43.ダンジョンの最下層と財宝

 ミスティの死体騒ぎで作業どころでは無かった昨日。3人はその翌日警戒して、ダンジョンへと足を踏み入れた。



 「しっかしミスティの奴疲れ知らずだよな」

 「疲れを知らないと言うより、幽霊ですからね」

 「あ、それ以前の問題か」

 3人はだらだらとダンジョンの方へ進んでいく。当のミスティと言えば今日は早くから出ており、ガレキを取り除いている頃だろう。



 「さてと、問題のここだな」

 「さすがにしたいを取り除いてくれればいいんだけど……」

 「ボク、まさか彼女の正体があんなに醜い死体だと思わなかった……」

 「いや、そもそも死んでんだよ」

 3人は第十階層に行く前の階段で立ち止まっていた。そこに昨日大騒ぎの元になった死体があるかもしれないからである。しかし、立ち止まってもあまり意味は無いかと、3人は歩き出した。……歩き出したはずだったが……。



 「ショコラさん、先に行ってくれません? 少しだけ怖くてですね」

 「いやいやいや、そこは今のミスティの彼氏であるルチアが率先していくべきだろ」

 「何を言うんだ? そこは年下が一番先に……」

 「ちょっと、何ですかその嫌がらせ!」

 「ハル、オマエも人のこと言えないからな?」

 「ショコラ、さっきにボクに言ったこと思い出して?」 

 と、誰が先に十階層に行くか、喧嘩を始めたのだ。しばらく譲り合いという名のなすりつけあいが行われたが、ミスティの「喧嘩してないで早く来てくださーい。取り憑かせますよー」という言葉に負け、全員で下に降りることにしたのだ。



 「あー……よかった綺麗になってる」

 「死体はもう無いようだな」

 「ミスティ……これ一人でやったの?」

 「はい、私の魔力があればこのくらい一人でも問題ないのです!」

 「ありがとう、助かったわ」

 「ついでに死体も無くしたんだな」

 「それなら、向こうに……」

 「見せなくていい、見せなくていい」

 ミスティが奥の方から死体を取り出そうとしたため、3人は慌てて止める。少々残念そうにしていたが、彼女はその死体を取るのをやめ、階段の方に案内した。



 「ミスティ、階段作ったんだ」

 「はい、ここからはまず二十階層まで掘ることになります。あ、これ徹夜で書いた設計図です」

 「……アンタ疲れないの?」

 「幽霊に体力という概念があるとでも? それに私も働いていますが、大半は私の魔力で作った霊達が働いていますので」

 「……そう」

 ハルは一種のブラック企業っぽいなと心で思いながら、ミスティに生暖かい目を向ける。すると、ヘルメットをつけた霊の一体がミスティの方に来た。霊はミスティに何か言ってるらしく、ミスティはその言葉にうんうん頷いていた。すると、急に驚いた顔になり、下に向かっていった。ショコラ達も何事だと思い、彼女について行ったのだ。



 「何事かと思ったら……まさか二十階層で金銀財宝を当てるとは……」

 「キュウ!」

 「お手柄じゃない! 凄いわね」

 「キュウウ!」

 財宝を掘り当てたという霊を撫でるミスティ、なでられた霊は誇らしげに胸らしき部分をそらした。

 


 「おーい、何事……何この財宝の数!」

 「よく地中に隠すと聞きますが、今までよく見つかりませんでしたね……」

 「うっわー……綺麗」

 「凄いでしょ、この子達が見つけたのよ!」

 後からやって来たハル達もこの財宝の山を見て言葉を失っていた。どうやらかなり多いらしく、辺り一面光り輝いていた。



 「しかし、この量どうしようか」

 「普通に持って帰るのもありだけど……」

 「それじゃあダンジョンによってくれた人に対して可哀想な気もするし……」 

 「宝箱に小分けで入れるのは?」

 「それいいんじゃない?! あ、でもいつかなくなりそうよね……」

 「今ざっと計算してみたら、一日一冒険者チームがクリアするとしてそれでも100年は持つわね。来たとしても一ヶ月に一回来るってところだし」

 「……今のところ心配は無いって事かしら」

 「ま、そうね」

 心配していることが杞憂だと知り、ホッとする4人。しかし、ダンジョン製作はまだ終わってなどいないのだ。



 「ここまで掘ったのはいいんですけど今から罠とか作らないとダメなんですよね」

 「設計図とかはあるの」

 「ええ、ありますよ。ですが、ここに来る冒険者達の強さを考えて作らないとダメですから」

 「確かに、モンスターも必要だもんね」

 「出番かい?」

 「オマエは少し強さを考慮しような。この前のようなこと起こしたら絞めるぞ」

 「大丈夫だって、信頼しなよ」

 「それが出来たら苦労しない」

 「まぁまぁ、ショコラさんもルチアさんも喧嘩しないで、そろそろ帰りません?」

 「そうだな」 

 こうして、ハル達はまた帰路につくことにした。

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