46.試運転その2
第六階層から第十階層はルチアがモンスターを召喚したのか、霊だけではなく、初心者向けダンジョンの中階層としての出来はかなりよかった。ショコラの指示で罠が起動するかどうか確かめるためにわざとハマったり、モンスターと戦いながら4人は進んでいった。
『……腹立つわー……』
『何が?』
『オマエがまともな物を作る事がよ。この前女子受けがいい店を作ろうとした奴とホントに同一人物か?』
『ボクだってたまには真面目になるよ?』
『それが、ムカつくっての!』
「師匠達また喧嘩してる……」
「いつものことでしょ、諦めなさいよ」
「……そうだったわ」
通信魔石から流れるショコラとルチアの喧騒を聞き流しながら4人は次の階層へと足を進ませた。
「ここ……なんですか?」
「図書館ですよね……」
「ダンジョンの中に図書館を作るとはさすがだな!」
「ハル師匠何やってるんですか……」
第十一階層はハルお手製の図書館だった。四者四様様々な反応を見せながら、彼女らは手に取る。何かの罠かもしれないと警戒しながら、彼女達はそれぞれ本を取った。
「……面白いほどに何も起きませんね……」
「ご丁寧にポーションのサービスまでついてる……」
「ちょっと疲れたし、休むかー……」
「え、そのソファ罠なんて事ないわよね」
『安心して、全部ただの図書館よ』
「ハル師匠!?」
なぜかあったソファにクロエが腰掛けようとした瞬間、魔石からハルの声がした。全員、一瞬飛び上がって驚いたが、すぐに冷静さを取り戻しハルに言った。
『ここから十五階層まで全部図書館よ。本とか棚とか運ぶのホントに疲れたんだから、本だけに』
「……」
『冗談はさておき、これが私のトラップよ時間が経つのを忘れるほど面白い本を読みふける! 大丈夫よモンスターは来ないから』
「……はぁ……」
『ちょっと、その反応どういう事?』
リリィ達の反応が正直予想外だったハルはちょっと不満げに言った。
「すみません、ハル師匠。私ずっとハル師匠の事読書バ……好きだなとは思ってたんですがここまでとは思いませんでした」
「トラップとしては非常に新しい観点だと思うけど自分の欲丸出しじゃないですか」
「というか五階層分図書館って逆にスゲーぞ」
「…………」
「クロエー、ちょっと現実に戻ってこーい」
完全に読書に没頭しているクロエを除き、3人がハルに思いの丈をぶつける。それを聞いたショコラは半ば呆れるようにハルに言った。
『ほれ見ろだから止めとけって言ったんだ』
『面白いと思ったのになぁ……』
『そんなの喜ぶのオマエだけだって』
『え、でもクロエは喜んでますよ』
『クロエ!』
「はっ!」
「あ、ようやく戻っ」
「続き読むわ」
「クロエー!?」
結局、クロエはその小説シリーズ(外伝・番外編を含む)を全て読破するまで動かず、その日はここで一旦終了になった。
「ごめんな4人とも遅くなるから今日はここまでで」
「いえいえ、結構楽しかったですよ」
「はい! ダンジョンなんて初めて入りますし、しかも試運転なんて初めてですから!」
「モンスターとかトラップとかも始めて体験するし」
「しかし、ハルさんのトラップ……」
「あのバカにはあとでよーく言い聞かせとくからな。ハル、逃げるなよ」
「何でよ、クロエは見事にハマってたじゃない!」
「それはそれ! これはこれ! そもそもダンジョン内に図書館を作るな!」
「楽しそうだと思ったのに……」
「オマエだけだ!」
そう言い、ショコラはハルを軽く蹴った。翌日も調査のため4人は早めに寝ることにし、一方ハルはショコラに捕まりその日は遅くまで眠れなかった。
――その頃、ミスティは自分の体が少し薄くなってることに気づいた。
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