37.幽霊ミスティの好み

 魔法で屋敷の明かりを灯し、ショコラとハルと幽霊は大広間のソファに腰掛けた。互いに向き合って3人は紹介した。



 「さっきはごめんね、いきなり魔法をかけて。私はハル」

 「すまないな、喋る幽霊なんて初めて見たもんで」 

 「いえ、こちらこそ驚かしてしまったようで……私はミスティと申します」

 ミスティと名乗った銀髪にラピスラズリの綺麗な目を持つ少女。ショコラはミスティを見て何か思い出すように考え始めた。



 「はて、ミスティ? どっかで聞いたことあるような……」

 「聞いたことあるんですか?」

 「うん……確か……あっ! そう言えば、『幽霊の魔女』って言う二つ名があったような……」

 「……何かとんでもない予感がするんですが、それは」 

 ショコラは思いだしたように手をポンと叩き、ミスティの方を見る。ミスティは照れ笑いをしながらショコラに言った。



 「幽霊の魔女だなんてそんな大げさな……私自身ちょっと霊を召喚するだけですよ?」

 「アンタね、その霊を使って悪霊とかを倒すのはアンタ程度なのよ。もっと自信持ちなさいって」

 「は、はい! 確かにそうですよね……」

 「ショコラさん、じゃあこのミスティさんって魔女はかなり強いのですか?」

 「強いも何も、彼女一人いれば幽霊屋敷が出来上がるし、ダンジョンだって創れるわよ」 

 「……ひぇ……怖……」

 「で、でも時間様や精神様ほどではございませんから……」 

 「まさか……オマエの言う『時間様』って私のことか?」

 「……本物?」

謙遜するミスティに対してショコラはとんでもない発言をする。その言葉にミスティは飛び上がり、ソファの後ろに隠れた。



 「嘘でしょ……! 時間様に会えることが出来たなんて……! 私死にそう……死んでたわ」

 「何一人でブツブツ言ってんだ?」

 「怒ったりしないので出てきてくださいよ」

 「ひえ! そんな恐れ多いこと!」

 「こりゃ重傷だな……ハル」

 「はいはい、分かりました」

ショコラに言われ、ハルは向かいのソファに行く。何とかミスティを引っ張り出し、また座らせる。顔を隠すミスティにショコラは聞いた。



 「何で死んだんだ?」

 「ダンジョン創っていたら死にましたね、我ながら情けない」

 「……マジかよ」

 「落石注意ですね。まだ周りに死んだとは言われたくないのでここで身を隠していたのですが……」

 「人も来ないしな」

 「でも、こんなに早く見つかるとは……幽霊としてまだまだ未熟と言うことですか……」

 「……かなり強い魔力持ってんだから遅かれ早かれ見つかっていただろ」

 「うう……隠れることすら出来ないなんて……私はなんてダメ魔女……」

 「別にダメって事は無いと思うが……」

 また落ち込み始めたミスティを面倒くさいなと思いながらショコラとハルは彼女を見る。

ふと、思い出したようにハルが聞いた。



 「ところで、ミスティさん」

 「何でしょうか」

 「未練ってあるんですか?」 

 「へ? 未練?」

 ハルは前世の知識で成仏できない幽霊は現世に留まるということを思い出した。ミスティは一瞬考えてからハッとなり言った。



 「未練? ならたくさんあるわよ。ダンジョンもまだ半分しか終わってないし、行きたいなーって思ってる食堂にも行ってない。そう言えば恋したこと無かったなぁ……男の人はどの人もパッとしすぎて……」

 「未練たらたらじゃ無いの……」

いきなり饒舌になり出したミスティに2人は完全に呆れた眼差しを向ける。しかし、ミスティは気づかずまだまだ語り出す。



 「正直、現世の男はどれもこれもちょっと賢すぎるんですよね、すこーしクズなぐらいが丁度いいんですよ。私としては世話を焼きたいし、甘やかしてあげたいんですよね……でもあまりにもクズすぎるのはちょつと……ダメかなぁ……と思うとなかなかいい人がいなくて……あーあー……結局恋せずに死んじゃったなぁ」

 「はあ……」

長々と聞いてもいないのに続くミスティの語りに最早聞く気も失せて来たハルとショコラだったが、一向に終わりそうに無い。

 だが、その時扉が開かれ、ルチアが飛び込んできたのだ。



 「あんたらいつまで待たせるのよ……って誰その美人」

 「美人って……私のことですか?」

 「そうですよ、お嬢さん。綺麗な糸のような髪にラピスラズリが逃げ出すほど美しい瞳を持つお嬢さんのことですよ」

 「やっだぁ……美人なんて……こんなカッコいい人釣り合わないわ」

美人を見つけたら口説かずにはいられない残念紳士なルチアはミスティを見るなり口説き始めた。そして、ショコラとハルはその様子を見てしみじみと呟く。


 「私達、何を見せられてるんでしょうね」

 「……さぁな」

2人が完全にしらけてる中、このラブロマンスの始まりのような茶番は続くのであった。 

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