第2話 魔水

「こんにちは、優生くん。僕ね、今日、部活で活躍できたんだ。嬉しかったなぁ。」

いつもこうやって、優生くんに学校のことや、嬉しかったこと等を話している。


コンコン


ドアをノックする音が聞こえ、はいと返事をすると、優生くんの母親、薺(なずな)さんが顔を見せた。

「晴紀くん、今日もありがとうね。」

「いえ、優生くんには、早く元気になって欲しいから……」

優生くんの親は、僕を責めなかった。

父親である航生(こうせい)さんも、薺さんも、誰も僕を責めなかった。

ただ、ただ、「大丈夫」の声だけを聞かされた。


「では今日は失礼します。また明日。」

「えぇ、気をつけて帰ってね。」

「はい。ありがとうございます。」

こんな会話ももう、何百回とした。

航生さんは仕事で、会うことはあまりないけれど、会うといつも優しく「来てくれて嬉しいよ」、「会えて嬉しいなぁ」なんて優しい声で笑いかけてくれる。

その目には曇りが無く、きっと本心なんだろう。


いつもように、薄暗くなった道を歩いていると……

「それぇ!とってぇ!」

「え?」

空から青色に光る小瓶と、空飛ぶ……女の子が降ってきた?

「ふぅ……助かった、ありがとう!」

小瓶を取ったと同時に焦りが無くなった女の子は、ふわっと地に足をつけた。

「えっと……ツッコミどころ満載だけど、単刀直入に言うね……なんで空飛んでるの?」

「へぁ?」

あっけらかんと返事を返されて、より謎が深くなっていく。

そんな事してた?見たいな顔で見られても僕は知らない。てか、こっちが知りたいくらいだ。

「見てたの?」

少し間が空いて、やっとまともな返事が返ってきた。

「うん……」

「はぁあ〜……藤方(ふしかた)先輩に殴られる確定だぁぁあ!!やぁだぁ〜……」

多分僕の頭にはもう、?しか浮かんでない。

急に出てきた″藤方先輩″と言う人物も、気にならず、ただただ?が浮かんでいた。多分。てか、絶対。

「えっと……全く、理解できないんだけど。」

「もう……いいや!!私の名前は氷室仁香(ひむろにか)君は?」

「晴紀……草香晴紀。」

「晴紀くん、魔法って信じる?」

「……え」

唐突にそんな事「貴方は神を信じますか?」みたいな事言われても、困るだけだ。

でもまぁ、氷室さんはそんなの気にかける様子もなく「私、魔法専門中高学校の中二。晴紀何年生?」

少しぼーっとしていたが、直ぐに我に返り「中二」と一言だけ言う。でもそれが、氷室さんにはだいぶ嬉しかったのだろうか、「同い年じゃん!もう、魔法学おいでよ!」なんて、誘い始めた。

″魔法学″は恐らく、魔法専門中高学校の略だろう。

「でも、ほら、僕魔法使えないし……ただの平凡な人間だよ?」

なんか怪しかったので、できるだけやめておこうと、返事を返した。

でも何故かニヤニヤしている氷室さんを見て、不気味に思ってしまう……てか、絶対なにかやる気だ。初対面だけど分かる。

「晴紀くん!」

「はいっ」

びっくりして少し勢いのある返事をしてしまう。

「君に魔法の力をあげる。」

「え、」

魔法を信じる?からの、魔法の力をあげる。はキツい……

「この瓶の中にはね、魔水って言う水が入っているの。」

「麻酔?え?」

僕が、手術などで使う″麻酔″の方をイメージしたのを悟ったのか「魔法の魔に、水って書いて魔水、だからね!」と言葉を書き換えた。

「それ、全然力はないけど、時空を操れる魔法なの。まぁ、せいぜい5分、10分前に戻れるくらいだとは思うけど」

「魔水……」

僕はここで初めて、魔水に出会った。

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時巻時空 しーがす @kokosuga

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