどん強度が落ちて今にも切れてしまいそうだ。

腕力はすでに限界で油断すれば手汗でスリップしてマグマに背中から落ちてしまう。


「誰か助けてくれーー!!」


最後に叫んだとき、絶えず聞こえていたこすれる音が途切れた。

マグマの熱い蒸気で満ちていた洞窟の淀んだ空気も感じない。


台の下から這い出すと、洞窟を抜けて広い場所に出ていた。


「こ、ここが楽園……!?」


頭上にはたくさんの台が浮かんでいる。

台の上にはさまざまな水着の美女がいた。

美女のいる台にはたくさんの食べ物や飲み物が乗せられているのも見える。


「おおーーい! それ! 水をこっちへよこしてくれないか!」


美女のひとりは声にうなづくと、ペットボトルの水を落としてくれた。

マグマで熱せられた体に上空で冷やされた水が一気に潤してくれる。


「なにか食べられるものはないか!?」


水着美女はこくりとうなづくと、台の上にある食べ物を落としてくれた。

さんざん体力を使ったせいかたまらなく美味しく感じる。


ふたたび顔を上げると、こちらに熱い視線を送る美女と目があった。

思わず下心が湧いてくる。


「おおーーい! 今度は君がこっちの台へ来てくれないか!?」


水着美女はじらすように困ったような顔をしている。


「大丈夫、ちゃんと受け止めるよ! 約束する!

 台を近づけるから俺を信じて飛び込むんだ!」


水着美女は立ち上がり、頭上の台から飛び降りてきた。

空から降ってきた女の子をしっかり抱きしめた。


「やっぱりここは楽園だーー!!」


美女を抱き寄せて顔を近づけたとき、

2人分の体重を乗せてしまった台は猛烈な速度でマグマへと落ちていった。

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