華歳旭光・2021

七辻ヲ歩

06:41-06:54

 陽の眼が開く。

 旭光を望む大地に、夜の褥を取り払った光が、夜明けを述べる天頂へ高く腕を伸ばす。


「御早う」


 背後から、静寂を担う低声が響く。


「御早う、お前さん」


 光は笑み、ふわりと彼へ近付く。


「彼方の暦は」

「本日が芳歳である」


 そうか、と一言。光の眼光が夜明色に煌めく。


「ならば、あの少年の棲む彼の地へと祈らねばの」

「頼む」


 光は、有る必要のない一歩を踏み出し、まもなく陽の出ずる東雲の方角へ眼差し、朱く染まる掌を合わせた。


 榊があれば舞を踏むところだが、今はその榊を生み出す友もいない。

 今年は、この祈りのみ。


 うら若く、澄み、嗄れた声が紡ぐ。


 あの日から分たれた、ここではない、あの少年が棲む彼の地へ。

 星間を渡った際、俯瞰した青く美しい星へ。

 祈る。

 光は、祈る。

 希う。


「彼の地を統べる青き星に、畏み畏み、も申す」


 遠い西の地から風が渡り、光の召し物をひらひらと打ち伸ばす。


「儂と同じい輝きが、彼の地に照り、輝くよう」


 途端、東の空に光が迸り、新玉の年が明ける。


「御早う、皆の者。其方等の、今生多生に在る有相無相の、多幸と息災を希う」


 夜明色の眼が、慶びを込めた光を湛えた。

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華歳旭光・2021 七辻ヲ歩 @7tsuji

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