11

 「……で、ここに来たってことか。」


 ジローはあからさまに不愉快な顔をしている。

 スコーピオンも、今にも反吐を吐きそうになっている。

 あの後、彼はスコーピオンの家にやってきてマージャンをしている。

 この二人の他にもう一人いるのだが、彼とは面識のない男だ。

 我関せずといったように、黙々と手を作り続けている。


「おいおい、何でそんな顔するんだよ。いい話だと思わないか?」

 彼は語っている内に、異常なほど冗舌になっていた。

 そして、ハイをツモリ、いらないハイを捨てた。


「全く思わねえよ!そんなガキくさい話期待してたわけねえだろうが。今何歳だと思ってんだよ?大体、いまどき純愛なんて流行らねえよ。つうか、化石だ、化石!」

 ジローはいつものニヤケ面ではなく、不機嫌にことごとく全てを否定してきた。

 そして、ハイを叩きつけるように捨てている。

 彼はその調子に反論した。


「別にいいじゃないか。流行ろうが、化石だろうが、少年の心を忘れないってのはいいことだろ?確かに、昨日の言ったことを実行しなかったのは悪いと思うけど。」

 彼は無造作にハイを捨てた。

 もう一人の名も知らない男は、待っていたとばかりに並べていたハイをドンと倒した。


「ロン。メンタンピン三色ドラドラ。」

 スッと手を伸ばして裏ドラをめくった。

「裏ドラもついて親倍。」


「何やってんだよ、アニキ!そんな見え見えの手に振り込みやがって。オレの国士無双が台無しじゃねえか!」

 ジローは目の前のハイの山を崩して、ジャラジャラとかき回した。

 彼はジローの言葉を無視して、もう一人の男に点棒を払った。

 この男は喜びの感情などなさそうに、無表情に受け取った。

 まるでゲーム台のような男だ。


「そうだぜ!マジでらしくねえぞ?そんなに浮かれちまってよ。しかも、向こうから誘ってたのをみすみす逃しておいてよ!」

 スコーピオンはそう言いながらハイの山を作ろうとしていた。


「は?誘ってたって、いつ?」

 それを聞いた瞬間、スコーピオンが作ろうとしていたハイの山は、ダイナマイトで爆破されたようにことごとく崩れ去った。

 スコーピオンの彼を見る目が、天然記念物を見つけた目から未知との遭遇の目に変わった。


「勘弁してくれよ。スコーピオンですら分かることが、どうしてわからねえんだ?」

 ジローは呆れることしかできなかった。


「その言い方にはムカつくが、確かにそうだ。普段のお前はオレよりも頭がいいことは認めるよ。だけど、この問題に関してはひどすぎる。お前の家に行きたいって言われたんだろ?」

 スコーピオンに諭されるのは腹が立つが聞いてやろう。


「ああ、言われたよ。それがどうかしたのか?」

 厳密に言えば、住んでいるところを見てみたいだがな。


「つまり、今夜は抱かれてもいいって言ってるようなもんじゃねえか!しかも、あのコの家まで送っていったんだろ?自分から2回もチャンスを捨てたんだぞ!」

 スコーピオンは興奮して、口から泡を飛ばしていた。

 マットの上にもかなり飛び散っている。


「彼女が僕を誘っていた?……いや、それはないだろう。ハッハッハ!」

 彼は声を上げて笑った。

 こいつはもうダメだというように、二人とも首を振っていた。


 この夜、彼一人だけが大負けをした。

 ジローは勝っているのに、一晩中不機嫌なままだった。

 彼はそんなことを気にしないほど浮かれていた。

 しかし、それが大きな落とし穴だということに、後になって分かった。

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