第12話 カルマの法則

「あら。こんにちは」


 玄関に千代さんより年上の女性が出てきた。彫りの深い顔で、清楚な雰囲気の人だ。


「こんにちは」


「こんにちは」


 時さんが丁寧にお辞儀をする。時さんに続いて僕も、女性に挨拶をした。


「こちら、池野さんの同級生の小林広樹君と、家政婦の米山時絵さんです。春花様に会いたいと、わざわざ足を運んでくださったようです」


 この女性が長宮さんのようだ。千代さんが、僕と時さんを長宮さんに紹介してくれた。すると長宮さんは、僕たちの方を見てにっこりと笑った。


「まあ。ようこそお越しくださいました。私、占い師の長宮春花です。もう少しで陽菜ちゃんと美由紀さんも出てきます」


「お忙しいのに突然すみませんね」


 時さんが頭を下げながら長宮さんに言った。


「いえいえ。大丈夫ですよ。お会いできて嬉しいです」


 するとその時、長宮さんが出てきた部屋から、池野さん親子も出てきた。僕は久々に見る池野さんに、胸がドキドキした。


「小林君!」


「池野さん」


 池野さんは目を丸くした後、すぐに笑顔になった。


「ずっと会いたかったわ。突然転校してしまってごめんなさい」


「あ、いや。大丈夫だよ」


 池野さんを前にすると、やはり会話がしどろもどろになってしまう。久々に会う彼女は、以前よりも可愛く見えた。


「あ、紹介するわね。隣にいるのは私の母よ」


「陽菜の母です。池野美由紀といいます。よろしくお願いします」


 池野さんのお母さんが、一歩前に出てきて頭を下げる。池野さんに似て、みそ顔で美人な人だ。


「よろしくお願いします」


 僕と時さんも頭を下げた。


「さあ。どうぞお上がりください。千代、お茶の準備をお願い」


「分かりました」


 長宮さんが、リビングルームに案内してくれた。ソファが四つ、テーブルを囲むようにして置かれている。


 長宮さんに案内されて、僕と時さんは部屋の扉の向かい側の席に座った。池野さん親子が僕たちの左前に、そして長宮さんが、僕たちの前に腰を下ろした。


「小林君と米山さん。わざわざ遠い所からありがとうございます」


「こちらこそ突然すみません。私たちの別荘が、メイントピア別子のすぐ近くにあるもので、私が運転して参りました」


「なるほど」


 時さんの言葉に、長宮さんは目を大きく見開いて頷いた。


「それにしても長宮さんと陽菜ちゃん、そして美由紀さん。大変でしたね。お体は大丈夫ですか?」


「大丈夫です。今私たち四人はここで平穏に暮らせています」


 長宮さんの言葉に、時さんは少し安堵したような表情を浮かべた。


「私たち親子は、春花ちゃんの家に住まわせてもらえて本当に助かってます」


「それは良かったです。四人で生活楽しそうですね」


「ええ。おかげさまで楽しいです」


 池野さんのお母さんも、影山京子に監禁されていて大変だったと思う。だが今は、見る限り元気そうだ。長宮さんの家で、穏やかに過ごせているようで良かったと思った。


「小林君。久しぶりね。学校は今どんな感じ?」


 池野さんが僕に話しかけてきた。僕はドキッとしたが、冷静に池野さんの方を見た。


「池野さん……」


「どうしたの?」


 池野さんが僕を心配そうな顔で見てくる。


「——将太が亡くなった」


 僕は言葉を振り絞るように池野さんに言った。僕の言葉に、長宮さん、そして池野さん親子も悲しそうな表情を浮かべる。


「私たちも新聞で見たわ。信夫君と信夫君のお母さん、許せないわね」


「池野さんの言う通り、あの親子は本当に許せん。影山京子は逮捕されたけど、まだ学校には信夫がおるし……。池野さん、あの時のビデオカメラはある?」


 僕の言葉に、池野さんは真剣な眼差しで頷いた。


「あるわよ。春花さん、あのビデオカメラをここにお願いします」


「分かったわ。ちょっと待っていてね」


 どうやら池野さんは、ビデオカメラを長宮さんに預けていたようだ。長宮さんが立ち上がり、部屋から出ていく。


 すると同時に千代さんが部屋に入ってきた。


「冷たい緑茶です。どうぞ」


「ありがとうございます千代さん。頂きますね」


「ありがとうございます」


 千代さんが、グラスに入った緑茶をテーブルの上に丁寧に置いていく。時さんの分が置かれた後、僕の分が置かれた。


 一口目を口につける。抹茶が入っているのがすぐに分かった。奥深い味でとても美味しい。


「美味しいです」


「まあ。嬉しいです。抹茶が入っているので、美味しく飲んでいただけると思います」


「まあ本当。美味しいわ」


 僕が言うと、千代さんは嬉しそうに目を細めた。隣の時さんも美味しそうに緑茶を飲んでいる。


 千代さんがグラスを置き、部屋から出ようとした。するとちょうど、長宮さんが戻ってきた。右手にはビデオカメラを持っている。間違いなくあの時のものだ。


「お待たせ。陽菜ちゃん持ってきたわ」


「ありがとうございます。春花さん」


 池野さんが、長宮さんからビデオカメラを受け取った。


「このビデオカメラですね、今回は警察に提出しなかったんです」


「何かあったのですか?」


 時さんが長宮さんに聞いた。長宮さんが申し訳なさそうな顔をする。きっと何か理由があるはずだ。


「実は……。私、おぼろに見えるんです。影山京子がこのまますんなり刑務所に入るわけではないことが」


「見えるとはどういうことですか?」


 時さんが、少し困惑した様子で長宮さんに聞いた。


「実は私、霊感が強くて、様々なことを霊視できるという人とは違う能力があるのです。そこで現在、それを仕事にも活かしています。過去に起きたことや、今起きていることは、その人の名前、顔、事情、状況を知ることで簡単に霊視できてしまいます。何故か未来のことだけは、おぼろにしか見えないんです」


「なるほど。長宮さんは凄い能力をお持ちなのですね」


 時さんが驚いたように目を見開いた。僕も長宮さんが、そこまでの能力の持ち主であったことに驚いた。


 僕はスピリチュアルに殆ど抵抗がない。むしろ長宮さんは、自分の持っている能力を駆使し、人々のサポートをしていて凄いと思った。


「影山京子は、刑務所に入らないことがおぼろに見えたため、私はタロットカードで影山京子の未来を占ってみました」


 影山京子が警察署から出てくる。僕はその言葉を聞いてゾッとした。


 長宮さんが、テーブルの下に入れていたタロットカードを取り出した。かなり色あせいる。長年使っていることが見て取れた。


「このタロットカードは、未来のことを占うときに使っています。今まで外れたことは殆どありません」


「なるほど。それで何と出てきたのですか?」


 時さんが興味深そうに長宮さんに聞く。僕も気になり少しだけ身を乗り出した。


「一枚引きで引きました。すると、このカードが出てきたのです」


 長宮さんが、数多くあるカードの中から一枚のカードを素早く出した。火山が爆発したような絵が描かれている。長宮さんはそれを逆向きで持った。


「塔の逆位置です。これが正位置なら、天罰や行き詰まりを意味します。ところが今回は逆位置で出ました」


「正位置と逆位置で意味が全く異なるのですか?」


「うん。そうなの。小林君の言う通り、正位置と逆位置で意味は全く違ってくるの。タロットカードは、一枚のカードで二面性を持っとるんよ。大体のカードが正位置が良い意味。逆位置が悪い意味を示すの。でもこの塔と月のカードだけは、逆位置の方がいい意味を示すの」


「なるほど。そうなのですね」


 僕は興味深く感じ、思わず頷いた。一つのカードで二つの意味を持つとは実に面白い。


「塔の逆位置は、復活とか解放を意味するんです。恐らく影山京子は、警察署から出てくる可能性が高いかと……。影山京子が警察署から出てきたとします。このビデオカメラを、私たちが提出していたことを知ったら、彼女は間違いなく暴走すると思うんです。そのことから、今回はこのビデオカメラを提出できませんでした」


「なるほど……。本当に影山京子は警察署から出てくるのですか?」


「はい。今回はその可能性が高いようですね」


 時さんが驚いたように目を見開いた。僕も長宮さんの言葉を聞いて、一気に緊張感が増した。


 無名な占い師だったらあまり信用しないと思う。だが長宮さんは占いのプロだ。長宮さんの言っていることは、当たる可能性が高いはず。そう思った僕は、何か乗り越える方法があるか気になってきた。


「仮に影山京子が出てきたとして、何か解決策はないですか?」


「大丈夫。今からそれを一枚引きで引いてみるわね」


 長宮さんが、テーブルの上にカードを置き、シャッフルし始める。次にカードをまとめ、手に取り、今度は両手でシャッフルし始めた。その繊細で正確な手さばきは、プロそのものだった。


 しばらく長宮さんがシャッフルしていると、一枚のカードが勢いよく池野さんの方へ飛び出した。カードがまるで生きているかのような飛び出し方に、僕はとても驚いた。


「勢いよく飛び出しましたね」


「そうね。今回はかなり飛び出し方が凄いわ」


 池野さんが、慣れたように長宮さんに言った。きっと長宮さんの占いを、池野さんはここに来てから何度も見ているのだろう。


 長宮さんが、池野さんの足元に落ちたカードを拾う。そしてそれをテーブルの上に表向きで置いた。


「運命の輪の正位置だわ」


 長宮さんがカードを見ながら笑顔で言った。きっといい意味なのだろう。僕は出てきたカードに期待した。


「どういう意味があるのですか?」


 僕が聞くと長宮さんがカードを手に取った。


「このカード、一度大きなチャンスが訪れることを意味しているの」


「チャンスですか?」


「そう、チャンスよ。カードに車輪が描かれているでしょ? この車輪に上手くことができたら、大きなチャンスを手に入れられるの。ただそのチャンスは一度しかやってこない。だからそのタイミングをしっかり見極めることが、大事になってくるの」


「なるほど。そのタイミングが、いつなのかは分からないのですか?」


 僕は一度、大きなチャンスがやってくると聞いて安心した。そのチャンスを絶対に逃すわけにはいかない。僕はタイミングが分かることを祈りながら、長宮さんに聞いた。


 長宮さんが、お茶のグラスをテーブルの上に置く。そしてゆっくりと、僕の方に視線を向けてきた。


「分かるわ。今度はオラクルカードの番号で判断していきましょう」


 分かると聞いた僕は安堵した。すると長宮さんが、テーブルの下からもう一つのカードを取り出した。


「オラクルカードとタロットカードは違うのですか?」


「はい、両者は異なります。簡単に言うと、オラクルカードはアドバイス的なカードで、タロットカードは予測をするカードになります」


「なるほど」


 時さんが頷きながら、長宮さんのシャッフルを見ている。先ほどのタロットカードはテーブルの上で混ぜていた。だが今度のカードは、取り出してすぐに手でシャッフルし始めた。


「はい。じゃあこの二枚のカードにしますね。こちらが何月か、こちらが何日か、記されている番号でそのまま判断していきますね」


 長宮さんが二枚のカードを表に向ける。僕から見て、右のカードは‘‘十’’、左のカードは‘‘六’’と刻まれていた。


「まあすごいですね。この運命の輪のカードも十番なんですよ。十月六日みたいですね。その日何かありますか?」


「偶然にしてもすごいですね。コウ君何かある?」


「ちょっと待って。その日確か……」


 喉元まで出てきているが、何があったか思い出せない。僕は落ち着いて思い出そうとした。すると何の日だったか、パッと思い出すことができた。


「思い出しました。その日は、学校創立六十周年の記念式典があります。体育館で行われ、校長先生から来賓の方まで来ます。もちろん生徒も体育館に全員集合します」


「なるほど。この日がどうやら一番良いタイミングみたい。もう一枚タロットを引いてみるわね」


「はい。お願いします」


 僕が言うと、長宮さんがサッとタロットカードを取り出した。先程のように、テーブルの上で混ぜてから手でシャッフルしている。そして一枚のカードをサッと引いてテーブルの上に置いた。


「まあ。また大アルカナだわ。月の逆位置ね」


 山の頂上で、狼が月に向かって吠えている絵が描かれている。それが逆向きでテーブルの上に置かれた。


「大アルカナとは何ですか?」


 隣にいた時さんが長宮さんに聞いた。


「タロットカードには、大アルカナと小アルカナがあります。小アルカナを用いることで、より細かいことが知れるのです」


「なるほど」


 時さんが納得したように頷くと、長宮さんが右手で月の逆位置のカードを手に取った。


「このカードは、塔と同じで逆位置が良い意味になります。月が出ていて周りが暗い。これが逆で出ると、夜明けが近づいてくるという意味になります。先の見えない不安が徐々に解消されてハッキリとしてくるのです。一方で危機が迫ってくるという意味もあります。今後も一つや二つは困難が訪れるかもしれません。ですが大丈夫です。おぼろだったこと、曖昧で分かりにくかったこと、全てクリアになってきます。ですからこの十月六日までには、何もかもが出揃い、準備万端の状態になっているでしょう」


 長宮さんは言い終えると、静かにカードをテーブルの上に置いた。


「以上かな。全体的に見ていったけど、こんな感じね」


「なるほど。先行きがよく見えました。長宮さんありがとうございます」


「大丈夫よ。この十月六日という日付をしっかり覚えておいてね」


「はい。ありがとうございます!」


 僕がお礼を言うと、長宮さんはにっこりと笑った。


「長宮さん。ありがとうございます」


「いえいえ。米山さんもお疲れ様でした」


 長宮さんがにっこりして、テーブルの上のカードを片付け始めた。


「小林君。ビデオカメラやけど、小林君が持っといてくれない?」


 その時、池野さんが申し訳なさそうにビデオカメラを差し出してきた。


「分かった。影山親子とは僕が一番近いけん、時期が来るまで大切に持っておくよ」


「ありがとう。小林君」


 僕は池野さんからビデオカメラを受け取った。ずっしりと手に重みが加わる。僕は受け取った後、それを両手で抱え込むようにして持った。


「それにしても春花ちゃん。一つ不思議に思うことがあるわ」


「あら美由紀ちゃん。さっきの過程で何か疑問点があった?」


 しばらく静かだった池野さんのお母さんが、長宮さんに聞いた。


「世の中って、悪事を働く人が、影山京子以外にも沢山おると思うんよ。でも全員が全員罰を受けるわけやない。中には逃れる人もおるでしょ? もしそうなったら、被害を受けた人が報われないんじゃない?」


「そうよね。現世では確かに、被害を受けた人は報われないわね」


 長宮さんの顔が一気に真剣になった。


「美由紀ちゃんはカルマの法則を知っているかしら?」


「物理学か何かなの?」


「スピリチュアル的なお話よ」


 僕もカルマの法則という言葉は聞いたことがない。興味深く感じ、僕は長宮さんの話に耳を傾けた。


「私たちの行いは、全てカルマとして魂に深く刻まれていくの。良い行いをすれば良いカルマが、悪い行いをすれば悪いカルマが、次の子孫に引き継がれるの。だから今世で逃れられたと思っても、来世で生まれ変わってその分のつけが回ってくるって感じなのね。だから私たちは、子孫に迷惑をかけない生き方をしないといけないのよ」


「なるほど。今の行いが、そのまま子孫に引き継がれるんやね」


「そういうことなの。ただ子孫だけとは限らないわ。今世の内に、その人の身内や、周りの人などに影響が及ぶ場合もあるの。まあもちろん、その人自身が一番報いを受けることになるけどね」


「そうなのね。とても恐ろしいわ」


 いつだっただろうか? 以前時さんも、同じようなことを言っていたような気がする。僕はそのことを隅に置き、自身の過去の行いを振り返った。


 僕も何度か嘘をついたことがある。来世の自分が困ることになるとは、とても恐ろしいと感じた。そのためこれからは、悪事を働くことなく、正直に生きていこうと思った。


        *


 長宮さん達と沢山お話をした僕たちは、別荘へ帰ることにした。千代さんが玄関の扉を開ける。


「あら。雨が降っていますよ」


 外はいつの間にか雨が降っていた。雨が地面を優しく濡らしている。太陽が出ているため、天気雨のようだ。


「あら困ったわね。傘が二つしかないわ。これじゃお見送りができない……」


「大丈夫ですよ長宮さん。コウ君、走って車まで行きましょ」


 長宮さんが困ったような顔をしている。すると池野さんが玄関で靴を履き始めた。


「二人ずつ傘に入って車まで行きましょ」


 池野さんの提案に僕はドキッとした。もしかして僕と池野さんが相合傘をするのか? そう思うと僕は平静ではいられなくなった。


「一方の傘には、春花さんと時さんが一緒に入って、もう一方の傘には私と小林君が入るのどうですか?」


「え……でも」


「どしたん?」


「あ、いや。いいよ」


 池野さんの提案は僕の予想通りだった。嬉しいけどドキドキする。複雑な気分だ。


「いいわね。じゃあそれで行きましょ」


 長宮さんが傘をさした。池野さんも続いて傘立てから傘を取り、それをさす。


「じゃあ。私たちはここで失礼します」


 玄関先に立っていた美由紀さんが言うと、隣の千代さんも頭を下げた。


「ありがとうございます。失礼します」


「ありがとうございました」


 時さんに続いて僕もお礼を言った。そして僕は、池野さんが差していた傘をぎこちなく持った。そのまま二人で車の方へ向かう。


「ありがとう小林君」


「いや、いいよ。傘を持つのって大体は……」


「え?」


「あ、いや何でもないよ。とにかく車まで行こう」


 池野さんが同じ傘の下にいる。僕はとても緊張したが、平静を装いながら足取りを合わせた。


 時さんと長宮さんの後に続き、僕たちも門を出る。門を出て左に曲がると、駐車場が見えてきた。


「じゃあね。小林君」


「うん。またね。このビデオカメラは時期がくるまで大切に保管しとくけん」


「ありがとう。またいつでも来てね」


「うん。また来るよ」


 持っていた傘を池野さんに手渡す。もう少し池野さんと同じ傘の下にいたい。僕はそんな気持ちを抱えながら助手席に乗り込んだ。


「今日はありがとうございました」


 運転席に乗り込んだ時さんが、長宮さんにお礼を言った。


「いえ。こちらこそありがとうございました。あ、ちょっと待ってくださいね」


 長宮さんがポケットを探り始める。そして二枚の紙を取り出し、それを時さんに差し出した。


「こちら私の名刺です。ここに連絡先も書いてます。またいつでも連絡してくださいね」


「ありがとうございます。また連絡させていただきます。では失礼します」


「お気をつけて」


 時さんが車を発進させて、駐車場を出た。後ろを見ると、長宮さんと池野さんが手を振っている。僕も体を少し後ろに向けて、二人に手を振り返した。


「長宮さんの名刺、コウ君の分もくれたわ」


「ありがとう」


 時さんから長宮さんの名刺を受け取った。長宮さんらしい名刺だ。左上に紫の蝶が描かれている。

 

 僕は折れ曲がらないよう丁寧に、名刺をポケットに入れた。そして手に持っているビデオカメラを抱え込む。長宮さんと池野さん親子のおかげで証拠が手に入った。


 カルマの法則。やったことは全部自分に返る。長宮さんが言っていたあの言葉を、忘れないように心の中で復唱した。


 まずは本村からだ。影山親子の前に、あの担任教師からどうにかしていこうと思った。


 例え本村と影山親子が、自滅する運命であったとしても、僕自身が三人に手を下さないと気が済まない。僕は激しいカーブに揺られながら、長期戦になることを覚悟した。

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