12
場面が散発的に目まぐるしく流れた。
あの花火の日からも彼女とは何度も会った。
映画を見に行って、一緒に批評している場面がある。
彼女の家に行って手料理を御馳走になる場面もある。
もちろん、おいしかったに決まっている。
他にも、様々な場面がスライドショーのように流れた。
そして、僕は突然、真っ白な空間に放り出され、虚ろに漂うだけだった。
僕に過去を振り返らせようとしている何かは、どこから再開させようか迷っているようだった。
いや、もしかしたら僕にここまでについて考えさせる時間を与えているのかもしれない。
もしそうだとしたら、遠慮なく考えさせていただこう。
ここまでの物語は、彼女が大きく関わってきた。
出会いもやることも、この世界では本当にありふれたことだと思う。
しかし、僕にとっては本当にかけがえのない日々だった。
この時まで僕は、人を愛するということが出来なかった。
だからこそ、僕に愛することの出来る人ができたというだけで、革命の起きたようなものだ。
平凡ではあるが、ようやく人間らしくなってきた気がする。
もちろん、分類上は人類であり、喜怒哀楽の感情は少なからずあった。
だが、他人に対して興味はなかった。
だから、僕には生きるということが虚ろで、味気ないことだった。
何をやっても一歩引いて中途半端に終わるだけだった。
全てがくすんでいた。
しかし、彼女に出会ってからの僕は、目に映るものの色彩が増してきた。
生きるということの素晴らしさが分かりかけてきた。
僕と彼女の関係はプラトニックなままだったが、僕はそれで十分満足していた。
この時はまだ、友達か恋人か分からない、あやふやな関係を楽しんでいたかった。
しかし、何事にも始まりがあれば終わりがある。
だが、いつになるのかはわからない。
前触れもなく、突然やってくることもある。
「運命」と言ってしまえば簡単なことだ。
ふとした瞬間に、何か逆らえない大きな力に、どこかに導かれていると感じることもあるだろう。
その瞬間に予測は出来ても、予測は所詮予測に過ぎない。
どう足掻こうと、結局逃れることなど出来ずに、力の奔流に絡め取られていくだけだ。
そして、全てが終わってからようやく気付くだけだ。
僕の場合にしてもそうだった。
僕の場合では、僕の失態が決定的だった。
しかし、今思えばもう変更することの出来ない未来図に組み込まれていた。
例え、他の選択肢を選んでいたとしても、ただの無駄な足掻きだったことだろう。
おそらく、同じような結末を迎えていたに違いない。
いずれにしても、その時になり、僕がどれだけ彼女に依存していたのかが分かった。
だが、神の登場については全く分からなかった。
どこでどう関わっているのだろう?
神の登場によって、運命の歯車が回りだしたのだろうか?
それとも、神の悪戯によって、僕が踊らされているのだろうか?
それは、順を追って終末を迎えれば分かるのかもしれない。
これまでの経過を考えると、再開はここからしかない。
ここから先は、ジローが大きく関わってくることになるだろう。
そして、僕は僕の定位置に戻ってきた。
場面は、夏が過ぎ去り、台風13号が勢力を増して北上してくる頃だ。
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