22

 ここからは、早送りされたみたいに場面が流れていった。

 そして、僕はまたあの何もない空間へと飛ばされていった。


 この一連の出来事が走馬灯というやつなのだろうか?

 これで僕は死んでしまったのか?

 僕にははっきりとしたことは分からない。

 しかし、これが僕に起こったことの全てだ。


 振り返れば振り返るほど、僕は何て情けない男だったのだろうと思う。

 結局、何も成すことなど出来なかった。

 ただ、失うだけだった。

 いや、失ったとは違うな。

 僕が自分から捨てたようなものだ。


 まともな人間として生きていくチャンスなどいくらでもあった。

 心から愛することの出来る人も出来た。

 初めは困惑だった。

 次第に惹かれていき、そして人生観が覆った。

 もちろん、否定的な意味ではない。


 かつての僕は、人間なんて死ぬために生まれてきたようなものだ。

 何をやろうとも、結局この世界から消滅してしまうんだ。

 全ては幻想で、何もかも無意味なものだと思っていた。


 しかし、彼女に出会い、惹かれていく内にそんな考えも180度大きく変わった。

 この世界は奇跡で満ち溢れている。

 この世界に存在することは無意味なことではない。

 全ての存在、出来事もとらえようによっては意味をなしてくる。

 例え、この世界から消滅しようとも、自分がこの世界に存在している間に、自分の中にこの世界に存在した証を、誇りを持てればいいのではないのだろうかと思い始めていた。


 だが、僕はその証を、誇りを持つ前に自分の存在を失った。

 もう少しで手に取ることが出来たかもしれないのに、取りこぼして誇りを失った。

 彼女への愛を失ったことで、自分を見失ってしまった。

 僕が彼女に依存していたからこそ、結局全てを失うことになってしまったのだろう。


 かつて、僕は愛を知ったことで自分が脆く、弱くなったと思った。

 愛なんて知らないままでいればよかったとさえ思った。

 しかし、そうではなかった。


 今までの僕は、自分が傷つかないように自分を殻で守っていただけだった。

 生身の僕は脆く、弱い。

 彼女を愛することによって自分の殻を脱ぎ捨てた。

 そして、生身の自分をさらけ出しただけだ。

 愚かで弱い自分を。


 おそらく、僕が一人前の男になっていたら、真実の愛を知ることが出来たのだろう。

 そして、誇りを持つことができ、本当に強くなれたのかもしれない。

 自分を見失うことなく、破滅への道を歩くことなどなかったはずだ。


 だが、僕は全てを失った。

 多分、あのままの僕では、遅かれ早かれ同じような結末を迎えていたことだろう。

 それが僕の『運命』だったのかもしれない。

 しかし、本当の強さを手に入れれば『運命』を変えることができたのかもしれない。


 いずれにせよ、僕は『運命』を変えることは出来なかった。

 これから、ごみクズ同然にどこかに捨てられるか、埋められることだろう。

 これが、僕にはお似合いの死に様か。

 自嘲するように笑った。

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