彼が目を覚ました時、少しぼうっと座り込んでいた。

 スッキリとしない頭が落ち着くまで、どこにいるのか考え込んでいるようだった。


 ああ、そういえばジローの家にいるんだったと思い至ったようで、放り出していたスマホの時計を見た。

 もうすでに正午を過ぎていた。


 1LDKの部屋の中には、ジローがシングルベッドに一人悠々と眠っていた。

 スコーピオンの姿は見えない。

 目の前のテーブルには、500mlのアサヒスーパードライの空き缶が1ケース、バンダバーグ・ラムの空き瓶が1本、コカコーラの大ペットボトルが2本転がっていた。

 ペットボトルには、底に少し残っているだけだった。


 あの後でよくもまあこれだけ飲んだものだと、彼は我ながら感心しているようにこの有様を見ていた。

 トイレに行くために立ち上がると、二日酔い、いやまだ酔っていて地面が揺れているように感じる。


 トイレのドアを開けると、中ではスコーピオンが便器を抱えて眠っていた。

 彼がスコーピオンを起こそうと身体を揺すったが、全く動こうとしなかった。

 仕方がなく、この冷蔵庫のような大男をどうにか引っ張り出し、用を足そうとした。

 しかし、便器の中は自爆テロが起きたみたいな有様だった。

 僕はその映像が視覚に入ってしまい気分が悪くなった。

 こんなものまで見ないといけないなんてひどい仕打ちだ。

 すぐに水で流された。


 用を足して出てくると、ジローもようやく起き出してきた。

 元々は浅黒く日焼けをした顔なのだが、二日酔いのせいか、マイケル・ジャクソンのように、漂白されたように青白く見える。


「よお、アニキ。ずいぶんとひどい顔してるな?」

 声も少ししゃがれている。

「アニキのケータイ、LINEが来てるみたいだぜ?」


 彼はジローに言われて、ようやくスマホにメッセージが来ていることに気が付いた。

 見てみると彼女からだった。

 『昨日は楽しかった、また遊ぼう』、というような内容だった。

 その辺によくいる女の子みたいにやたらと多く絵文字なんか使ってはいなくて、また好感度が増した。


「へえ?アニキも成功したのか。」

 いつの間にか、ジローがにやにやしながら後ろからのぞいていた。


「おい、何見てるんだよ。ん?もって、お前もナッツゲットしたのか?」

「まあな、かるいもんだ。」

 ジローはスマホのLINEを開いて、彼に見せてきた。


「ということは、ダメだったのはスコーピオンだけか。一番楽しみにしていたのに。」

 彼は哀れみのこもった目で、トイレの前に転がっているスコーピオンを見た。


「仕方ないよ。あいつは要領悪いからな。」

 とジローが言って立ち上がると、奥にある部屋のドアを開けた。

 その部屋には、大麻の鉢が置いてあった。


「さてと、気付けに一発やるか。」

「……お前、自分で育ててるのか?日本でやるのは、やめといた方が良いじゃないか?」

「まあ良いじゃねえか。いちいち買うのも手間だし、いつでも手に入るからちょうどいいんだ。」

 ジローはそう説明すると、鼻歌を歌いながら何枚か乾燥させている葉を確かめ、ちょうどよさそうなのを選んだ。


「なあ、もしかしてお前の仕事って、売人でもやってるのか?」

「残念ながら違うよ。もしバカな奴が捕まったら終わりだからな。自分でやるだけさ。おい、起きろよスコーピオン!」

 ジローは、呆れ顔で転がっているスコーピオンを足でけりつけた。


「ううん、気持ち悪い。」

 スコーピオンはうめくようにつぶやいた。

 ようやく起きたようだ。


「顔洗って来ればいいだろ。ついでにこいつに水を入れて来いよ。」

 ジローはスコーピオンに水パイプを手渡した。

 スコーピオンはのろのろとした足取りで洗面所に行き、流しで顔を洗ってから水パイプに水を汲んできた。

 二人は勢いよくゴボゴボと音を鳴らしながら吸い、気持ち良くなったのかうっとりとした目をした。


 ジローがニヤケ顔で彼にも水パイプをまわしてきた。

 やらないのを知っているくせに。

 彼は無視してもう帰るために荷物をまとめた。

 帰る途中で、彼女にメッセージの返事をすることは忘れなかった。

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