40.デート当日

 デート決行当日。同じ家に住んでるのにわざわざ集合場所に指定され、先にそこに来ていたルチアは半分ほどうんざりした様子だった。

前日までミスティに鬱陶しいほど付き纏われ、寝不足というのもある。程なくして可愛く着飾ったミスティがやって来た。



 「ルチアさん! お待たせ!」

 「ミスティ、今来たんだ。よく似合ってるよその服」

 「そうですか! 嬉しい!」

 ショコラが買ってきた淡いピンクのワンピースを褒められ、ミスティは嬉しくなった。ルチアは(早く終わってくれ)と思いながらもこのデートを開始した。



 「あーっはははははは、ルチアのあの反応! 絶対はよ終われって思ってるわ!」

 「……ショコラさん。うるさいですよ。見つかったらどうするのですか?」

 「まぁ、その時はその時よ……ってハルなんで本を持って来てんの?」

 「本がないと死ぬんですよ……」

 後ろの店の物影からハルとショコラはこっそりと2人のデートの様子を見ていた。ショコラは面白さ半分好奇心半分で今回のデートを尾行することにし、さらにハルまで巻き込んだということである。ハルは最初不満げだったが、「帰りに本買ってあげるから!」と言うショコラの言葉に乗り気なった次第である。



 「あれ、何か後ろから……まさかショコ」

 「ちょっと、余所見って何ですか! 私に集中してください!」

 「ちょ、ちょ、っと死ぬ死ぬ死ぬ!」

 ショコラの気配を察知したのかルチアは後ろを振り向こうとするが、ミスティに首を絞められ、悶絶する。その後ろではショコラが大笑いをしており、ハルに一発殴られていた。



 「そういや、この劇場に足を運ぶのも久しぶりだな」

 「そうなのですか? ルチアさん」

 「ああ、ところで今日見る物って恋愛ものだっけ」

 「ええ、確か期待の若手の小説を舞台化したものとか」

 「へぇー面白そうじゃん」

 まるで恋人同士の会話をしながら2人は劇場の中へと入る。そして、その後からブティックで変装したショコラとハルも続いた。



 (ストーリーとしては悪くないな、ただちょっと演技が白々しいな)

 劇の評価を心の中でしながらルチアは退屈そうに見ていた。

 大魔女として良い物を見ている彼女には少し退屈な物だったが、一方でミスティは舞台を見ること自体が初めてだったのか目を輝かせていた。そんなミスティに呆れながらも、ルチアは彼女の手を握る。もっと言えば退屈だったから握ったというのもあるが……。

 

 急に手を握られたミスティは興奮のあまり顔を真っ赤にする。その後手の感触で中々劇に集中が出来なかったのだ。



 一方、その後ろの方では


 「ショコラさん、これどっかで見ませんでした?」

 「クロエが書いたやつじゃん。まさか劇になってたとは……」

 「本が劇になったのって喜んでましたけどね」

 「何でハルは原作を?」

 「劇を見ること自体が退屈なので」

 「…………そうか」

 「……ショコラさんそのポップコーンは」

 「食べる? キャラメル味だって」

 「それじゃあいただきます」

 2人は芝居の内容がクロエが書いた物だと早々に看破し、ハルは読書をショコラはスナックを食べるのに夢中になっていた。

 しかし、ショコラはルチアとミスティの観察も忘れていなかったが、劇場が暗すぎたのかはたまたショコラ達が少し遠かったのか見ることが出来なかった。



 劇場を後にした2人は最近、若い女性に人気があるというスイーツハウスへとやって来た。そこのショーケースにはフルーツがふんだんに盛られたタルトや甘い香りのするクッキー、色とりどりのチョコが綺麗に並んでおり、見る人の目を引く。これはルチアとミスティとて同じであり、早速注文した。



 「ミスティ、キミホントに食べるなぁ」

 「まぁもう幽霊ですので太る心配もないですし」

 「何か可愛いな……」

 コーヒーとケーキ2つだけにしたルチアに対し、お皿にたくさん盛られたスイーツを食べるミスティに対し、ルチアはため息をついた。しかし、その表情はどこか嬉しそうで、2人は先程の劇の感想を話していた。



 「何だよ、楽しそうで。あーあ修羅場とか見たかったなぁ」

 「ショコラさんは悪魔ですか。てか何で外で……」

 「こっちの方が観察しやすいから」

 「中でいいでしょうが全く……」

 当然2人も店に来ており、この暑い時期全く人がいない外で食べていた。ショコラは限定のゼリーを食べながら不満そうに2人を見、ハルはハルで先程劇場で読んでいた本とは違う本を読んでいた。



 「……ところでオマエなんでそんな盛ってんの?」

 「女神の加護です」

 「よしシバく」



 その後、2人は雑貨屋へと足を運ぶ。ここはショコラ達はともかく他の住民も愛用している店で彼女達が宣伝になっているのか人で賑わっていた。ルチアとミスティは手前のアクセサリーコーナーを見る。



 「……ところで幽霊って透過するの?」

 「乗せれば問題ないですよ」

 「じゃあこれつける?」

 「これは?」

 「ネックレス。色違いで揃えないかい?」

 「ルチアさん!? いいんですか?」

 ルチアはミスティに真ん中に紫の石を誂えたネックレスを渡し、また自身もそれを手に取る。ルチアと同じアクセサリーをつけるとは思わなかったミスティは喜びのあまりうれし泣きしていた。



 「おいおい泣くなって」

 「だってこんなに嬉しいこと初めてで……どうしよう成仏しそう……」

 「え? 嘘だろ?」

 「まぁ、嘘ですけどね」

 「よかった……」

 嬉しさのあまり昇天しそうなミスティをなんとか引き留め、会計を済ます。

 が、そこを離れた場所で見ていたショコラは不満そうだった。



 「あーあ、ただのバカップルじゃん。ってハル何してんの?」

 「ショコラさん、この栞とこの栞どっちが良いですか?」

 「……知るかよ」



 いよいよ夕方も迫り、今日のことを思い出しながらルチアはミスティと歩いていた。確かに無理矢理から始まったデートだったが、今日一日ミスティと一緒にいて悪くなかったなと歩きながら思っていた。

 少し、考えるような表情のルチアにミスティが聞いた。


 「ルチアさん? どうしました?」

 「いや、悪くなかったなって思って」

 「ホントですか!?」

 「うん、何ならまた一緒に出かけたいと思ってて……」

 「ルチアさん……!」

 ルチアの一言にミスティは強く腕を抱きしめる。その強さに驚くがルチアはなんとか受け入れた。



 翌日。


 「コラー! また浮気したわね!」

 「違う! これは不可抗力だ!」

 「何が不可抗力よ! この浮気もの!」

 ミスティにバレずに外に出て、また適度に女性を引っかけようとしたルチアだったが、ミスティにバレ、いつものように首を絞められていた。その様子を見てショコラは指をさし、嘲笑いながらルチアに言った。



 「自業自得だバーカ!」

 「チックショー!」

 

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