ブレディスの心夜と翼。そして俺

#01 モンバケ祭実行委員の二人




 ブンカ祭っていうのが行われるらしい。クラスで何の出し物をするかって話し合っているんだけど、全く話についていけない。そもそも、ブンカ祭ってなんだろう。早く帰りたいのに、実行委員が決まらなくて大いに揉めている。



「俺は無理だ。秋の大会諦めろっていうのかよ」

「私だって、無理よ」

「じゃあ、誰がやるっていうんだよ。そんな暇なやつ……」



「「「いたわ」」」



 な、なんで俺を一斉に見るの。え、俺ってやっぱり肝っ玉の据わったインターナショナルキャラだから、注目の的なの。実行委員がなんだか分からなくてもできる?



「ま、待って。春彩は……その、難しいんじゃないかな?」

「そ、そうですよ。白詰さんの言うとおりです」



 茉莉と紅音ちゃんの憐れむような目で見てくるの。えっと、つまり、俺が実行委員になったら、苦労するということか。記憶喪失でアホだから、そう思われても仕方ないけど。でも、俺だってやればできることをショウメイしたいっ!



「俺……やるよ。実行委員やる」



 シーンとしたけど、すぐに、学級委員長が俺の名前を黒板に書いた。なんだか、選ばれたヒーローみたい。かっこいい俺。



「では、男子は緋乃くんに決定。次に女子だけど……」



 学級委員長は俺をチラ見した後、なぜか茉莉を見つめる。なんで?



「……わたしは無理なの。生徒会の方の文化祭実行委員なので……」

「あ。白詰さん、生徒会の方の実行委員なんだっけ?」

「うん。準備が被っちゃうから、無理なんだよね」

「合間見て、とかできないかな?」

「メインステージとか、体育館、全クラスをまとめたり、あとは、パンフレットと冊子づくりがすでに間に合っていないの。だから……難しいかな」



 学級委員長、黙っちゃった。茉莉はすごく悲しそうな顔をしてる。俺の方を見て、泣きそうな顔をしている茉莉に、紅音ちゃんはすごく嬉しそうに笑っている。あの紅音ちゃんが悪魔みたいな顔してるんだよ、信じられる?



「私がやります。むしろ、私以外にやる人いないでしょう」

「え……ほ、ほんとに大丈夫なんですか? 確かに部活はしていないでしょうけど」

「委員長、これでも私は帰宅部部長ですよ。そこの白詰さんは、実行委員だそうで、忙しそうですし、もうここは私がやるしかないでしょう」

「い、いや。ほら、碧川さんは歌手だし……」

「そんなの、春秋さまのた——学校行事優先よッ! 学生は学業が本分だものっ!」

「……文化祭が…学……ま、まあ、じゃあ、碧川さんが実行委員ってことで」



 クラス中がざわざわし始める。碧川さんが……とか。紅音さまがやるなら、俺がやろうかな、とか。



「そ、そうだよ。やりたい人、みんなでやろうよ。そ、その方が面白いのできそうだし」

「白詰ちゃんがそう言うなら、俺もやろうかな……」

「ああ、俺も」



 ダンッって机を叩いて、紅音ちゃんが立ち上がった。絶対、今の手が痛かったよね。スーッと息を吸う音。えっと……怒って……いらっしゃる? 怒ると怖い。紅音ちゃんは、右から左に冷たい視線で刺すように見回した。



「先程まで、みなさん忙しいことを理由に渋っていたじゃないですか。それに比べて、春彩さまは、自分からやるって言いましたよ。なんて男らしい。私と春彩さまでやってみます。それに、実行委員は二人もいれば十分だって、みなさんで決めたのですよね? なら、私と春彩さまでやってみせます!」



 またシーンってなって、みんな黙っちゃった。茉莉は悔しそうに唇を噛んじゃって、紅音ちゃんを睨んでいるし。クラス中の男子が俺を睨んでいるし。これは……俗に言う……にらめっこってやつだ。笑ったら負け。



 ————しかし、俺は耐えられなかった。



 みんなが真剣なフリをイッチダンケツしている様子がおかしくて、つい吹き出しちゃった。



「ブハッ! あーはっはっは。みんなウケるよっ! さすが、愛すべきクラスメイト」



 クラスのみんなは、睨むのを止めて、一歩引いて俺を見てる。ドン引きだな、なんて声が聞こえてきた。ドンが引く。意味がわからない。




 こうしてホームルームはカイサンになったけど、教室に俺と紅音ちゃん、それに茉莉は残った。俺と紅音ちゃんは、ブンカ祭の話をすることになっていたんだけど。茉莉は……不機嫌な顔で、じっとこっちを見てるの。怖い。



「白詰さんは、生徒会実行委員の準備があるのでしょう。私たちには気にせず、どうぞ行って下さい」

「春彩……分かってるよね?」

「えっ!? な、なにが?」

「む。いいよ。碧川さんと仲良くイチャラブすればいいじゃないッ!!」



 茉莉のヤツ、教室を飛び出して行っちゃった。すごく悔しそうな顔してた。紅音ちゃんは、気にする様子もなくて、ノートにシャーペンを走らせる。ブンカ祭のクラス出し物の案って書かれている。文化祭ってもんばけ祭って読むのかな? おばけ祭りみたい。



「昨日、みんなと雑談程度に話した出し物案としては、一つ目がお客さんに飲食を提供するカフェ系。二つ目がお客さんになにかを体験してもらう体験系。三つ目がみんなで何かを作って発表の場にする展示系。この三つの中から絞らないと」

「……おばけ祭りなんだから、おばけ屋敷でいいんじゃないの?」

「………おばけ祭り? ブンカ祭ってお化け祭りなんて呼び方もあるのですか?」



 ん? 自分でもんばけ祭って書いたのに、分からなかったのかな。モンバケ祭って。アレでしょ。ハロウィンが近いから、オバケ関連行事が多いって、テレビで言っていたし。



「やっぱりオバケ屋敷でいいんじゃない?」

「確かに、お化け屋敷もアリですね。さすが、春彩さま。ただ、皆さんの前で案を出すからには、もう一つくらい案が欲しいですね」



 モンバケ祭の出し物……紅音ちゃんの話だと、カフェ系も有りだと言っていた。つまり、クラスの女子が……もてなしてくれる……カフェ。おっぱいだ。それしか考えられない。



「おっぱいカフェ。女子たちみんながおっぱいを出して、もてなしてくれるカフェなんてどうかな。うん。いいよね。完璧だ」

「……はいはい。却下です」

「え……どの辺がダメ? いいと思ったのになぁ」

「そういう下ネタはまず、生徒会に案が通りません。ですが、カフェの概念は文化祭で王道ですね。コスプレ喫茶などは、他のクラスと被るでしょうし。なかなか難しそうですね。お化け屋敷も被る可能性はありますけど」



 そうか。おっぱいがダメとなると、お尻……いや、きっとダメだって言われる。考えろ。満なら、あいつなら……もっと、もっともっとえっちなカフェを考えつくはず。



「女子がえっち————」

「却下です。まず、女子がなにかをお客さんにするという発想から離れましょう。春彩さまは、私がいます。だから、他の女子の胸なんて見ても面白くないじゃないですか?」

「そうかな……紅音ちゃんのおっぱいってちいさ————」

「皮を剥いで吊し上———はいはい。大きければいいというものでもありません。バランスです」



 ええ……バランス。そうだったのか。モテモテの紅音ちゃんが言うなら間違いないよね。ってそんなことよりもカフェだ。どんなカフェがいい?

 

 紅音ちゃんは、器用にペンを指先で回して頬杖をついてる。それにしても、可愛いなぁ。触りたい。おっぱいは小さいけど、可愛いな。声キレイだな。俺が見ていることに気づくと、紅音ちゃん視線をそらすの。顔が赤い。熱あるのかなっ!?



「カフェに固執しなくても、展示だって良いのですから」

「テンジ……。みんなで何かを作って発表するんでしょ。巨大なおっぱいを作って——」

「はぁ……白詰さんはどうやってコントロールしているんでしょう。とにかく、胸の話は忘れて下さい。まず、みんなで何かを作ると言っても、うちのクラスは出だしが遅くて、展示系のクラスは、すでに取り掛かっているくらいですから。急ピッチでやらないと失敗に終わるかもしれません」



 つまり、体験型とカフェ系。おばけ屋敷とカフェ。それにおっぱい。パンツも見れたらなおグッド。昨日のテレビでハロウィンのコスプレしている子かわいかったなー。パンツ見えそうなくらい短いスカート穿いて、胸の谷間もあった。あれ、紅音ちゃんがしてくれればいいのに。ん。すればいいじゃん。



「おばけ屋敷……とカフェ」

「え? 春彩さま、今なんて?」

「おばけ屋敷カフェ。モンバケ祭なら、オバケを推したいかなって。ハロウィン近いし」



 紅音ちゃんは、握りこぶしで手のひらを叩いた。何回も頷いて、「それですね!」って。ノートに書いたオバケ屋敷の下に、オバケ喫茶と書き込む。すると、シャーペンを止めて、すごい勢いで後ろを振り返った。首もげちゃうよ?



「ちょっと。そんなところから覗いても、バレバレですが。入ってきたらどうです?」

「紅音ちゃん誰と話してるの?」



 紅音ちゃんが振り向いたほうを見てみると……え。ま、茉莉何してるの。うちの学校のマスコット、タカネちゃんの描かれたダンボールから顔を出してる。しかも、絵がかなり雑。絵の具がタレちゃって、血を流したオバケにしか見えないよ。着物を着ているキャラクターだから余計に怖い。



「な、なに言ってるの。わたしは、タカネちゃん。茉莉って誰?」

「白詰茉莉なんて、私一言も言っていないんだけど?」

「茉莉……じゃなかったのかっ! ごめん」



 マジか。茉莉に似ているんだ。タカネちゃんって茉莉そっくり。タカネちゃんと紅音ちゃんは、俺を憐れむように見るの。紅音ちゃんはともかく、学校のマスコット、タカネちゃんまでそんな顔をするなんて。



「き、聞いて。タカネちゃん。俺はおっぱい喫茶がやりたいのに、紅音ちゃんがダメって言うんだ。タカネちゃんもおっぱい喫茶良いと思うよね?」

「……ワ、ワタシは……おっぱい良いと思うけど、幼馴染に怒られるんじゃないかな」

「そうかな。茉莉ならきっと、『春彩の思うようにやったらいいよっ』って応援してくれると思うのに。どこに行っちゃったんだろう」



 紅音ちゃんがタカネちゃんを睨んだ。咳払いなんかして、タカネちゃんは、顔のダンボールを邪魔そうに直すの。タカネちゃんって実在したんだ。ポスターの中でしか見たことないよ。



「タ、タカネ的には、おっぱい喫茶よりもオバケ喫茶のほうがすごく良い案だと思うっ」

「ええ。学校創立者の岩渕タカネも喜んでいることですし」

「そっかなぁ」



 モンバケ祭って、ところで文化祭とどう違うんだっけ。




 あれ……その前に、ブンカ祭ってなんだっけ。





——————

夜も更新致します。

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