38.新住民の幽霊
ルチアの気が済んだのか、ルチアは一旦口説くのを止め、姿勢を正す。ようやく終わったがと言いたげな眼差しをしてハルとショコラも再びミスティの方を向いた。
しかし、肝心のミスティはと言うとすっかりルチアにメロメロになっており、心ここにあらずという状態であった。
「あーあ……やっちまったな……」
「幽霊でもいけるのか……」
ミスティのルチアに対する反応を見てショコラは頭を抱え、ハルはため息をつく。
だが、そんな二人を無視するかのようにルチアが切り出した。
「ところで、ミスティ。キミはこれからどうする? ボク達についてくるかい?」
「あなた様がいるならどこにでも行きます」
うっとりとした表情で言うミスティに満足げに微笑むルチア。そんな二人を見てハルとショコラはもう勝手にしろと言う具合に投げやりな姿勢になった。
さて、ミスティを連れて屋敷から森の外に帰った4人を待っていたのは他の住民からの質問攻めだった。
「遅いよー」
「いつまで油売ってるんですか」
「その人誰ですか?」
「また住民増やしたんですね……」
「にしても凄い美人ですね……」
と、好き勝手に言い放題な他の住民をショコラはなんとか黙らせ、これまでの説明をルチアに丸投げした。
「何でボクに丸投げするんだい?」
「オマエら2人がアホな茶番やるからに決まってんだろうが!」
「全く……最初からその場にいたのはキミ達ってのになんて横暴な……」
と、ぶつくさ文句を言いながらルチアはこれまでのことを分かりやすくざっくりと説明した。
「……というわけで一緒に暮らすことになるミスティだ」
「え? ミスティ? どこかで聞いたことあるような……」
ルチアの説明を聞いてリリィは少し考える。しばらくして、思い出したかのように手を叩き、言った。
「もしかして、幽霊の魔女で有名なミスティさんでは!?」
「幽霊の魔女!? え、じゃあここに三大魔女全員集結したって事!?」
「うっそ……そんな奇跡起こっていいわけないわ……」
「何かもう肝試しするより怖いのだけど……」
「どうしよう……何か怖いわ……」
「お嬢様!?」
目の前にいる幽霊がまさか偉大なる魔女の一人そして偉大な魔女が全員揃った事でリリィ達弟子3人は肝を冷やし、クロエに至っては気絶した。
クロエが倒れた以前に幽霊のドタバタ騒動で肝試しをやる気がとうに無くなった住民達は全員屋敷に帰って寝ることにしたのだ。
翌日、ショコラは誰かに無理矢理揺すり起こされた。
不機嫌そうに目覚めるとそこには焦った顔をしたルビィとサフィがおり、ショコラは一瞬して目が覚めた。
「何が起こったんだ?」
「いきなり起こして申し訳ございませんショコラ様。屋敷内に幽霊が大量発生しておりまして……」
「はぁ!? どういう事!?」
パジャマのまま、髪も纏めずにショコラは自室からドアを開け廊下を見る。するとそこには小さな幽霊がたくさんおり、何やら甲斐甲斐しく働いていたが、可哀想にメイドの妖精達は怯えていた。ショコラはそのままの格好でミスティを探し、図書館でようやく彼女を見つけた。
「見つけたわよ……ミスティ……」
「あれ、ショコラさん。どうしたんです?」
「どうしたもこうしたもないでしょ! 何なのあの幽霊は!!」
「お屋敷広そうだったので」
「あ、ありがとう。ってそうじゃなくて! 幽霊のせいで妖精達が怯えてんのよ!」
「大丈夫です! 害は無いですよ!」
「害は無いって言われても……」
なんとかミスティを説得させ、幽霊を一旦は消すことに成功したショコラは自分の部屋に戻り、二度寝をした。
さて、そこから時間が経ち朝食の時間。ダイニングテーブルには所狭しと料理が並んでおり、食欲をそそる匂いが広がっていた。
一同が席に着く中、全員はミスティの方に注目する。そう、幽霊も食事をするのかという純粋な疑問である。全員の目線が自分に向いたことに気づいたミスティは怒鳴るように言った。
「何ですか! 幽霊が食事をするのがそんなにおかしいんですか!」
「別におかしいことは無いと思うけど」
「いや、ちゃんとご飯食べるんだなぁってだけ」
「幽霊でも食べたいときはありますよ! エネルギー使うんですから!」
「まぁ、うちには3ヶ月ご飯も食べなかった奴がいるけど」
「ショコラさん?」
「よーし食べるぞ」
ハルの睨むような視線を無視してショコラの一言で屋敷の住民は皆朝ご飯を食べ始めた。
食事後、いつものように弟子達の魔法修行に付き合いその後図書館で読書をしていたハル。
大概はここに来るのはショコラのみだが、その日は珍しくルチアやミスティまでいたのだ。
ミスティは何やら相談があるらしく、ここに来たようだった。その内容を聞いてハル達は驚いた。
「え? デートがしたい?」
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