12.いともたやすく簡単に

 「本当ですか!?」

 「嘘でしょ!?」

ハルのその言葉に二人は飛び上がる。それはそうだ。今まで何度試しても解呪出来なかったものが出来るのだから。



 「いいえ、嘘ではありません。この本に書かれてあったので」

 ハルは1冊の本を取りだし、二人に見せる。その本を見て、二人は驚愕した。



 「これって……古代呪術の!?」

 「よほどのことが無い限り、使われないっていう……」

 「はい。先ほどクロエさんの手の甲や掌を見ると微かにですが、掌に呪紋が見えました。しかし、呪紋は多分掌だけじゃないかと。この本によると古代呪術の中には別のところに本体の呪紋をつける事があるそうです」

 「じゃあ、お嬢様は……」

 「そう言うことです。ちょっと失礼します」



 ハルはそう言うと指を鳴らした。するとクロエの左の掌にあった呪紋が浮かび上がり、腕へと伸びる。クロエやセレネはあまりの事に怯えていたが、ハルは冷静だった。呪紋は腕から右手へと伸び、そしてようやく止まった。



 「嘘……こんな事になってるなんて……」

 「信じられない……」

まさか呪紋がこんなに大きいとは思わず二人は互いに見合う。

そしてハルの方を向いて懇願するように見た。



 ハルは静かに頷き、二人に言った。

 「玄関とか広いところありませんか? 解呪するなら出来れば広いところがいいので……」

 「分かりました! すぐに案内します」



 しばらくして三人は玄関の方に来た。そこはかなり広く、魔方陣を書くのにはぴったりだった。

 ハルは本に書いていた魔方陣を書いていく。二人はそれを見守っていた。

しばらくして、ハルはそれを書き終わりクロエに向かって言った。



 「それではクロエさん。この魔方陣の中に」

 「は、はい」 

少し怯えながら、クロエはその中に入る。セレネも不安そうに見ていた。すると光が彼女の両腕と肩に集まってきた。

光は彼女の禍々しい呪紋を消すように優しく触れる。その光は決して不快では無く心地よいものだった。



 それから数分経ち、全ての光がクロエから去った。ハルはクロエに優しく言う。

 「多分もう出ても大丈夫だと思います」

言われたクロエはゆっくりと魔方陣から出た。



 「うそ……全部無くなってる! 綺麗さっぱり」

 魔方陣から出たクロエは自分の掌を見て驚いた。先ほどまであった恐ろしい呪紋はすべて消えていたのだ。

 安心したクロエだが、セレネはまだ不安そうだった。

 「でも、呪紋が消えても、まだ効果が残っていたら……」

その言葉にクロエもまた表情を曇らせる。



 するとどこからか植木鉢を持ったハルが二人の間に入った。

「では、こちらの植木鉢の植物に触れてみて下さい。恐らくですけど枯れることは無いと思います」

 クロエは勇気を出し、目を瞑って恐る恐るその植物に左手で触れた。

 すると植物は枯れる…事は無く、そのままだった。何も起きないから不思議に思ったクロエは目をゆっくりと開ける。

そして枯れてない植物を見て喜んで飛び上がった。



 「セレネ! 見て私の呪い解けてる!」 

 「お嬢様! あの、ハル様ありがとうございます! もうなんとお礼したらいいのか……」

 「いいですよ別に。こっちとしてはこの屋敷で死ぬなんてゴメンでしたし……」

 「まぁ確かにそうですけど……でも解呪出来る人は今までいなかったので……まさか右手にもあったなんて……」

 「危険すぎて今は使用禁止ですからね。まぁ呪い全般ダメですけど」

 「でもよかったわ……あの、ハルさん、本当にありがとうございます!」

 「いいのいいの。それよりお腹空いたわ…ご飯出来てます?」

 「はい! ただいま持ってきますので少々お待ちを」

とセレネは台所へと急ぎ、2人は元の応接室に戻った。

 


 セレネが作った晩ご飯を食べた後、ハルは2人に先ほどの話をする。

 「ところで、今まで解呪した人はいないと言ってましたが、もしかして左手だけの解呪を試みましたか?」

 「ええ、ですが何をやってもダメで……まさか左だけでは無く右もだったとはろ…しかも今は禁制の呪いだったなんて……」

 「まぁ驚くのも無理は無いと思います。古代なんてまず習いませんし。それはさておきクロエさん。呪われる心当たりは?」

 「私自身はないですが…その昔先祖が悪魔と契約してその代償だったと…」

 「悪魔との契約か……無責任な祖先もいたんだなぁ……」

 そう言い、ハルは天を仰ぐ。確かに長い年月生きる悪魔との契約ならば古代の呪術を使うことも出来る。

 しかし、その代償をまさか子孫に押しつけるとは思わなかったためハルは溜息をついた。

 だが、クロエは紅茶の入ったカップを見ながら、安堵してこう言った。



 「でも、解けてよかったです、これで誰も悲しまなくなるから……」

 「それは何よりだけどな」

すると、コンコンと扉が叩かれ、セレネが入ってくる。

 「お嬢様、ハル様寝室の用意が出来ました。ご案内いたします」

 「分かったわ。ハルさん、行きましょ」

 「うん」

 持ってきた本と本棚から持ってきたいくらかの本を持ち、ハルはクロエとセレネに案内された部屋に入り、何の不安もないようにその日は眠ったのだった。

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