13.遊びに来たのに引っ越し決定!

  翌日、ハルはベッドの中で目覚めた。窓を覗くと朝日が差し込むまえだったため、ハルは久々に早起きしたなと思っていた。

 ハルはベッドからおり、1冊の本を取る。またベッドの上に乗り、その本を読み始めた。



 ある程度、読んだ所だろうか、ハルは誰一人来ないことに違和感を感じて、部屋の外に出る。

 そこにはたくさんのおぞましい何かがおり、ハルはヒッと声を出した。そして何かが手を置く気配がして振り向くと、異形と化したクロエと既に人の形をなしてないセレネがいた。

 ハルは逃げだそうとしたが、何かに捕まっており、逃げることもできない。蠢く何かに引きずり込まれるうちにハルの意識はどこかへ消えた……。



 「ハッ、夢か……」

ハルはその夢に驚きおののいて、飛び起きた。

 「ハルさん!?」

 「ハル様、どうしたんですか?」

そしてそこにはなかなか起きてこないハルを心配して部屋に来たクロエとセレネがいた。

ハルはなるほど、原因はこれかと失礼な事を考えながら挨拶した。

 「おはよう、セレネにクロエ。ちょっと悪夢を見ただけよ」

 「そうですか…ところで朝ご飯ができてるの! 一緒に食べませんか?」

 「そうするわ……」

 「では、案内いたします」

昨晩のように二人に連れられて、ハルはダイニングに向かった。



 「ところでハルさん。何で昨日ここに来たんですか?」

 朝食を食べているといきなりクロエからこんな質問をされた。その時までハルもここにいることに一切の違和感を抱かなかったが、そう言えば、と疑問に思った。

が、ここで何も話さないのも何なので昨日の事を話した。



 「……つまり、家出してきたんですね」

 「まぁ読書好きの勝手な行動よ。自分でも十二分に自己中だと思ってるわ」

と自虐的に笑ったハルだが、クロエは嬉しそうだった。

 「でも、ハルさんがあの時あの森の中にいなければ、私の呪いも解けなかったんですよ」

 「それは……そうだな」

 「それに、お客さんが来たのが久しぶりで私とっても嬉しいんです」

と、クロエは微笑んだ。



 「ありがとうございます。色々とお世話になりました」

 朝食を終え、そろそろ皆心配しているだろうと思ったハルは帰ることにした。玄関でセレネとクロエが見送りに来た。しかし、クロエはどこか寂しそうな様子だ。

 「あの……ハルさんまた会えますか?」

 「私の家は草原にあるから、いつでも会えるわよ」

 「じゃあ今から行っていいですか?」

突然、こんなことを言い出したクロエに驚きを隠せないハル。しかし、笑顔で答えた。

 「いいわよ、ついてくる?」

 「本当に!? セレネ、あなたも行くわよ!」

 「え!? ちょっとお嬢様!?」

いきなり言い出したクロエにセレネは驚いたが、ついて行くことにした。



 しばらくして、3人はハルが住んでいる屋敷に着いた。

 「まぁここが私の住んでる家だけど……」

ハルは案内しようとしたが、2人はその大きさに吃驚していた。

 「なんですか、この大きさは……」

 「私が住んでいた家以上です……」

 「驚いた? 私も最初はびっくりしたからね、まぁ中は普通のお屋敷だけどさ、さ入って入って」

と言って中に案内しようとしたが、ガシャーン! と言う音が聞こえてきた。



 「だから、レイラ様はじっとしていてって言ってるでしょうが!」

 「ああああ、すみません!」

 「もうこれで何個目だ……」

 屋敷の中は相変わらず阿鼻叫喚で、また騒動が起こっていた。

サフィが扉を開けたままのハルに気づき、声をかける。



 「ハル様!? どうしてこんなところに!? 後そちらのお嬢様方はいったい……」

 「その2人のことは折々話すとして……また何が……ってセレネ?」

 ハルが言い終わるか終わらないかのタイミングでセレネは前に飛び出し、散らばった皿のかけらを掃除し始めた。

 そしてそれが終わったら、次はレイラの手当てをした。どちらも高速で終わったため、その場にいた全員感心した目で見ていたのだ。



 「すっすごい……」

 「まぁ、このぐらい楽ですよ。かつて1人で全てやっていましたから」

ルビィに褒められ、セレネは微笑む。その行動にボーッと見つめていたハルが正気に戻り、話した。

 「あ、紹介するね。この人達はここで仲良くなったクロエさんとそのメイドさんのセレネさんだよ」

 そこにいた3人は2人に挨拶をした。



 庭で鍛錬していたクレセ、そして読書していたショコラも呼び、一同は応接室に集まった。

 ショコラは安堵したような呆れたような口調で話した。

 「漸く帰ってきたと思ったら、まさか客人を連れて帰るとは思わなかったわ……でもまぁ無事でよかったけど……」

 「元はと言えばあなたがうるさいほどに、『外に出ろ』って言ったのがそもそもの話ですけどね」

とハルは言い返す。

何をとショコラが睨み返すがルビィが諫めた。

この屋敷に住んでいる彼女らにはいつものやりとりだったが、クロエは目を輝かせていた。



 「皆さん、楽しそうですね! いいなぁ」

 「え?」

クロエのその一言に振り向く一同。クロエは皆の視線を気にせずに続けた。

 「私ずっと、セレネと二人きりだったからこう言うのに憧れてて……興味本位でここに来たけど私ここに住みたいです!」

 「お嬢様!? そんな迷惑なこと!」

突拍子も無いことを言い出したクロエにセレネは驚いたが、ハルは笑顔で言った。



 「この屋敷の広さを見れば分かりますが、まだまだ空きはあります。2人ぐらいどうって事は無いですよ」

 「しかし……それでは皆さんご迷惑では?」

 「いえ別に」

 「手伝ってくれる人が増えるならどっちでも」

 「楽しくなりそうだし」

セレネはもっともな疑問を口にしたが、他の屋敷の住民も納得していたためさすがに黙った。

 「それに私も増えるのはいいですよ。読書の邪魔さえしなければ何でもいいので」

 「はぁ……そうですか……」

 「え!? じゃあここに住んでいいの?」

 「うん、もちろん。歓迎するよ! まあ荷物とかは折々考えていくとして……」

 「ホントに……何から何まですみません……」

 こうしてまたこの屋敷に住民が増えたのであった。

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