28.得意と苦手
さて、弟子が2人もついたのはいいものの、何から教えたいいのか分からないハルはとりあえず初級の魔法本を開いていた。見習いはまず杖を使って詠唱付きで魔法を使う。ハルのような無詠唱かつ呪文無しはよほど熟練した魔女じゃないと使えないのだ。
「よしじゃあ2人ともとりあえずファイアを唱えてみようか」
「はい!」
ハルに言われて、2人は本を見ながら、呪文を唱える。
「熱き焰よ、ただいまここに顕現せよ」
杖を振りながら、呪文を唱えるとマーシャの方は杖から火が出ることに成功した。しかし、リリィの方はブスブスと煙が出ただけだった。
「おお~! 上手く出来た!」
「あちゃ~……失敗」
「まぁ、誰でも最初は失敗がつきものよ。だから落ち込むことは無いよリリィ。でもマーシャは凄いねファイアが出来るなんて」
「まぁ、このくらいは当然です!」
上手くいかず落ち込むリリィと対照的にマーシャは誇らしげに胸を反らせる。ハルは次の魔法を2人に教える。
「じゃあさ、ここにある回復魔法を唱えて、あそこにある木を直すことは出来る?」
「分かりました!」
「癒やしの光よ、傷あるものの祈りを聞け」
すると、2人の杖から光が出てきて、木の方に向かう……はずだった。今度はリリィの方が上手くいったものの、マーシャの方はその光はすぐに消えたのである。先程とは真逆の反応になる2人。そして、この様子を見てハルは気づくことがあった。
「ちょっと気になったことがあったけどいいかな」
「どうしました、師匠」
「リリィは今の回復魔法が出来て、ファイアはダメ。マーシャはその逆でしょ。もしかして2人は得意魔法が違ってくるのかなって……」
「と言いますと?」
「世の中の魔法が黒魔法や白魔法とかに分かれてるのはさすがに知ってるよね」
「はい」
「多分先程のことを察するにマーシャは黒魔法がリリィは白魔法が得意かもしれないと思うよね……」
「なるほど」
とハルは先程の魔法を思い出しながら2人に話す。
この世界の魔法はざっくりというと攻撃用の黒魔法と回復の白魔法がある。他にも細分化はあるが、基本は2つだ。見習いの時点で両方使える人は滅多におらず、生まれつきの魔女だとしてもそれは同じ事だ。そこでハルはまず得意な事を伸ばしていこうと決めたがそこでとある人物がやって来た。
「ただいまー」
「あ、ショコラさんお帰りー」
「ん? 何だ客でも来てるのか?」
「ああ、この2人? 私の弟子よ」
「ふーん……弟子ねぇ……っておい! どうした!? なんの心変わりだ!? 読書時間が減ることを最も嫌うお前が弟子って!?」
「本書いてるって言うから……」
「お前らしいな……全く」
帰ってきていきなり始まったショコラとハルの茶番劇に2人は何が起こっているか全く分からずポカンとしていた。そんな2人にハルが気づき、慌てて謝った。
「あ、ゴメンね2人とも。この人はショコラさん。凄く強い魔女でこの屋敷の一応の主人なの」
「初めましてか、お2人さん、私はショコラだ。気軽にショコラさんでいい」
「え、あ、はい、初めまして……私はマーシャです……」
「あたしはリリィと言います……まさか、こんなところでショコラさんに出会うなんて……」
何やら興奮しかけている2人に疑問に思い、ハルは質問を投げかけた。
「え? ショコラさん有名なの?」
「ハル師匠知らないんですか!? ショコラさんは魔女の中でも三本指に入るとんでもないお方ですよ!?」
「生まれつきの魔女と言われ、その強さは未知数。世界に1人しかいないと言われる時間魔法を使えると言う大魔女ですよ! まさかこんなことろで会えるとは……」
「ショコラさんそんな有名だったんだ……」
「いや、私も初めて知ったんだがな……」
まさか異世界に来て最初にあった同居人がとんでもない魔女だと知らされ、呆然とするハル。
しかし、思い返してみればその節はあった。
『本を読んだだけでその能力をものに出来る』ハルですら時間魔法は扱うのが難しい。それをいくら膨大な魔力を消費してでも使えるし、魔法の威力はハルに負けず劣らずだ。
確かに有名になるだろうな……と思い尊敬の念をこめてハルはショコラの方を見た。
すると、ショコラはとあることを思い付いたのだ。
「ちょっと話を聞いていたが、このマーシャって子が黒魔法の使い手でリリィって子が白魔法の使い手だっけ? じゃあマーシャはあたしが教えるからリリィの方頼めるか?」
「え!?」
「マーシャすごい! ショコラ様に教えてもらえるなんて!」
「いや、ハルも凄いよ。この前のモンスターの時浄化魔法を唱えられたからさ。私は浄化魔法いや白魔法全般苦手でな……」
「え!? 浄化魔法!? アレ唱えるの難しいのに!?」
「ちょっとショコラさん……何教えてるんですか!」
呆れながら返すハルだが、そこにいたリリィの輝く目を見てハルはこれは結構頑張らないといけないと思った。こうしてショコラも来たことにより2人の魔法修行はますます進んでいく。
一方、その頃部屋からその様子を見ている一人の少女がいた。少女はその様子を見て羨ましそうに見て、こう呟いた。
「いいなぁ……」
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