私が男の人だったら、あなたは生きていた?
ABC
私が、男の人だったなら
雲一つなく澄み切った空に、太陽は元気に顔を出しながら、私たちを照らしていた。
久しぶりに日を合わせて会えた私たちは、2人で「今日」という日を満喫していた。別に今日が特別な日だとか、久しぶりに会えたといっても、特別に忙しかったから、とかそんなわけじゃなくて、私は、最近まで彼女の連絡先を知らなかったのだ。だから、学校が離れてから長い間、彼女に会うことが出来なかったのだ。
なぜ、知らなかったかというと、当時の小学生は、今の子たちみたいに携帯電話を持っていなくて、それゆえに私も、もちろん彼女も携帯電話を持ってはいなくて、その状態が、中学生の時も続いて、その後は、別の高校に行ってしまい会えなくなったからだった。
高校生になって、念願の携帯電話をやっと買ってもらえた私だったが、いくら携帯電話を持っていても、彼女の連絡先を知らないんじゃ話にはならなかった。今の時代みたいに、アプリ内で誰かを見つけることも出来なかったため、彼女と共通の友人を見つけるのは、すごく時間がかかって、本当に苦労した。でも、その人のおかげで、初めて連絡が取れた時、飛び上がるほど嬉しかったのを、今でも覚えている。
なのに、すっかり時代も変わってしまって、本当に驚いた。携帯電話の形状も全く変わってしまって、アプリ内で誰かを見つけることなんて容易で、たやすくて。
実のところ、まだ私はついていけてないの(笑) 彼女も!(笑) でもね、そうやって、モノが変わっていく時代に生まれて良かったな、なんてふと思うの。時代の移り変わりを見るのは、本当に楽しくて面白いから。自分の子供とか、孫に、「昔は、こんなのがあったんだよ」っていつか言ってみたいの。
そんなこんなで、時代の移り変わりを経て再会した私たち。今日、久しぶりに会って、はじめにしたことはキッツいハグと、スマホの見せあい(笑)
ハグをして、お互いの体温を感じるまで抱きしめあったあと、私たちは、偶然にも同じタイミング、同じ言葉で、「見て!」って、スマホを出し合った。そのことに、私たちは「やっぱり親友だよねー!」って、また同じ言葉で言って、笑い合った。私のスマホケースは、いたってシンプルで、ふちだけに色がついていた。私は、シンプルなものが好きだから、他のものもシンプルなものが多い。昔から、派手なものが好きだった彼女だから、やはりスマホケースもとっても派手だった。可愛らしいたくさんのお花で埋め尽くされていて、いかにも彼女が好きそうなものだった。
そんな話をしているうちに、気が付けば私たちは、待ち合わせをしていたその場所から一歩も動かずに数分を過ごしていた。私がふいに時計を見て、「えっ」と言葉を発したら、彼女も私の時計を覗いて、「えっ」と言った。本当に、どこまで似ているんだか(笑) もう、親友じゃなくて、姉妹のようだね。私たちは驚きながら顔を見合わせたあと、急いでその場を後にした、少し小走りくらいで。そして、私たちは、いろんな場所を巡り始めた。
私も彼女も、地元はここだから、いろんな場所を巡るのに苦労はしなかった。「うわあ! 懐かしいねー」って、昔よく遊んだ場所やよく行った場所を懐かしんだり、「うわあ! 新しいの出来てる!」って、そのお店を覗いてみたり、「ここ、無くなっちゃったんだ……」って、時代の移り変わりを感じて、少し悲しんだりしながらも、たくさんのお買い物をして、私たちは今日を楽しんだ。
楽しい時間なんてあっという間だった。私たちは、その余韻に浸りながら帰っていたけれど、歩けば歩くほど、「もうすぐこの楽しい時間が終わってしまう」ってことを実感してしまって、時々歩くのを止めたくなった。一日だけじゃ全然足りない。いろんな場所を巡っていた最中もたくさん話はしたけれど、まだ、私生活の領域までは達していなかった。彼女がどんな生活をしていて、彼氏がいるなら、それはどんな人で。もうすぐ、駅に着く。私は思い切って聞いてみることにした。
「ねぇ」
「どうしたの?」
「あの……え、いや、ちょ、く、車!」
「え……?」
話の続きをしようと口を開けた瞬間、私たちの方に、とても速いスピードで一直線に走ってくる車が見えた。気づいていない彼女に、それを伝えようとしたけれど、一瞬でパニックに陥った私は、「く、車!」と言うので精いっぱいだった。彼女の腕を掴んで、こちらに引き寄せたその直後、私たちは飛ばされた。体が一瞬で宙を舞って、あの大空が目に入ってきて、バッグがするりと手から離れて……
そして私はひどい衝撃とともに地面に打ち付けられて、そこで意識が途切れてしまった。
*
目を覚ましたのは、その事故から、数日後。目を開けると、ぼやけた視界の中に、三人の人影があった。みんな、私を覗き込むように見ていて、そして、そのうちの一人が座りながら私の手を握っているのが分かった。数回瞬きをすると、その三人が何かを喋り始めたけれど、私にはあまりよく聞こえなかった。どうやら、ここは病院のようだった。父が手を握っていて、母が泣いていて、弟も泣いていた。視界が鮮明になると、三人の人物がやっと分かって、ホッとしたのも束の間、私はあることを思い出して、飛び起きた。
「□□は!? □□は!?」
「……」
「え……?」
誰も何も言わなかった。ただただ、沈黙が私たちを包んでいるだけだった。泣き崩れる私にみんなはずっと寄り添っていた。
後で聞いた話によれば、事故を目撃していた人が、救急車をすぐに呼んでくれたらしくて、だから、生死の境を彷徨っていた私は助かった。だけど、彼女は即死だった。
楽しかったあの日が、幸せだったあの日が、一瞬で忘れられない「彼女の日」になってしまった。あの日再会できたのに、「また会おうね」って言おうとしていたのに。もう、会えない。もう再会することが出来ない。
ねぇ、□□。もしさ、私が男の人だったなら、あなたを守ることが出来た? 出来たの……? 背が高くて、がたいが良くて、あなたを一瞬で腕の中に閉じ込めるほどの瞬発力を持った男の人であったなら、私はあなたを守ることが出来たのかな。そうしたらあなたは生きていたのかな……。
私が男の人だったら、あなたは生きていた? ABC @mikadukirui
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